UPDATE 2025.05.02
POST 2025.05.02
FXを始める際に戸惑いやすいのが特殊な用語です。「ショート」や「ロング」はその代表格といえるでしょう。ショートは通貨の売りポジションを持つことで、通貨の価値が下がると利益が出ます。反対にロングは通貨の買いポジションを持つことで、通貨の価値が上がると利益になる取引です。
本記事では、ショートとロングのより詳しい意味や、実取引における使い分けについて解説します。また、ショートとロングのどちらを選ぶか判断するためのファンダメンタルズ分析・テクニカル分析の基礎や、関連用語であるショートカバーやロング・ショート戦略についても解説します。
FXにおけるショートとはある通貨の売りポジションを持つことです。ロングとはある通貨の買いポジションを持つことです。
例えば、米ドル/円のショートとは、通貨ペア表記の左側(基軸通貨)の米ドルを売り、右側(決済通貨または相手通貨)の日本円を買って米ドルの売りポジション (円の買いポジションを) を持つことを指します。反対に、米ドル/円のロングとは、米ドルを買って日本円を売り米ドルの買いポジション (円の売りポジション)を持つことです。
ショートの場合は、価格が下がることを予想してドルを売ります。例えば、1ドル=150円の時にドルを売り、その後1ドル=140円に値下がりした時に決済すると、1ドル当たり10円分の利益を得られます。つまり、売った時よりも安く買い戻すことで利益を得る方法です。
ロングの場合は、価格が上がることを予想してドルを買います。例えば、1ドル=150円の時にドルを買い、その後1ドル=160円に値上がりした時に決済すれば、1ドル当たり10円分の利益が得られます。ロングは、買った時よりも高く売ることで利益を得る方法です。
ロングやショートに関連してポジションという用語も覚えておきましょう。ポジションとは建玉とも呼ばれ、現在保有している売りや買いの状態のことです。例えば、米ドル/円を買って保有している場合は、「ロングポジションを保有している」などと表現します。
ただし、ポジションは基軸通貨からみた相対的な状態に過ぎません。米ドル/円のロングポジション(米ドル買い)は日本円/米ドルのショートポジション(日本円売り)と同じ意味になります(相場の慣例上は米ドル/円が一般的で、通貨ペアとして円/米ドルは特殊なケースに限られます)。
ショート・ロングという呼び方の由来には2つの説があります。
1つ目は、ショートが株式市場の「空売り(Short Selling)」に由来する説です。空売りとは、株式をまだ持っていない状態で将来の値下がりを予想し、他人から株を借りて売却し、価格が下がった時に買い戻して利益を得る取引です。
この概念はFXにも取り入れられ、通貨が値下がりすると予想した際に売りポジションを持つことをショートと呼ぶようになりました。ショートの反対はロングですので、買いポジションがロングと呼ばれるようになったのです。
2つ目は、ショート・ロングの呼び方が、それぞれのポジションの保有期間からきているという説です。ショートポジションは保有期間が短く、ロングポジションは保有期間が長い傾向があるため、ショート・ロングと呼ばれるようになったとされます。
一般的に、通貨価値の上昇は経済の成長や安定を反映したものであり、長期間続く傾向があります。バブルのようなケースを除いて、通貨価値の上昇は堅調な右肩上がりで進み、相場の過熱は国や中央銀行の政策でコントロールされやすいからです。
一方、通貨価値の下落は、有事や巨大企業の倒産といったサプライズで引き起こされる場合があり、相場参加者のパニック売りやリスク回避の動きなどを招いて急落するケースが珍しくありません。しかし、中央銀行や政府の介入による政策対応が迅速に行われるため、下落は短期間で落ち着く傾向にあります。
こうした理由から、ショートポジションは保有期間が短く、ロングポジションは保有期間が長くなりやすい傾向があります。なお、このような上昇相場と下落相場の特徴は、米ドルのような国力が強い通貨で特に顕著です。
初心者にはロング中心で取引することを推奨します。ロングに向く上昇相場は緩やかに進む傾向があるため、素早い判断が不要でリスクが抑えられるからです。
しかし、ショートポジションを活用すれば、相場が下落する局面でも利益を狙えるようになり、トレードの幅を広げられるでしょう。下落相場は急な動きになる場合があり難易度は高めですが、短期間で大きな利益を得られる可能性もあります。
ここでは、初心者がショートとロングを使い分けるために知っておきたい各ポジションの特徴や基本的な戦略を解説します。
初心者には、概してロングが向いています。上昇相場では、短期的な底を予測したり、急激な値動きに飛び乗ったりする高度なスキルはあまり求められません。既に形成された上昇トレンドに沿ってロングポジションを保有することで、利益を狙えるからです。
特に、米ドルやユーロのような世界的に信頼される通貨は、上昇トレンドに入ると緩やかな上昇が続きやすく、比較的安定した環境での取引が可能です。これにより、初心者でもリスクを抑えながら利益を出しやすいトレードができます。
初心者に適した通貨ペアとしては、米ドル/円やユーロ/米ドルが挙げられます。これらの通貨ペアは、世界中で取引量が多く流動性が高いため、不規則な価格変動が少なく、初心者でも上昇トレンドを見つけやすいことがメリットです。
利益を出すチャンスを増やしたい方は、ロングだけでなくショートにもトライすると良いでしょう。FXは現物の株式などと違い、ショートとロングの両方で利益を狙うことが可能です。
下落相場において、ロングで利益を出すのは簡単ではありません。しかし、ショートなら下落相場のトレンドフォローによって利益を出しやすくなります。例えば、リーマンショックの後のように長期的な下落相場が発生した際には、ショートポジションを持つトレードが非常に有効でした。
ただし、先に説明したように、下落相場では、中央銀行の介入による急反発など、短期間で大きな値動きが発生する可能性に注意が必要です。短期的に大きな利益を得られる可能性がある反面、エントリーや決済のタイミングによっては、想定以上の損失が出る場合もあります。
FXではショートとロングが常に選べるため、かえって迷ってしまうものです。初心者のうちは、ショートとロングのいずれかの方向に絞ってから、注文を出すタイミングを計ることが重要です。
そのための判断方法は、大きく分けると、経済指標や金融政策等を分析する「ファンダメンタルズ分析」と、過去の価格変動や売買量のデータ等を分析する「テクニカル分析」に分けられます。各分析の特徴について解説します。
ファンダメンタルズとは、各国の経済状況や金融政策等を指し、通貨の価値に影響を与える主要な要因です。例えば、GDP成長率や雇用統計、金利政策、インフレ率、要人発言などが含まれます。これらの経済指標や金融政策等を分析して、将来の為替相場を予測する手法がファンダメンタルズ分析です。
例えば、アメリカが金利を上げると、米ドルの魅力が増して米ドル買いが進むため、米ドル/円の価格が上昇しやすくなります。一方、日本が金融緩和政策を続ける場合、日本円の価値が下がるため、米ドル/円の価格はさらに上がる可能性が高いでしょう。
こうした動きを把握し、トレードに活かすことがファンダメンタルズ分析の目的です。ファンダメンタルズ分析は、以下のような特徴があります。
経済指標や金融政策等の動向を分析し、長期的なトレンドを予測するため、安定したトレード戦略を構築しやすくなります。
経済指標(GDP、雇用統計、金利政策など)の発表日時や金融政策変更の可能性などを把握しておくことで、事前にポジションを調整できます。
ただ、ファンダメンタルズ分析だけでは、短期的な市場変動に対応するのは難しいので、スキャルピング(短時間で売買を繰り返す取引)やデイトレード(1日で売買を終わらせる取引)を行うには、ファンダメンタルズ分析だけでなく、次項で説明するテクニカル分析も活用すると良いでしょう。
テクニカル分析とは、過去の価格変動や売買量のデータ等を基に相場の動向を予測する手法です。FX会社が提供する取引ツールのチャートやインジケーター(移動平均線、RSI、MACDなど)を使い、売買のタイミングやトレンドの強弱を判断します。
ファンダメンタルズ分析が経済状況や金融政策等に注目するのに対し、テクニカル分析は価格そのものに注目し、変動パターンや規則性に基づいて分析するもので以下の点が特徴です。
テクニカル分析は、チャートを使って売買のタイミングを素早く判断できるため、デイトレードやスキャルピングにはなくてはならないものです。
価格そのものを分析するため、金融の知識が少ない初心者でも活用できます。チャートやインジケーターの見方を学べば、あらゆる通貨ペアで活用でき、また、FXだけでなく他の投資商品にも利用できます。
過去の価格変動に基づいて判断するため、長期的な相場予測には過去30年以上のチャートと専門知識を持ったアナリストが運用する分析システムが必要であり、個人投資家にとっては難しい面があります。
予想外のニュースや自然災害などで市場が混乱した際は、テクニカル分析が難しくなる場合がありますが、テクニカル分析は欠かせません。
初心者が知っておきたいテクニカル分析の基本は、トレンドを把握して、その方向に沿ってポジションを持つことです。このための方法として、ローソク足やトレンドライン、移動平均線などの基礎知識をご紹介します。
ローソク足は、始値(Open)、高値(High)、安値(Low)、終値(Close)の4つで構成されています。その意味をまとめたものが以下の表です。
意味 |
具体例 1時間足(9:00:00~9:59:59)の場合 |
|
---|---|---|
始値(Open) | 一定期間における最初の価格 | 9:00:00時点での価格 |
終値(Close) | 一定期間の最後の価格 | 9:59:59時点での価格 |
高値(High) | 一定の期間中に到達した最も高い価格 | 9:00:00~9:59:59での最高値 |
安値(Low) | 一定の期間中に到達した最も安い価格 | 9:00:00~9:59:59での最安値 |
始値よりも終値が高いローソク足は陽線と呼びます。始値よりも終値が安いローソク足は陰線です。
陽線は安く始まって高く終わったということですので、ローソク足1本の期間内で上昇したことを示します。反対に陰線は下落したことを示すローソク足です。平均的なローソク足に比べて高値~安値の幅が特に大きいものを、「大陽線」、「大陰線」といいます。大陽線と大陰線は、短期間で急激な上昇・下落が起こったことを反映しています。
そのため、上昇トレンドの調整局面(一時的な下落)で大陽線が出れば、上昇トレンドが再開される可能性が高く、ロングを検討できます。また、下落トレンドの調整局面(一時的な上昇)で大陰線が出れば下落トレンドが再開される可能性が高く、ショートを検討できます。
とてもシンプルな戦略ですが、トレンドに沿って利益を上げるために有効です。
トレンドラインもトレンドフォローをするために役立つ手法です。チャート上に、一定のルールに則って線を引くことで、トレンドの傾向を知ることができます。
トレンドラインを引くには、チャートの大きな流れの中で目立つ高値と安値を見つける必要があります。そのためには、ローソク足で視覚的に把握する方法や、ZigZagというインジケーターで判断する方法など、自分なりのルールを決めなければなりません。
次にトレンドを判定します。トレンド判定のルールは以下の通りです。
トレンド判定で上昇トレンドまたは下落トレンドが発生していた場合、トレンドラインが引けます。ルールは次の通りです。
トレンドラインは、ライン付近で調整が完了し、傾きの方向に再び価格が動きだすであろうことを示します。したがって、有効な戦略は次の通りです。
この戦略が有効な理由は、ポジションを持った後にトレンド方向に動く可能性が高いからです。また、トレンドラインを割り込んでトレンド継続が疑わしくなった時や、直近の高値・安値を超えてトレンドレスに移行した時点で損切りを行えば、損失を最小限に抑えることができます。
トレンドを把握したり、注文のタイミングを計ったりするためには、各種のインジケーターを用いるのも有効です。中でも、移動平均線とボリンジャーバンドは多くの取引ツールで利用でき、視覚的にも理解しやすいことから、初心者にも適しています。
移動平均線は、複数のローソク足の終値を平均してグラフ化したものです。日足では、5日間平均をグラフにした5日線や、25日間平均をグラフにした25日線がよく使われます。同様に、週足では13週線と26週線が一般的です。
2本の移動平均線を合わせて見ることで、有名なシグナルであるゴールデンクロスとデッドクロスを確認できます。意味と使い方は次の通りです。
意味 | 売買行動 | |
---|---|---|
ゴールデンクロス | 短期線が長期線を下から上へ突き抜ける | 価格上昇のサインとみてロングにする、またはロング目線に切り替える |
デッドクロス | 短期線が長期線を上から下へ突き抜ける | 価格下落のサインとみてショートにする、またはショート目線に切り替える |
また、ボリンジャーバンドは、中心に移動平均線が描画され、その上下に±2σ(標準偏差)のラインが引かれたものです。±2σのラインは、移動平均線の設定期間における価格変動に基づいて、2本のラインがなすバンドの中に価格が収まる確率が95%になるよう描画されます。
トレンドが発生するとバンド幅が広がり、±2σのライン上で価格が推移するバンドウォークという現象がしばしば起こります。+2σでバンドウォークが発生したらロング、-2σでバンドウォークが発生したらショートを狙うのが基本です。
ダマシとは、テクニカル分析のシグナルが発生したにもかかわらず、相場がその予測と反対に動いてしまう現象です。テクニカル分析では、インジケーターやチャートパターンに基づいて取引しますが、この分析結果にだまされることからダマシと呼ばれます。
典型的なダマシのパターンにブレイクアウト失敗があります。ブレイクアウトとは、目立つ高値を上に抜けたり、安値を下に抜けたりすることです(画像の◯印)。
ブレイクアウト戦略では、高値ブレイクでロング、安値ブレイクでショートします。しかし、ブレイクアウト後に逆方向に大きく反転するダマシにあうケースは決して珍しくありません。
ダマシを減らすために、慎重なトレーダーはブレイクアウト後の調整を待って注文を出したり、複数のインジケーターを組み合わせて分析精度を高めたりしています。
ショート・ロングと関連する用語として、ショートカバーがあります。
ショートカバーは、ショートポジションを持った相場参加者の手仕舞い(買い戻し)のことです。
次に詳しく解説します。
ショートカバーとは、ショートポジションを持っている相場参加者が、そのポジションを解消するために買い戻す行為です。市場に売り圧力が強まるとショートポジションが増え、一時的に価格が下がることがありますが、ショートカバーが始まるとその圧力が弱まり、逆に買いが優勢となる転換が起こる場合があります。
特に機関投資家は大量の資金を動かすため、彼らがショートカバーを行うと、相場に大きな影響を与えるケースが少なくありません。大規模なショートカバーが発生すると価格が急上昇し、これに焦った他の参加者がショートカバーを始めると、さらなる相場の上昇を引き起こすことがあるからです。
機関投資家が一気にショートカバーした際は、需給バランスが崩れるため、スプレッド(売値と買値の差)が一時的に拡大することがあります。特に流動性が低い時間帯や市場が薄い状況では、スプレッドが広がり、コストが高くなる可能性があります。こうしたリスクを避けるためにも、スプレッドが狭く安定しているFX会社を選ぶことが重要です。
FX取引においてロングは通貨の買いポジションを持つことで、価格が上昇すると利益が出ます。一方、ショートは通貨の売りポジションを持つことで、価格が下落すると利益を得られます。
ロングやショートの意味を理解することは、FX取引の重要な第一歩です。また、ロングから入るかショートから入るかなどの高度な判断は、少額から取引を始め、取引の経験を積むことで徐々に身につくでしょう。
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この記事を監修した人
SBIリクイディティ・マーケット株式会社
金融市場調査部長
上田眞理人