米雇用統計特別レポート

掲載日:2018年10月09日

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2018年9月米雇用統計(10月5日発表)結果

前回値 予想 結果
非農業部門就業者数(万人) 20.1万人増⇒27.0万人増 18.5万人増 13.4万人増
失業率(%) 3.9% 3.8% 3.7%
時間給賃金(前月比) 0.4%⇒0.3% 0.3% 0.3%
時間制給賃金(前年比) 2.9% 2.8% 2.8%

9月雇用統計のポイント

・失業率は3.7%へ改善、48年9ヶ月ぶりの低水準。労働市場の堅調地合いを確認

・米10年債利回りは2011年5月以来となる3.246%へ上昇、NY株式市場は調整売り

・就業者数は13.4万人と予想を下回った一方、直近2ヶ月分で8.7万人上方修正

・ハリケーンの影響による就業不能就業者数が平均の3.5倍、就業者数は良好継続

・製造業の就業者数も前月(0.3万人減から0.5万人増へ修正)から1.8万人増へ改善

パウエルFRB議長

パウエルFRB議長は8月のジャクソンホールでの講演で「米国経済が強く、段階的な利上げが必要」との考えを示した一方、「米国経済が過熱している兆候は見られない」との認識を示していました。しかし、米8月雇用統計で時間給賃金が上昇していることが確認されたことに続き、今週13日に発表される米8月消費者物価指数(コア前年比)が 予想通り+2.4%となればFRBの掲げる物価目標(+2.0%)を今年3月以来6ヵ月連続で上回ることとなり、米10年債利回りが再び3.0%台を回復する可能性もあります。FRBの利上げペースが加速するのか、今後発表される米インフレ指標と米債券市場の動向が注目されます。

1960年台後半以来の低失業率の意味するもの

9月の非農業部門就業者数は予想(18.5万人増)を下回る13.4万人増に留まったものの、就業者数の伸び悩みにはハリケーン「フローレンス」による就業不能就業者の増加が影響した可能性が高いと言われています。一方、失業率は3.7%と予想(3.8%)以上に労働市場の改善が進んでおり、米企業の採用難を示す結果となったといえそうです。1960年台のインフレ率を振り返ると60年台前半こそ低水準の状況が続いていたものの、60年台半ば以降、賃金と物価が上向きはじめ、インフレ率は1965年終盤の1.9%から1969年終盤には5.9%まで上昇しました。当時のFRBは予防的インフレに備えて早期に金融引締めを行っておらず、急激にインフレ率が上昇した1969年に翌日物金利を6.0%から9.0%へ引上げました。こうした対応に株式市場は大幅安となるなど米国経済はリセッション入りを余儀なくされることとなりました。こうしたインフレ対応の遅れが景気後退を招く結果となった教訓は現在のFRBの金融政策に活かされており、市場では来年にかけて現行の利上げペース継続が見込まれています。こうしたことが米長期金利の上昇に影響していると思われます。失業率は昨年9月の4.2%から今年9月の3.7%へ低下、仮に1年後に0.5%低下の3.2%へ低下した場合、FRBの対応はどうなるだろうか?減税政策や政府支出拡大の恩恵がまだ経済に行き渡る中、投資家はFRBが金融引き締めペースを加速させる可能性を考え始める可能性に備える必要があるのかもしれません。

米非農業部門就業者数(万人) 失業率(%)

米非農業部門就業者数(万人) 失業率(%)

時間給賃金は年末に向けて上昇?

米国経済が好調に推移する中、11月の感謝祭明け以降、クリスマスへの年末商戦に向けて深刻な人手不足が生じる可能性が懸念されています。こうした動きに備えて、ネット通販最大手のアマゾンでは11月以降、従業員の最低賃金を持久15㌦(約1700円)に引き上げることを決定しました。既に雇用している25万人のみならず、年末商戦に向けて新たに短期雇用予定10万人も対象にするとのこと。こうした先手を打つ対応策を見ても、労働市場での企業の採用難の動きを象徴する動きかもしれません。当然のことながら人手不足解消のために、他の企業も追随する動きとなれば全体的な賃金増加につながると予想されます。一部の人材派遣会社では25セントから1ドルほどの時間給賃金の上昇でおよそ40%の労働者が職を変わってしまうといわれているだけに、企業の人材確保の動きが加速すると予想される年末に向けて賃金は一段と上昇する傾向にあるといえそうです。

米時間給賃金 前年比(%) 前月比(%)

米時間給賃金 前年比(%) 前月比(%)

米10年債利回りは3.5%を上回る上昇となるかポイントに!?

米10年債利回りは3.246%まで上昇し、2011年5月以来の高水準となりました。こうした動きが嫌気されNY株式市場の強気相場が今後も継続するのか、市場では懸念する見方が聞かれるなど疑問符が点りはじめたと見られています。もともと、10年債利回りは企業や政府の借入コスト、さらには消費者の住宅や自動車ローンなどのコストを算出するベンチマークの一つとなります。堅調な経済を反映してNYダウは先週10月3日に26,828ドルの史上最高値を更新しました。しかし、今後も米長期債利回りの上昇が続けば、リスク資産の保有を減らすなどの動きに転じる可能性もあり、行き過ぎた金利上昇が株式市場の調整を招くことで景気拡大ペースの鈍化につながる可能性も否定できません。過去のデータを見ると一般的に米10年債利回りが5.0%を上回ると株式市場の転換点につながると言われてきたものの、量的緩和を含めおよそ10年続いた金融緩和政策の後の金利上昇サイクルはこれまでの事例があてはまりにくく、3.5%が目安になるとの分析も聞かれています。大手米系証券は2019年末まであと5回の利上げを実施するとみており、これにあてはめると米10年債利回りはいずれ3.4%は上昇するとの予想を公表しました。今週には米大手金融機関をはじめ7-9月期の企業決算の発表が始まります。減税効果や株式市場上昇による配当増など個人消費も堅調に推移しており、金利上昇が企業業績に及ぼす影響を見極める段階に入りつつあるのかもしれません。果たして今週発表される米消費者物価指数などのインフレ指標によって一段の金利上昇につながるのか債券市場の動向が注目されます。

雇用統計を前後したドル円の動き

雇用統計を前後したドル円の動き

提供:SBIリクイディティ・マーケット株式会社

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