UPDATE 2024.12.26
POST 2020.07.17
FXは、少額の資金で大きな利益を狙える魅力的な投資ですが、同時に損失のリスクも伴います。そんなFXのリスクからあなたを守るのが「ロスカット」という仕組みです。
この記事では、FX初心者の方でも理解しやすいように、ロスカットの仕組みや計算方法、そして取引をする上で覚えておきたい注意点をわかりやすく解説します。FXで安全な資金を運用するためにも、ロスカットについての理解を深めていきましょう。
FX取引では、一定の損失が発生した場合にポジションが強制的に決済される仕組みがあり「ロスカット」といいます。ポジションとは、FX取引において新規に買い注文または売り注文を出して、決済せずに保有している通貨ペアのことを指します。
FXでは、レバレッジによって少額のお金(以下、預託金残高)で多くのポジションを持つことができますが、予想に反して市場が不利な方向に動いた場合、何も対応しないと大きな損失を被ることになります。
ロスカットはそれを防ぐため、リスク管理ルールの一つとして使用される安全装置のような機能です。トレーダーが予想外の大きな損失を被らないようにするための重要なルールです。
ロスカットと混同されがちな言葉に「損切り」があります。どちらも大きな損失を守るための仕組みですが、ロスカットはFX会社がルールに基づいて行う決済であり、損切りは投資家自身が判断して行う決済です。
いずれにせよ損失は確定しますが、損切りは自分でルールやタイミングを決めることができるというメリットがあります。一方で、自身の判断により大きな損失を被る可能性もあるため、状況によって使い分けることが大切です。
ロスカットには基準値があり、一般的には「証拠金維持率(しょうこきんいじりつ)」が用いられます。証拠金維持率は、以下の式で計算できます。
証拠金維持率=(資産評価額÷取引必要証拠金)×100
資産評価額とは口座に預けてある総資産の評価額、取引必要証拠金とは現在の保有しているポジションに対してかかっている証拠金のことです。
SBI FXトレードの場合、原則20秒ごとに証拠金維持率が判定され、口座全体の証拠金維持率が50%を下回るとロスカットが発動します。また、「ロスカットアラート」という仕組みもあり、ロスカット水準に近づくとメールおよび管理画面で通知されます。基本的にアラートは、1営業日につき1回になります。
ここで、FX取引におけるロスカットのルールについて説明します。
SBI FXトレードのロスカットは、原則として20秒ごとにロスカット判定を行い、口座全体の証拠金維持率が50%を下回った場合にロスカットが発動します。一方、「つみたて外貨」では、60秒ごとにロスカット判定を行い、口座全体の証拠金維持率が30%を下回った場合にロスカットが発動します。
取引種別 | ロスカットライン | 判定する時間 |
---|---|---|
FX | 証拠金維持率50%を下回る | 20秒ごと |
つみたて外資 | 証拠金維持率30%を下回る | 60秒ごと |
証拠金維持率がロスカットラインを下回った場合、すべてのポジションが強制的に決済され、発注中および待機中の注文はすべてキャンセルされます。
ロスカットが発動するかどうかは、状況によって異なります。ここでは、一般的なケースを例に挙げて説明します。
まずは、証拠金維持率を計算してみましょう。
例えば、預託金残高が1,500円、米ドル/円の取引で1ドル=150円のときに、レバレッジ25倍、250通貨の買いポジションが約定し、保有していると仮定します。2つの通貨間の金利差調整分であるスワップポイントは、ここでは考慮しません。
はじめに、1ドルあたりの必要証拠金を計算します。
150円(基準価格)÷25(レバレッジ)=6円(1ドルあたりの必要証拠金)
次に、取引必要証拠金を求めます。
6円(1ドルあたりの必要証拠金)×250(ポジションの数量)=1,500円(取引必要証拠金)
損益評価額を計算します。
0円(値動き:ここでは変動なし)×250(数量)+0(累計スワップポイント:ここでは考慮しない)=0円(損益評価額)
資産評価額を計算します。
1,500円(預託金残高)+0円(損益評価額)-出金依頼額(今回は出金依頼額を考慮しない)=1,500円(資産評価額)
最後に証拠金維持率を計算します。
1,500円(資産評価額)÷1,500円(取引必要証拠金)×100=(証拠金維持率100%)
この場合は証拠金維持率が100%のため、ロスカットは発生しません。
それでは、SBI FXトレードにおいてはどのくらいになればロスカットが発動するかをシミュレーションしてみましょう。今度は1ドル=147円となった場合をみていきます。
147円(現在価格)-150円(約定価格)=-3円(値動き)
-3円(値動き)×250(数量)=-750円(評価損益)
1,500円(預託金残高)-750円(評価損益)=750円(資産評価額)
750円(資産評価額)÷1,500円(取引必要証拠金)×100=50%(証拠金維持率)
1ドル=147円を下回ると証拠金維持率も50%を割れますので、ロスカットが発動します。
同じ資産や同じ価格でも、保有するポジション数や預託金残高によっては、ロスカットが発生しないケースもあります。
例えば、資産評価額が1,500円、1ドル=150円で200通貨の買いポジションを持っている場合、次のようになります。
はじめに、1ドルあたりの必要証拠金を計算します。
150円(基準価格)÷25(レバレッジ)=6円(1ドルあたりの必要証拠金)
次に、取引必要証拠金を求めます。
6円(1ドルあたりの必要証拠金)×200(ポジションの数量)=1,200円(取引必要証拠金)
1,500円(資産評価額)÷1,200円(取引必要証拠金)×100=125%(証拠金維持率)
1ドル=147円になった場合は、以下の通りです。
147円(現在価格)-150円(約定価格)=-3円(値動き)
-3円(値動き)×200(数量)=-600円(評価損益)
1,500円(預託金残高)-600円(評価損益)=900円(資産評価額)
900円(資産評価額)÷1,500円(取引必要証拠金)×100=60%(証拠金維持率)
1ドル=147円になっても証拠金維持率は60%となり、ロスカットは発動しません。
これらは目安で、ポジション数だけでなくレバレッジや証拠金残高などもロスカットの発動条件に影響します。さらに、約定価格の変動やスワップポイントなどで計算は複雑化するので、まずは正しい知識を身につけることが大切です。
ロスカットはFX取引における重要なリスク管理機能ですが、必ずしも万全なシステムではありません。ここでは、ロスカットに関連する注意点について見ていきましょう。
ロスカットはシステムが自動で判断し、一定の条件に達した際に強制決済を行います。しかし、社会情勢の急激な変化により短時間で相場が大幅に変動した場合、システム処理が追いつかず、ロスカットが間に合わないケースもあります。
特に、夜間や早朝など市場参加者が少ない時間帯や、新興国通貨など流動性の低い通貨ペアでは、不利な価格で約定してしまうケースも少なくありません。ロスカットが間に合わない場合、預けた証拠金を超える損失を被る可能性があるため、十分な注意が必要です。
FXは、土日に取引が行われないため、金曜日に含み損を抱えたポジションを持ち越しても、ロスカットは発動しません。しかし、週明けの月曜日に取引が開始されると同時に、ロスカット判定が行われます。
特に、週末に重大な経済ニュースが発表された場合、金曜日の終値と月曜日の始値の間に、大きな価格差が生じる「窓開け」が発生することがあります。
このような市場の変動を見逃し、適切な対応を怠ると、想定以上に損失が広がる可能性も考えられるため、あらかじめ損切りラインを設定しておくことが重要です。
ここでは、ロスカットを避けるための具体的な対策について説明します。
事前対応策として、追加入金により資産評価額を増やしておく方法があります。
証拠金維持率が50%を下回ると、ロスカットが発動し強制的にポジションが決済されてしまいます。しかし、事前に追加入金することで資産評価額を引き上げ、ロスカットを回避することが可能です。
損失が一時的なものである場合、資産評価額を増やすことにより市場の回復を待つこともできます。
複数のポジションを保有している場合は、損失が拡大する前に一部のポジションを決済する方法もあります。それにより取引必要証拠金が減り、ロスカット発動を抑えることが可能です。
ただし、ポジションの一部決済は損失を確定させてしまうため、その後の相場動向によっては引き続きロスカットのリスクが残ります。ポジション管理には十分な注意が必要です。
損失を最小限に抑える方法として、ロスカット前に損切りを行うのも有効な手段です。預託金の追加やポジションの一部決済などはあくまでも一時的な対策にすぎず、相場が悪化すれば含み損がさらに拡大する可能性が高く、最終的には損失が避けられない場合もあります。
そのため、「○○になったら損切りする」といったルールを事前に設定しておくと良いでしょう。
損切りの際には「2%ルール」を活用するのがおすすめです。1回の取引で被る損失額を、運用資金の2%以内に抑えるというリスク管理方法です。例えば、100万円の資金で取引している場合、1回の取引で最大損失を2万円までに限定することで、損失を抑えることができます。
ロスカットは、大きな損失を防ぐために強制的にポジションを決済する仕組みのため投資家の資産を保護することになります。とはいえ、FXは相場の動向をしっかりと把握して適切な戦略を立てることが重要です。無理のない取引を心がけましょう。
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この記事を監修した人
SBIリクイディティ・マーケット株式会社
金融市場調査部長
上田眞理人