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特別レポートいよいよ11月5日のアメリカ大統領選挙が18日後に迫ってきた。
バイデン大統領が戦線から撤退、ハリス副大統領が候補となった。ハリス候補は、9月10日にバイデン大統領撤退のきっかけとなったTV討論会でトランプ候補と対峙、ハリス候補が勝利したと評価されその支持率を伸ばしたが、ここに来てやや減速気味であり、トランプ候補が挽回しているようである。10月17日現在の世論調査 (RealClear Politics) によると、ハリス候補49.2%、トランプ候補47.7%と両候補の支持率は依然拮抗している。また、激戦州 (swing state) 7州では下表のとおりすべての州でトランプ候補がリードしているものの、その差は「誤差の範囲内」と言ってよく、正に「激戦」が続いており、ハリス、トランプいずれの候補が勝つのか全く見通せない状況が続いている。
Data: RealClear Politics HP (現地10月17日時点)
トランプ候補が掲げる「全輸入品への一律10%の関税」、「中国に対する輸入関税を60%へ引き上げ」、「移民に対する不寛容政策」などは、実行されれば、インフレが再燃する虞があり、さらに、「いわゆる『トランプ減税』の恒久化」に加え、「法人税率の引き下げ」なども財政赤字の大幅な拡大をもたらすことから、長期金利が上昇するリスクが高まり、9月に利下げへ舵を切ったFRBが2つの責務の狭間で思い悩むことになるかもしれない。
一方、ハリス候補は、「一律関税には反対」、「中国に対する輸入関税は現状維持」、「移民の合法化」を主張している。ただ、「住宅促進策、子供税額控除、医療費支援」などの中間層支援策を打ち出しており、その財源を「法人税引き上げ」、「ビリオネア税」に求めると思われるが、中間層支援策の遂行は、トランプ候補の政策ほどの規模ではないものの、やはり財政赤字の拡大を通じて長期金利の上昇を招くリスクがある。
しかし、忘れてはならないのは、※ねじれ議会となった場合には、両候補の政策遂行自体が危ぶまれる状況に陥る可能性があるということである。大統領選挙と同時に行われる議会選挙は、現時点では、民主党が多数の上院は共和党が優勢であり、共和党が多数の下院は両党が拮抗している。過去は、大統領選挙に勝利した政党が下院も勝利する傾向が強く、トランプ候補が勝利した場合は、おそらく両院とも共和党が多数派となる「トリプルレッド」となる可能性が高いため、トランプ候補にとって、大統領就任後の政策遂行へのハードルは比較的低いと思われる。一方、ハリス候補が当選した場合、下院で多数派を奪還したとしても、上院は共和党が多数派となる可能性が高く、政策遂行には困難が伴うことが想定される。
いずれにしても、現時点では、どちらの候補が勝つかわからず、勝利した候補が円滑に政策を遂行できるかも不確実な状況においては、為替相場の行く末を見通すのは困難と言わざるを得ない。ただ、トランプ候補が勝利した場合、ごく短期的には、米国長期金利の上昇を受け中々縮小しない日米金利差にドル円が上昇、経済政策への期待感から株価も上昇するかもしれない。しかし、FRBの利下げペースが鈍化、あるいは再利上げが必要な状況になれば、米国経済が急速に減速する可能性も高くなり、ドル安・株安につながりかねないリスクを孕んでいるとも言えよう。
ハリス候補が勝利した場合は、FRBの利下げが粛々と行われるという見通しのもと、米国経済のソフトランディングへの期待が高まり、米国経済の先行きの不確実性が低下するなか、日銀も追加利上げに動きやすい環境となることから、穏やかなドル安・円高が進むと思われる。
最後に一つ、トランプ候補が敗れた場合、敗戦を認めず、前回のようにトランプ候補の支持者が暴走するような事態を招くことが最大のリスク要因であることを心に留めておいたほうがよいだろう。
※ねじれ議会とは、議会 (上院、下院のいずれか、あるいは上下両院)の多数派政党が、大統領の所属する政党と異なる状況
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