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ジョセフ・クラフト 特別レポート

① オウンゴールで暗礁に乗り上げるコロナ経済対策 ~ 民主党で権力を振るうもう一人のジョー

掲載日:2021年02月02日

上院の50対50の議席構図では、政権の政策を通すのに、一人の民主党員を欠かすことが出来ないことは小学生でも分かる。バイデン大統領は就任演説で統一、結束、統一そして超党派について力説した。ならば、ホワイトハウスは何故重要な民主党議員を怒らせ、孤立させるような凡ミスを犯したのか?おかけでバイデン大統領が熱望する1.9兆ドルのコロナ経済対策が暗礁に乗りかけてしまっている。

ウェスト・バージニア州はリベラルと保守思想が混合する複雑な州。その象徴として、同州知事のジム・ジャスティスは2017年に民主党から立候補そして当選するも、同年の8月には共和党に鞍替えた。同州の民主党上院議員であるジョー・マンチン氏は、銃規制や中絶反対など民主党の中核政策に反対あるいは距離を置いている。つまり、一人も失えない上院の構図でマンチン議員はバイデン政権のキャスティング・ボートを握っており、ワシントン政界では「最も権力を持つもう一人のジョー」と皮肉を込めて言われている。

マンチン議員を取り込まなければいけないホワイトハウスが真逆の行動に出たことに現地では驚きと共に首を傾げている。マンチン議員は、1.9兆ドルの経済対策を多少減額しても共和党と協議し、超党派の法案を構築すべきと指摘。ところが金曜日にカマラ・ハリス副大統領がマンチン氏に断りも無く、地元テレビ局の番組に出演、1.9兆ドル対策への賛同を州民に呼びかけたのである(下記写真参照)。これには当然マンチン議員は激怒、同テレビ局で反論。共和対民主の戦いが突如民主対民主の戦いに発展。これで一気に形成が変わり、バイデン政権は不利な立場に立たされ、実に信じがたい凡ミスとしか言いようがない。

民主党内の分裂を待っていたかのように10名の共和党議員が新たなコロナ経済対策案を提示、ジョー・マンチン議員も賛同の意向を示している。同対策の中身は明らかでないが、ワシントン・ポスト曰く1.9兆ドルから6,000憶ドルへ大幅減額。ディーズ国家経済委員長(NEC)は前向きに考慮すると言わざるを得ない立場に追い込まれた。実際の額は別として既に減額ムードが定着しつつあり、バイデン政権としては居たいオウンゴールとなりそうだ。この動きに当然左派勢力は反発、バーニー・サンダーズ議員は、「超党派法案の作成よりもただちに救済支援が必要」と原案の採択を求めている。政策の1丁目1番地であるコロナ対策で早くも躓いてしまったバイデン政権。たかがジョー、されどジョー、世の中のジョーを軽く見てもらっては困る・・・By ジョー・クラフト。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

② ホワイトハウスが悩むGameStop騒動 ~ イエレン財務長官の報酬が物議

ビデオゲーム販売のゲームストップ株を巡って個人投資家対ヘッジファンドの攻防が株式市場全体の乱高下にまで発展してアメリカでは大きな話題となっている。実態は別として、多額の資金と権力を振るうウォール街に個人投資家が対抗する構図は「経済・金融格差」の象徴となっている。そこで格差是正が至上命題であるイエレン財務長官、取り分け彼女の過去の報酬が物議を醸している。

ご存じの無い方のために、一部のヘッジファンドがGameStopを筆頭に数社株の空売り業務を行っている。そこにSNSを通じて個人投資家が集まり、空売り対象の株を買い上げている。そこに若者に人気が高いテスラ社のElon Musk、バスケチームのゴールデン・ステート・ウォリアーズのオーナーあるいは人気俳優のクリスチャン・ベール氏などが賛同して個人投資家を煽り、拍車がかかってしまった。「悪のウォール街対正義の個人投資家」の構図が出来上がったのだ。その悪の象徴が空売りファンドのMelvin Capital。同ファンドはゲームストップ株の高騰により多額の損失を被り、破綻の危機に直面。そこにPoint 72とCitadelの二つのヘッジファンドが28億ドル(約3,000憶円)の救済支援に乗り出した。そこで、悪役がMelvin CapitalからPoint 72とCitadelに変わったのである。

そしてジャネット・イエレン財務長官が浮上する。イエレン女史はFRBを退社した2018年から2020年の間で金融機関や投資ファンドから講演料として720万ドル(約7憶5,000万円)を受け取っている。物議を醸しているのが、そのうちの約1割である81万ドル(8,500万円)をCitadel社からの報酬が占める。勘違いの無いように、これらの報酬は合法であり、イエレン女史は申告もしていて、違法行為は無い。イエレン女史のキャリアそして個人の資質からしても不正行為の可能性は無い。

ただ、格差是正を命じられている財務長官がウォール街から多額の報酬を受けて職務を果たせるのか疑問視する声もある。CNNやNYTの左派メディアは取り上げていないので日本ではほとんど放送されていない。実は29日の金曜日に財務長官はホワイトハウスを訪問、バイデン大統領と会談、定例記者会見で報道陣から、ゲームストップ問題を議論しているのかと問われたサキ報道官はコメントを避けた。更にゲームストップ問題と株価の乱高下について聞かれ、報道官はSEC(証券取引委員会)の正式コメントを見るようにとのコメントに止めた。ホワイトハウス報道室がここまで黙り込むのは異例であり、明らかにナーバスになっている象徴である。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

③ 「戦略的忍耐」発言の真意は対中政策構築までの時間稼ぎ ~ サキ報道官の記者会見をひも解く

1月25日の定例記者会見でサキ報道官は中国との高まる競争関係を問われ、「戦略的忍耐を持って問題に取り組む」とコメントした。予てからバイデン政権は、オバマ時代の閣僚で構成されその外交DNAの大部分を継承、対中そしてアジア外交はより消極姿勢・事なかれ主義と指摘させていただいた。それでも反中議会と世論に引っ張られ、一定の強硬姿勢を見せる必要があり、「戦略的忍耐」という言葉自体に言及したのは以外だった。そのサキ報道官の発言に関して間違った見解があると思われ、僭越ながら三つの誤解を取り上げてみたい: ①失言との誤解、②バイデン政権は対中強硬姿勢の誤解、そして③サキ発言の真意・意味の誤解。

誤解① 失言 ~ サキ報道官は、ホワイトハウス広報副部長(2009~2011)、国務省のスポークスマン(2013~2015)そして広報部長(2015~2017)を務めて来たベテラン。彼女は、「戦略的忍耐」が遂行された真っ只中に居て、発言の重みは誰よりも理解している。更に政権就任直後で躓きたくない、ホワイトハウス報道室はコメントに細心の注意を払っているはず。ベテラン報道官の軽はずみな失言とは考え難い。本当に失言であれば、同日あるいは翌日に訂正が発表されるものだが、一切無い。更に当日は中国に関して一定の関心・意識がされていたようだ。25日の午前11:30から大統領、副大統領、国防長官そして総合参謀本部執行部への安全保障ブリーフィングが行われ、サキ報道官も出席したとの認識している(この時、ブリンケン氏はまだ承認されていなかったので欠席)。ブリーフィングのメイン・テーマは、トランスジェンダーによる米軍への入隊を再び認める大統領令だったが、中東情そして中国についても報告があったと理解している。取り分け午後3:45から「アメリカ製造業の再生"Made in America"」についてバイデン大統領による記者会見が予定されており、当然中国の存在・脅威について記者団からの質問が想定される。サキ報道官の定例記者会見は午後1:00でその後のバイデン会見についても事前に紹介されている。同日の日程からして、中国への姿勢・戦略に関して意識が無かったとは到底言い難い。

誤解② バイデン政権は対中強硬姿勢 ~ ある評論家はバイデン政権がトランプ政権よりも対中強硬姿勢との見解に驚いた、ところが似た考えを持つ専門家とメディアは少なくないようだ。その理由には議会とバイデン政権の対中姿勢を混同・勘違いしているのではないか?いやいや、ブリンケン次期国務長官は上院公聴会で「(中国は)最重要課題だ」と表明、イエレン財務長官も「中国の不正行為は脅威」と断言しているではないかとの指摘がある。無論、誰が見ても中国は重要課題である。しかし、指名承認公聴会での閣僚の対中発言の趣旨は反中議員の質問への迎合的な意味合いが強いことを理解しなければいけない。議会だけでなく、世論も戦後最も反中に傾いている現状で、承認を得ようとする閣僚候補が中国寛容発言を行うことに何らメリットは無い、少なくともブリンケンとイエレンはそんなバカじゃない。同時に彼らの証言はウソでも無く、適切なコメントだと考える。だからと言ってバイデン政権がトランプ政権より対中強硬姿勢とは限らない。もしそうであればサキ報道官のコメントは重大な失言である。

誤解③ 発言の本質・真意 ~ サキ報道官の発言は間違いでなくとも、オバマ時代の「戦略的忍耐」とは多少意味合いが違うようだ。それは時間軸・タイムライン。そもそも「閃絡的忍耐」とは経済・政治圧力をかけて中長期的な展望で相手が根負けするのを待つ戦略。サキ報道官の真意は、現在具体的な対中政策が無く、新たな戦略が構築されるまでの(短期)間、「戦略的忍耐」で取り組むということのようだ。むしろ「対中無策」という発言の方が「戦略的忍耐」よりも遥かに問題ではないだろうか?サキ報道官の真意を理解するには「戦略的忍耐」に言及した文だけでなく、その後の発言も一緒に考慮しないといけない(下記「B」、「C」と「E」参照)。

そこで、1月25日の定例記者会見での中国に関する主要コメントを下記に紹介・解析したい。

A)「I think our approach to China remains what it has been since -- for the last months, if not longer. (我々の中国へのアプローチはこの数か月あるいはそれ以上と変わらない。)」 ~ このコメントは、トランプ政権に取って代わる政策が無いあるいは(トランプ制裁によって)対中外交の選択肢が狭いか手足が縛られていることを意味すると思う。中国が最重要課題・脅威であるならば、あまり危機感あるいは独自色を出したい意図が感じられない発言。更に文章的に、「I think」で始めるのは不安・不確実性を表しており、政権内で今後の道筋・戦略が練られていないことが示唆される。

B)「What we've seen over the last few years is China is growing more authoritarian at home, and more assertive abroad, and Beijing is now challenging our security, prosperity and values in significant ways that require a new US approach. We want to approach this with some strategic patience.(ここ数年、中国は国内でより権威主義的になり、国外ではより自己主張を強めている。中国政府は(米国の)安全保障、繁栄、価値観において大きな挑戦を挑んでおり、新たなアプローチが必要だ。われわれは戦略的な忍耐を持ってこの問題に取り組みたい。)」 ~ この文では、「...require a new US approach.」の後に「strategic patience」と続けるので、新たなアプローチが戦略的忍耐と誤解し易い。実は「new approach」は今後模索するもので、戦略的忍耐を指していない。この趣旨は、下記の"C"と"E"を読むと意図・繋がりが見えて来る。

C)「We wanted to engage more with Republicans and Democrats in Congress to discuss the path forward. And most importantly, we want to discuss this with our allies. (我々は議会の共和党と民主党員と共に今後の道筋を築きたい。それ以上に同盟国とも協議したい。)」 ~ ここでの「discuss」は「根回し」を意味。議論を重ね、議会と同盟国らと共有出来る対中戦略を構築していきたい、護送船団姿勢。実に時間がかかるプロセス、最重要課題・脅威にしては落ち着いてる・・・。

D)「Our view -- the President's view is we need to play a better defense, which must include holding China accountable for its unfair and illegal practices and making sure that American technologies aren't facilitating China's military buildup.(我々の見解、大統領の見解は、より良い防御策が必要で、それは中国の不正行為の責任を負わせることも含み、アメリカの技術が中国軍の増強に寄与していないことを確認する必要がる。)」 ~ 攻撃は最大の防御ということわざがあるが、バイデン政権にとって防御が最大の攻撃らしい。これって危機意識の剥落?それとも単なる弱腰?

E)「We need a comprehensive strategy...I don't have more for you on it.(我々は(中国に対して)包括的な戦略が必要・・・現在、これ以上の情報は無い。)」 ~ 記者会見の最後にオチが分かる。要は、現状対中政策は無い、以上。恥ずかしいが実に正直なコメント。従って議会と同盟国と協議を通じて戦略を模索する。それまでは「戦略的忍耐」で対応する。

④ 対中融和姿勢① ~ 国務省ホームページ重要政策事項から何故「中国脅威」を削除?

報道官コメント以外にもバイデン政権の対中強硬姿勢の緩和が示唆される。国務省のホームページに重要政策が明記されているのだが、バイデン政権就任直後に内容が修正されたことは注目に値する。トランプ政権では23項目の政策が明記されていたが、バイデン政権は6項目削減して17項目となった。削減された政策6項目とは: ①5Gセクリティ、②中国の脅威、③不法移民、④イラン:危険な政権、⑤ニカラグア:民主主義への回帰そして⑥ヴェネズエラ:民主主義の危機(下記表参照)。

上院承認公聴会で、ブリンケン次期国務長官は「(中国は)最重要課題」そしてイエレン財務長官が「中国の不正行為は脅威」と表明した。上記で指摘させていただいたように公聴会は承認を進めるために議員らの志向に迎合するもので政権の優先政策事項とは限らない。いやいや、たかがホームページの修正で、一喜一憂する必要は無いとの指摘もあろう。そこで外務相と経産省の幹部それぞれに国務省の修正を尋ねたら既に承知しており、注目もしていた。日本政府が認識しているということは中国政府も当然着目している。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

⑤ 対中融和姿勢② ~ 電力基幹系統事業に中国参入を促す大統領令とは?

バイデン大統領は、就任初日だけで17つの大統領令を発令した。それらは、内政重視でパリ協定回帰やWHO再加盟を除く外交はおろか中国をターゲットしたもの無い。と、思っていたら実は隠れ中国令があると思われる。それは、「Protecting Public Health and the Environment and Restoring Science to Tackle the Climate Crisis(公衆衛生と環境の保護と科学によって気候変動に取り組む)」と題した大統領令は8項目、3,380文字に及ぶ長いもの。その中の7項目(c)はトランプ大統領が2020年5月に発令した大統領令13920を90日間凍結するものである(下記参照)。13920令は、電力基幹系統事業に外国政府あるいは企業の参入を禁ずるもので主に中国を念頭に置いたものとされる。電力基幹系統事業とは、安価な中国製ソーラー・パネルの購入あるいは米の再生可能エネルギー技術・製品の輸出や中国での製造などの規制を緩和するなどが想定される。一定期間の措置であり、どこまで中国に恩恵があるのか分からないが、対中強硬策ではないことだけは明らか。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

⑥ 対中融和動向③ ~ バイデン政権の姿勢緩和を中国も把握?

中国外務省の報道官は21日に、バイデン政権への祝意と共に「両国は勇気や知恵を出し、お互いに耳を傾け、直視し、相互尊重する必要がある」と関係改善に期待感を示した。中国政府も、上記で紹介したようなバイデン政権の(水面下での)緩和姿勢を察したのか、直近のコメントが和らいだ感がある。その象徴の一つが環球時報のツイッターである。新華社通信の傘下にある環球時報そしてその編集長は中国内でツイッター口座を持つことが許されている数少ない人物。そのため、中国政府の非公式スポークスマンとして金融市場では認知されている。

そこで環球時報の胡編集長は先週、「バイデン政権はトランプ/ポンぺオ・チームより強硬になれない」あるいは「バイデンのスピーチを中国的に解釈すると: アメリカの内政を上手く扱うこと。」など目先の米対立姿勢を軟化しているような投稿を打っている(下記参照)。金融市場も米中対立の緩和を織り込んだのか、バイデン政権の姿勢を緩和、少なくとも現状以上に強硬にならないと踏んだのか、中国株式投資が年初から堅調。直近は米株につられて下がっているが、上海株式市場は1月上旬に約7%上昇した。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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