ジョセフ・クラフト 特別レポート
米副大統領討論会検証
掲載日:2020年10月08日
結論から言うと、討論会はほぼ互角、強いて言えばペンス副大統領が優勢と感じた。大統領選でバイデンがリードしていることから、戦略的にハリス女史は守りに徹していた(この点はCNNも指摘)。逆にペンスは常に攻撃、しかしトランプと違ってマナーが(比較的)良かった分、心象は良かった。ハリス女史に小さなミスがあったものの、ペンスは彼女を特段追い詰めるまでに至らなかった。今回の副大統領討論会は、大統領選の行方を変えるほどの結果にならない。先週、トランプの討論会パフォーマンスに不安を抱えた保守系有権者にとっては、今回の討論会は一定の安心材料になったであろう。この意味で、第2回の大統領討論会に繋げたことはペンスの勝利ではないか。
副大統領討論会で一番印象的だったこは、両候補が多くの質問を避け、自論に転じる場面が多かった。しかしののしり合いはなく、(一方的ながらも)政策論争が中心だったことは建設的な討論会と言える。ペンスの方が多く喋った印象だったが、CNNによれば両者の話した時間は、ペンスが36分27秒対ハリスが36分24秒と全く同じだった。
討論会は9つのテーマで構成された: ①コロナ禍、②副大統領の役割、③経済、④環境問題、⑤中国、⑥最高裁人事、⑦人種問題/法と秩序、⑧選挙の正当性そして⑨最終弁論(国の分断)。これらテーマに沿って候補らのパフォーマンスの功罪を検証してみたい。
カマラ・ハリス
功① コロナ禍 ~ 客観的なデータを並べ、ペンスに「何故先進国の中で最も致死率が高いのか?」と説いたことは良かった。終始、政権が国民に情報を隠し、対応が遅れたことを批判したのも効果的。
功② 法と秩序 ~ 黒人女性であるだけに人種差別への言及は重みがあった。更にカリフォルニア司法長官としての功績を主張。ペンスが司法長官時代の功績を疑問視すると「あなたに(法について)説教される筋合いは無い」と珍しく反発、攻撃に転じる少ない場面は印象的。
功③ 最高裁人事 ~ 最高裁が保守に傾くことで、オバマケアが廃止されることを指摘。トランプ政権は基礎疾患患者の保険不適用あるいは2,000万以上が保険を無くすと主張、有権者に恐怖心を与えたのは効果的。
罪① 最高裁人事(パッキング) ~ 最高裁判事を今の9人制から多く増やして保守志向を薄める計画についてバイデン同様、目を疑うほど彼女はあからさまに質問を避けた。ペンスが何度も何度も問いても一切答えようとしなかったのはマイナスだった。
罪② 環境問題(グリーン・ニュー・ディール) ~ バイデンが討論会で左派政策、特にGreen New Dealを否定したとの質問を避けた。更にペンスは、ハリス氏がグリーン・ニュー・ディール法案のスポンサーの一人と指摘したのは、ハリスの極左派印象を強めるのに役だった。
罪③ 中国 ~ トランプ政権の中国政策を批判するも、説得力に欠けた。逆にペンスは「バイデンは中国のチアリーダー」と批判、反論しなかった。更に、彼女自身USMCAに反対したことを指摘され、分が悪かったのが印象的。
* 一つカマラハリスのパフォーマンスで引っ掛かったのが、「視聴者を見下す」あるいは「エリート意識」が随所に見られたこと。例えばトランプが多額の負債を抱えているとの憶測を指摘した時、「負債はお金を借りることを意味するのよ」と視聴者を説教。ロシアが中東の米兵士に懸賞金(バウンティ)をかけた報道に振れ、「バウンティの意味って分かる?」とまた上目目線。
** ハリス女史は質問もされないのに、態々「フラッキング(水圧破砕)」を禁止することは絶対に無いと終始指摘したことは、選対本部から有権者の反発があることを意識しての発言であろう。フラッキングはペンシルバニア州の選挙を左右しかねない事案だけに、センシティブになっているのであろう。
マイク・ペンス
功① 最高裁人事(パッキング) ~ バイデンが質問を避けた時、トランプはそれ以上追及しなかったのは失敗だったが、ペンスはしつこく何度も追及、ハリス最大のミスを引き出した。この点は大統領討論会で指摘され、再度質問されることは分かっていただけに、ハリスの無回答は驚きとしか言いようがない。
功② 法と秩序 ~ トランプは白人至上主義を真っ向否定しなかった失態を、ペンスは見事にカバー。そうした団体を名指し、完全に否認した。更に、フロイド事件の警察官を批判しながらも警察や軍事態を称え、支持をはっきり主張し、バランス感覚が良かった。
功③ 経済 ~ ペンスは効果的にバイデンの増税政策を指摘。増税による景気減速不安を上手く煽った。ハリスが低中所得層は増税されないと反論すると、トランプ減税を廃止すること事態が中間層への増税だと指摘したのも効果的。
罪① 最高裁人事 ~ パッキングについて効果的ながら、オバマケアの議論でハリスが主張した基礎疾患患者が保険を失うポイントに反論しなかったことは、医療保険の不安を残してしまい、ミスだった。
罪② コロナ禍 ~ 21万人の死者を問われ、「国民の自由も大事」との議論は説得力に欠ける。親近感や同情を煽るチャンスながら、トランプのコロナ感染に関しても言及を避けたのはマイナス。
罪③ 最高裁人事 ~ 最高裁が中絶禁止の判断を下したら、インディアナ州で中絶廃止を全面的に遂行するかとの問いに、ペンスは完全に逃げた。自分は「Pro-Life」だと言うに止まったことは、中道層有権者に違和感を抱かせたと思う。
* トランプのように相手候補の話を遮ることは無かったものの、ペンスは自分に与えられた時間を何度もオーバー、司会者に注意されるもしゃべり続けたのは印象が良くなかった。ペンスの時間オーバーが印象的だったため、ペンスが多く時間を不当に多く使ったとの批判があるが、上記で指摘したように以外に両候補は同じ時間喋ったのは意外。
最後に、副大統領討論会に思わぬ乱入者が入ったのがSNSで話題となった・・・ハエ。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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