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ジョセフ・クラフト 特別レポート

アメリカが台湾独立に踏み込んだ歴史的瞬間! ~ スティルウェル国務次官補の「一つの中国政策」更新演説

掲載日:2020年09月04日

8月19日のイージス駆逐艦「マスティン」に続いて、30日にも米海軍第7艦隊のイージス駆逐艦「ハルゼー」が台湾海峡を航行した。米軍の正式説明は、「自由で開かれたインド太平洋に対する米国の関与を示すものだ」ということだが、2週間内に2回の航行は異例であり、明らかに中国をけん制する狙いがある。それだけでも驚きだが、翌日31日(月)のデイビッド・スティルウェル国務次官補による「The United States, Taiwan, and the World: Partners for Peace and Prosperity」と題したヘリテージ財団でのオンライン演説には衝撃を受けた。これは台湾の独立をより強調・擁護した、アメリカの「一つの中国政策」を更新(アップデート)する歴史機的な瞬間だと考える。この演説は現在、国務省のホームページに正式文書として掲載されている。スティルウェル国務次官補は、「アメリカが政策転換を示唆しているのではないかと思われる方も居ようが」と断りをするほど、この演説が「一つの中国政策」の変化を印象付けるものであることを分かって行っている。アメリカがより台湾の独立保護に踏み込んだ大義名分として四つの理由を挙げたが、本質は中国の強硬姿勢、平和解決の三者コミュニケ(Three Communiques)合意に反したからということ。これによって米中対立は先鋭化することが予想される・・・。

■8月31日スティルウェル国務次官補の演説の要訳

▶ 最近の米台関係の進展:  先ず、台湾関係法をおさらいしたい。同法案は、アメリカと台湾の交流(エンゲージメント)を通じて西太平洋地域安定の維持、そして商業、文化その他の関係を支えることを制定したものである。8月10日にアザール厚生長官が台湾を訪問、蔡英文総統とより強力な厚生及び経済関係の構築で合意した。先週、米国在台湾協会のクリステンセン所長とジョセフ・ウー外務大臣が5Gセキュリティに関する共同宣言を発表した。5月には、ポンぺオ国務長官とロス商務長官がTSMC(台湾積体電路製造)の120憶ドルのアリゾナ製造施設の建設案を歓迎したばかり。この交流のモメンタムに乗って本日、両国は新たな二国間経済協議に入ったことを紹介したい。この協議を通じて、半導体、ヘルスケア、エネルギーそして最新技術など幅広い経済分野での関係強化を構築していく。

▶ 長期的戦略の明確化と「六つの保証」:  上記の話から、アメリカが政策転換を示唆しているのではないかと思われる方も居ようが、これまでの長期的(台湾)戦略と矛盾していない。我々は以前から台湾に高官を送り、台湾のリーダーらと定期的に会談、そして現政権を含め過去の政権下でも台湾への武器輸出を行って来た。この40年間、アメリカの台湾政策は、1979年に制定された「台湾関係法」、台湾・中国・アメリカによる三者コミュニケ(Three Communiques)と1982年に指定された「六つの保証」(所謂レーガン・メモ)によって形成されて来た。これら全て重要だが、本日は「六つの保証」についてより明確化したい。下記は、1982年にレーガン大統領がメモに残した六つの保証事項である。これら保障事項は今も効力を保っている。

六つの保証
台湾への武器供与の終了期日を定めない。
台湾への武器売却に関し、中国と事前協議を行なわない。
中国と台湾の仲介を行わない。
台湾関係法の改正に同意しない。
台湾の主権に関する立場を変えない。
中国との対話を行うよう台湾に圧力をかけない。

昨年に機密解除され、公開されたレーガン大統領のメモにはこのように明記されている。「The U.S. willingness to reduce its arms sales to Taiwan is conditioned absolutely upon the continued commitment of China to the peaceful solution of the Taiwan-PRC differences. In addition, it is essential that the quality and quantity of the arms provided Taiwan be conditioned entirely on the threat posed by the PRC.」。つまり、アメリカによる台湾との関係、特に武器売却方針は中国共産党が引き起こす脅威によって変わるということ。

▶ 「一つの中国政策」対「一つの中国原理」:  アメリカの「一つの中国政策」は、中国の「一つの中国原理」と異なることを理解する必要がある。「一つの中国原理」は中国共産党による台湾の主権を主張するものである。「一つの中国政策」は台湾の主権に関しての立場は取っていない。台湾問題においてアメリカ政府の最大の関心事は、台湾と中国双方による平和的解決である。長年続いた「一つの中国政策」は変わりないものの、直近の(中国)情勢を踏まえてこの政策の維持、そして強化することを主張したい。基本方針は変わらないものの、これは重要な修正・補足と考える。

六つの保証の明確化あるいは強化には四つの背景がある: ①中国共産党による脅威、攻撃的姿勢、②米台間の深まる関係(エンゲージメント)、③世界の経済エンジンとしての存在、そして④国際社会での役割と貢献。

 ◆ 中国共産党による脅威、攻撃的姿勢 ~ 近年、中国共産党は台湾の外交上の孤立を目論み、軍事的脅迫、サイバーテロそして経済圧力を掛けて来た。香港情勢を見て、中国は国際公約を守る意図が無いことが確認された。もはや中国政府には、三者間コミュニケで明記された台湾問題を平和的に解決しようとする意図・姿勢が無いと言わざるを得ない。
 ◆ 台間の深まる関係(エンゲージメント) ~ アメリカと台湾の友情、貿易、そして生産性は拡大すると共に深まっている。アメリカと台湾は民主主義のコミュニティの一員であり、政治、経済そして国際価値を共有している。単なる経済的な関係を超えて価値観・イデオロギーでも結ばれているのである。
 ◆ 世界の経済エンジンとしての存在 ~ コロナ禍によって台湾は世界のサプライチェーンとして重要な役割を担った。中国でコロナ感染が広まった際、台湾産業は一時的に世界へ医療マスクを提供した。TSMC(台湾積体電路製造)のアリゾナでの生産は、重要な先端技術のサプライチェーンをアメリカに移転することとなる。中国が先端技術や産業を支配ようとする中、アメリカは台湾とパートナシップを組んで行く。
 ◆ 国際社会での役割と貢献 ~ アメリカは長年、台湾の国際社会での地位・存在を高める努力をして来た。「グローバル協力訓練枠組み(GCTF:Global Cooperation and Training Framework)」がその一例である。米台共同で汚職行為防止、メディア・リテラシーや女性の経済エンパワーメントなどのワークショップを開催、昨年から日本もこの取り組みに参加した。国際社会での台湾の地位・貢献が高まる中、台湾に対しての不当な恐喝・圧力行為を見逃すわけにはいかない。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

ヘリテージ財団提言 ~ 「中国の挑戦に対してアメリカが取るべき10の対策」

スティルウェル国務次官補がヘリテージ財団を通じて(台湾)スピーチを行ったのは偶然では無い。特に近年、ヘリテージ財団は反中思想を掲げて来たことから選ばれたものと思われる。そこで4月30日に同財団が提唱した「中国の挑戦に対してアメリカが取るべき10の対策」レポートを再検証してみたい。何故この勧告に注目するかというと、直近の米政府の行動が下記10の提言に類しているからである。トランプ政権がヘリテージ財団の提言をそのまま適用しているとは思わないが、参考にしている可能性は高い。下記のそのレポートの10の対策を紹介する。

①コロナ感染に関する中国政府の責任を追及 ~ アメリカが主導により、国際調査団を結成、新型コロナ・ウイルスの根源と共に感染経路を付き止めるるべき。初期段階での中国政府による隠ぺいは明らかであり、国際社会は中国から記録、情報、施設と人員へのアクセスを要求すべきである。その際、中国政府の反応から同国の性質・誠意が国際社会に示されるであろう。

②アジアの自由貿易協定を拡充 ~ アメリカはアジア圏において包括的な貿易協定を構築すべきである。例えば、(日米豪印の)四カ国戦略対話(Quad)など安全保障の枠組みと連携した形から入ることも考えられる。取り分けインドとの通商問題の解決が不可欠。Quad諸国に始まり、その後アジア全体に貿易パートナーを拡充していくことが中国けん制に効果的と考える。

③インド太平洋に見合った軍事態勢を構築 ~ 米議会は、デービッドソン・インド太平洋軍司令官が推奨する「Regain the Advantage」案を承認すべきである。インド太平洋地域で米軍の優位性を維持できる適切な予算を組み、中国の高まる脅威に対抗できる軍事施設・装備を宛がうことが大事。

④中国との長期的な競争体制に備える ~ 国際社会で企業の発展を後押しするには、中国政府の産業補助金制度のような対抗策ではなく、全面的な規制緩和が有効である。規制緩和を通じて中国の「一帯一路」構想とも競争できる体制が構築できる。例外的に政府からの産業補助が必要な場合に、ビルド法など戦略的に適応していくことが推奨される。同時にこれは長期的な競争レジームとなることも理解する必要がある。

⑤正面から5Gの挑戦に向き合え ~ ファーウェイやZTEなど中国政府と精通している企業の排除姿勢を崩してはならない。ハイテク産業を守るため、政府は二つの重要法案を成立させた: ①輸出規制改革法(ECRA)と②外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)。こうした法案をしっかり適用していくことが重要である。しかし、産業保護は鉄鋼、アルミや自動車に関税を掛けることではない。

⑥国際機関での中国の影響力を抑制 ~ 近年、WHOや国連と言った国際機関での中国の影響力が著しく増している。こうした国際機関にアメリカ人あるいは民主義を重んじる者を据えることが重要。中国政府がこうした機関を自国の国益に利用する姿勢は今後も変わらない。抑制する有効策は国際機関の上昇部にアメリカ人をより多く派遣することである。

⑦欧州と共通の中国危機意識を模索 ~ 輸出や投資規制及び航行の自由や人権問題などの分野でより欧州と連携すべきである。ただ、欧州とは見解の隔たりも多く、連携は容易ではない。そこで双方の利害が一致するところを優先的に協力体制を構築していくことが重要。見解の相違はあっても最終的に欧米は民主主義国家であることを忘れてはいけない。

⑧現存する法律を駆使して中国スパイ活動を取り締る ~ 中国を制裁・抑制するための法案・制裁措置は既に存在する。重要なのは、これらを最大限活用していくことである。中国学生の入国規制が解決策では無い。むしろ中国政府・企業に直接適用する制裁措置あるいは法律に着手すべきである。

⑨台湾の独立を擁護・支えていく ~ 台湾の独立を後足する様々な措置の中に正式な貿易協定が挙げられる。更にWHOを筆頭に台湾を様々な国際機関の一員に迎え入れることも重要である。台湾は、米中対立の最前線に居り、台湾を中国に吸収させることは国益を害することになる。

⑩(西側諸国の)価値観を守る ~ 中国が人権弾圧を続ける中、マグ二ツキー法を通じて制裁措置を強めるべきである。香港情勢においても、2019年に政令された香港人権・民主主義法を最大限活用することも推奨される。インド太平洋戦略は経済・軍事面だけでは成り立たつものではなく、民主主義など西側諸国の価値観を守ることも重要である。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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