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ジョセフ・クラフト 特別レポート

トランプ受諾演説から重要政策事項を読み取る ~ 新たな対中強硬策発動か?

掲載日:2020年09月03日

8月27日の共和党党大会のトランプ受諾演説の文言を解析してみた。トランプが重要視している政策事項を、より客観的に把握するため実際に言及した言葉・テーマを数えてみた。そこから改めて確認出来たのが、「対中強硬姿勢」の優先・重要度の高さである。演説でトランプが最も言及した政策提言・議題は「職・雇用」の20回である。驚いたのは、「法と秩序」や「コロナ、ワクチン」を抑えて「中国」に関して16回も言及していることである(下記表参照)。

以前に、7月末のPew Research社の世論調査で73%が中国に対して悪印象を抱いていることを紹介した。この調査は当然、トランプも把握・着目していることと思われる。大統領選が本格化する中、対中強硬攻姿勢を強め、様々な制裁措置が取られることがトランプの受諾演説から垣間見らえる。その象徴として、昨日(1日)、ポンぺオ長官は対中関係について「近いうちに新たな発表がある」と言及。国務長官が何を指しているのか分からないが、一つ想定される策として多くの米大学に設置されている「孔子学院」の正式撤去命令が挙げられる。

8月17日のレポートで、トランプ政権・米議会が10の制裁措置・法案を通じて今後中国に更なる圧力を掛ける可能性を紹介したが、その中で特に三つの措置・法案が注目される: ①香港自治法、②「千人計画」の取り締まり強化、そして③「中国企業の不正行為から投資家を守る」財務相レポート。これらの共通点は金融規制・制裁措置である。 「香港自治法」には10の金融制裁措置 ~ 融資の制限、プライマリー・ディーラー権はく奪、為替取引禁止、公的ファンドとの取引禁止、商品や不動産取引禁止、株式・債券発行資格はく奪などが盛り込まれている。最悪の場合、ドル決済への規制に及ぶ可能性も否定できない。「千人計画取り締まり」は、人材招致制度による技術窃取工作を防ぐためFBIや情報機関が資金授与や研究開発費の流れを監視、金融面とガバナンスの観点からより規制強化を図る。そして「中国企業の不正行為から投資家を守る」財務レポートは会計監査を強化し、中国企業の財務情報へのアクセスと必要に応じて証券市場から撤退させる狙いがある。

アメリカが制裁を課す度に中国も同等の措置で応戦。金融面だけでなく、直近は台湾海峡や南シナ海と軍事面でも緊張が高まっており、「ツキディデスの罠」状態に陥りつつある。コロナの影に隠れがちだが、現在国際社会で最大の懸念事項は米中対立だと危惧している。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

ウィスコンシン州抗議デモで再び揺れるアメリカ ~ バイデンに吉と出るか凶と出るか?

ご存じ、ウィスコンシン州ケノーシャで8月23日に黒人男性のジェイコブ・ブレイク氏が警察の取り調べ中に複数回撃たれる事件が起きた。それが発端で抗議デモに発展。更に最悪の事態として25日夜から26日未明にかけてトランプ支持者の白人少年がデモに発砲、3人の死傷者を出してしまう。5月末のジョージ・フロイド事件そしてその後全米に広がった大規模抗議デモの再発に繋がりかねない事態が危惧される。ウィスコンシン州は大統領選で重要な激戦州の一つで大統領選への影響も注目される。しかし、今回は一般市民の人権抗議デモへの感情の変化から、6月のように全米を席巻した大規模デモそして、バイデン支持率の上昇に繋がらないものと思われる。

先ず、世論の変化に関して8月中旬に発表されたウィスコンシン州のマルケット大学による世論調査を紹介したい。6月18日時点での大規模デモに対する支持率(支持から不支持を引く)は、一般有権者で+27%そして黒人有権者では+33%と圧倒的に高かった。ところが8月日の同調査では一般有権者の支持は▼1%(不支持の方が多い)そして黒人有権者でも+10%まで減少した(下記表参照)。この背景には長期化する抗議デモ、それ以上に暴動化の傾向に市民が嫌気したものと思われる。つまりトランプの「法と秩序」主張に世論が傾き始めている。

人権抗議デモへの支持が減少すると同時にトランプへの支持も回復している。リアルクリア・ポリティックスのバイデン対トランプの支持率(全国調査)を見ると、6月24日に10.1ポイント開いていた差が現在6.2ポイントに縮小(下記チャート参照)。更に最も重要である激戦6州の支持率を見ると、バイデンの48.0%に対してトランプが45.4%と差が2.6ポイントと誤差の範囲まで縮んだ。因みにこの激戦6州の支持率格差は、7月28日に6.3ポイントも開いていた。

ウィスコンシン州の事件は悲惨であるが、ミネソタの時と異なり一般市民はより警戒、落ち着きを持って見守っているようである。同事件は、共和党党大会の真っ只中に起きたにも拘わらず、トランプと共和党陣営は「法と秩序」のメッセージを変えるどころか、むしろ主張を強めた背景には、国民感情の変化に手応えを感じているからと推測する。結論を言うと今回の警察暴行事件はバイデン陣営にとって強い追い風になるものではないと考える。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

テレビ視聴者数で解析する民主・共和党大会 ~ 単調な民主、不運な共和

8月17~20日に民主そして24~27日に共和とそれぞれ党大会が行われた。党大会は言わば決起大会であり、盛り上がりによって大統領選への弾みに繋がる。そこで視聴者数から各党大会の情勢を分析してみたい。下記にそれぞれの党大会の視聴者状況を紹介したい。

因みに、登録有権者数に関して民主党員の方が共和党員を上回っていることを理解すると、下記の視聴者データがより分かり易いかもしれない。米登録有権者数に関する正確なデータが少ないものの、統計会社のStatistaによれば2018年度の登録有権者数はおよそ1億5,300万人。2016年大統領選投票者数が1憶2,883万人だったこと比較すると概ね正しいと思われる。民主党対共和党の比率だが、Gallup社の2020年7月30~8月12日の調査では、民主党員と答えが31%に対して共和党員は26%(41%が中道・無所属)というデータがある。

民主党 ~ 下記の青表は民主党の各夜の視聴者数を表し、4日間合計の視聴者数は2016年に比べ1,850万人減少、減少率は加重平均ベースで▼17%となった。3日目に視聴者数が持ち直したのは、オバマ大統領そして副大統領候補に任命されたばかりのカマラ・ハリスの演説への興味が要因と思われる(下記左表参照)。コロナ禍で、オンライン形式では放送が単調になりがちで盛り上がりに欠けてしまい、視聴率がある程度下がっても仕方がないかもしれない。しかし、視聴率低下は民主党にも問題がある。先ず、4日間の大半がトランプ批判に終始、いくら反トランプ有権者でも飽きてしまう。もう一つはハリウッドの役者やコメディアンを司会に立て、オバマやクリントン夫妻を前面に出し、セレブ(味方によっては過去の栄光)に縋る構成も今の時代に受けないと思った。民主党にとって最も深刻、衝撃的なデータは年代別の視聴者数である。55歳以上の視聴者は2016年のほぼ変わらないのに対して、18~34歳の世代は実に51%と大きく減少している(下記右表参照)。現代の若者はテレビよりもパソコン(YouTube)などで視聴することが背景にあるとの指摘がある。しかしYouTubeは15~22歳のジェネレーションZ世代が中心で、新学期の最中に50%がパソコンで視聴しているとは思えない。民主党が若者・左派層の孤立を恐れ、政策提言に踏み切れなかったように、やはり党内での左派対中道派そして若年層対年配層の溝が残っていることが浮き彫りとなった党大会と位置付ける。

共和党 ~ 4日間での合計視聴者数は2016年対比で2,069 万人減少、減少率は加重平均ベースで▼20%と悪かった。先ず共和党は、リアリティ・テレビのプロデューサーを起用し、構成・演出に腐心したところは如何にもトランプらしい。民主党と異なり、ほとんどセレブを起用せず一般有権者を全面に押し出した。無論、セレブを起用しないのはトランプからスポットライトを奪わないため、あくまでも主人公・目玉はトランプ一人。司会を一切立てず、政策提言に重点を置き、観客も多少入れてなるべく通常の党大会の雰囲気を醸し出したことで、民主党大会より見応えがあると感じた。そのためか、二日めの視聴者数が2016年とほぼ同じまで改善した。しかし三日目から視聴者数が減った不運な要因が二つ挙げられる。一つは大型ハリケーン「ローラ」の上陸によって南部地域に非難要請が出たこと。二つ目はウィスコンシン州でのデモが激化し、この報道にある程度の視聴者が流れてしまったこと。年代別でも共和党は民主党と逆の問題に直面したと言える。共和党は2016年に増えた支持基盤である年配層の視聴が弱かったことが危惧される。55歳以上の視聴者層が11%減り、ハリケーンなどを加味しても視聴者離れの影響は否定できないと考える。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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