ジョセフ・クラフト 特別レポート
カマラ・ハリス民主党副大統領から読み解く三つのポイント
掲載日:2020年08月12日
時間が掛かったが、カマラ・ハリス女史が民主党副大統領候補に選ばれた。7月29日のレポートで小生は、スーザン・ライスの方が有力ではないかと指摘させていただいたが、結果はハリス女史の知名度の高さが評価されたたようである。副大統領候補の選択肢から大統領候補の性格、心理そして戦略が垣間見れる。そこで今回の選択肢からバイデンの考えと大統領選の意味合いを探る三つのポイントを紹介したい。
ポイント① バイデンは大統領選が混戦していると見ている ~ スーザン・ライスの最大の短所は選挙経験が無く、知名度が低いことである。米大統領選を戦うのには知名度の高いハリス女史の方が有利なのは明らか。逆な見方をすれば、ハリス女史の選択はバイデンが大統領選への自信が無い、少なくとも世論調査が示すほど優勢では無いと考えている表れではないか?大統領選を勝つ自信があれば、相性が良い且つ政権運営能力に長けているライス女史を選ぶのが筋であろう。個人的には、ハリス女史は選挙選を戦うのに有益との見方は間違っていると考える。ハリス女史は民主党予備選で苦戦、2019年12月にいち早く脱落している。彼女は政策が振れたため左派でも中道派からも支持が集まらなかった。更に黒人層からの支持は低く、若年層からの人気も無かった。知名度は高いものの、ハリスだから良いという有権者は少ない。ハリス女史は、バイデン氏同様個人の人気よりも反トランプの受け皿という要素が大きい。
ポイント② バイデンのリスク回避姿勢の表れ ~ バイデンが大統領候補を確実にした4月からハリス女史は副大統領最有力に挙げられていた。民主党を良く知るワシントンDCの政治アナリストは、「下馬評・メディア予想を裏切りたくなかったバイデンのリスクへの消極姿勢の象徴」と指摘する。確かにハリス女史を希望(?)・予想していたCNN、NYT紙そしてワシントン・ポストから批判は上がらない。予てからハリスに不信感を抱くバイデン親族・スタッフは少なく無いと言われ、(討論会で強い批判を受けて)バイデン自身、不安が無いとは考え難い。多くの大統領候補は、自分の意思・性格を示すため、ある程度サプライズ人事に出ることは良くある。バイデン氏はむしろ世論・メディアの予想を裏切らない無難な選択肢を選んだと考える。
ポイント③ 政策軸が曖昧なハリスはバイデン政権に溶け込み易い ~ ハリス女史よりも知名度の高いエリザベス・ウォーレンが絶対に選ばれない理由はバイデン氏との政策にあまりにも隔たりがあるからである。ウオーレンよりも中道寄りとされる左派のカレン・バス女史でさえ政策のすり合わせが難しい部分があった。ライス女史では左派有権者が取り込めない懸念があった。そこで民主党予備選で左派から中道保守まで政策が振れたハリス女史は、政策信念・軸が分かり難い分、バイデン政権の政策に合わせやすかったものと考える。
ワシントンDC銃撃事件 ~ リベラル・メディアのバイアス志向
先週末の首都ワシントンで、1人死亡、20人が銃撃される今年最大の米発砲事件が起こったことをご存じだろうか? 「首都ワシントン」、「発砲事件」と「20人負傷」で検索するとCNNの短い記事が一つ出て来ただけで国内主要メディアの報道は見当たらない。英語でも検索すると、一応記事は出て来るものの、本来は銃規制にうるさいリベラル系メディアの存在感が取り分け薄いのが印象的。今年最大の銃撃事件にも関わらず、NYT紙からは記事が一つのみでその文字数は314、CNNも記事一つで僅か226文字そしてゴールデンタイムでの放映は見送られた。
事件は、黒人街で100人ほどが集まるバーベキュー・パーティに3人と思われる容疑者が100発以上発砲、17歳の少年が死亡20人が負傷する惨事である。最も驚いたのが民主党員であるバウザー市長の会見。本来は、銃犯罪を非難、銃規制を訴えるべきところ、バウザー市長はなんと100人も集まりソーシャル・ディスタンスを守らなかったことを問題視(耳を疑うばかり)。リベラル・メディアの消極姿勢及び市長のKY発言に保守系メディア筆頭のFOX Newsは批判。
では何故このような反応となったのか?黒人同士の凶悪犯罪は民主党・バイデン陣営にとって分が悪いというかプラスに寄与するニュースでは無く、むしろトランプが掲げる「法と秩序」を正当化する事件であり、リベラル系メディアが報道を自粛したと推測される。大統領選に有利でないから報道を控えるのはジャーナリズム精神から逸脱した今のメディアの残念な現状を反映していると思う。これはリベラル系メディアに限ったことでは無く、保守系メディアも同様である。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
【ご注意事項】
お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。 また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートに表示されている事項は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。