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ジョセフ・クラフト 特別レポート

米大統領選挙が延期?! ~ トランプの真意とその現実性件

掲載日:2020年08月03日

トランプ大統領が7月30日のツイートで大統領選延期に言及し、物議を醸した。4月14日の本レポートで、大統領選挙延期に関する法律・制度について取り上げた。下記では日程の延期もさりながら、それよりも興味深トランプ発言の真意について見解を紹介したい。

日程変更の可能性: 結論から言うと選挙日程の延期は理論的に可能ながら(ただし1月20日まで)、現実的には無い。先ず、大統領及び議会選挙の日程は連邦法で定められていることから議会の承認があれば調整は可能である。しかし現実として議会がねじれているため、民主党が仕切る下院は応じない。更に今からの変更は、多大な混乱を招くことから多数の共和党議員も反対しており、事実上無理である。例え議会が延期に合意出来たとしても、2021年1月20日が限度である。これは、大統領及び副大統領の任期が憲法で4年(2021年1月21日)と定めれているからである。憲法改正を3ヵ月で行うのは考えられない。1月20日までに大統領が確定しない場合、極めて複雑な工程を擁し長文に渡って説明が必要なのでここでは触れないが、簡単にまとめると後継3位にある下院議長(つまりナンシー・ペロシ)が就任することになる。因みに、67.5万人の米国民が亡くなった1918年のスペイン風邪の時でさえも選挙は延期されなかった。むしろこの議論の本質は下記で取り上げる郵便投票にある。

トランプ言及の真意: 「延期すべきだろうか???」と質問系でツイートに投稿したことから分かるように、トランプ自身、大統領選の延期は不可能と十分承知している。トランプの真意は、大統領日程の延期では無く、期日前・郵便投票の延期(願わくば規制)である。そのの理由の一つは、早段階での期日前・郵便投票の受付があるからである。郵便投票の受付日程は州ごとによって異なるが、早い州では投票日(11月3日)の45日前から受け付ける。投票45日前とは、第1回大統領討論会(9月29日)の前にあたり、それを見ずに投票を済ませることが可能となる。劣勢に立たされているトランプとしては、討論会を巻き返しの起爆剤にして追い上げたいところ。トランプ陣営としては巻き返しの時間は長ければ長いほど良く、バイデン陣営としては演説・討論は出来るだけ避けて早期に逃げ切りたい。そこで激戦6州の期日前受付日程を見ると、ミシガンとペンシルバニアは45日以上と早い(下記表参照)。アリゾナやノースカロライナ州も27日と19日で比較的早め。更にトランプが2016年に勝ち取った州で早くから受け付けている州としてモンタナ、ネブラスカ、サウスダコタ、ワイオミング州などが45日と早い(下記右参照)。トランプとしては、選挙延期で持ち出し、郵便投票への疑問を高め、受付日の先送り、願わくばかなりの規制を掛けたいのが本音ではないか。トランプが郵便投票を拒むもう一つの理由には、トランプを支持する(田舎在住)低所得有権者は郵便投票しない可能性が高いと思われ、更にコロナ禍で共和党支持者の投票率が下がる懸念がある。

トランプの支持率に改善の兆し ~ 「法と秩序」戦略が功を奏している可能性

トランプ大統領の支持率に改善の兆しが見られている。7月12日に41.1%まで下落したリアルクリア・ポリティックスのトランプ平均支持率は現在43.6%まで上昇している(下記チャート参照)。不支持率も56.3%から54.1%へ低下。しかし、バイデンの優勢は依然変わらない。このレポートで幾度も指摘したが、世論調査の集計の歪みやバイアスにより実態の格差は見た目ほど大きくない可能性がある。バイデン対トランプの支持率だが、6月末に最大10ポイントあった開きが、現在は7.4ポイントに縮小(下左チャート参照)。それよりも重要な激戦6州でのトランプ支持率は42.1%から43.7%に改善、バイデンとの支持率格差も6.3%から5.5%に幾分改善(下右チャート参照)。ここに誤差の範囲(2~3%)を考慮すると実際の激戦州格差は2.5~3.5%との可能性があり、巻き返しが図れないほどのリードとは言い難い。誤解の無いように、トランプの再選を予想している分けでは無いが、大統領選まで3ヵ月が残っており、情勢の変化はあり得ると考える。

トランプ支持率改善の背景 ~ 断言はできないが、BLM抗議に便乗した暴動・過激デモそして警察解体運動に触発され激増する凶悪犯罪への反発、すなわちトランプが6月に掲げた「法と秩序」姿勢への賛同が増えているようだ。例えばシカゴ市では、2020年上半期(1~6月)に殺人事件が440人と全年同期の290人から52%増えた。同時期、発砲事件による被害者数は去年の1,480人から2,240人へと跳ね上がっている。特に7月での犯罪情勢が悲惨。7月だけで射殺事件が106件と2019年同月の44件から140%と激増。発砲事件も406件と去年の7月の232件から75%増えている。これはシカゴに限ったことでは無い。ニューヨークでは、7月の1週間だけで射殺事件が去年の13件から49件と約2.8倍と増加。アトランタでも7月の殺人事件が5件から17件と2.4倍に。凶悪犯罪増加の背景には警察解体運動によって予算と人員の削減に加え、更に取り締まりへの批判・訴訟を恐れて警察の慎重・消極姿勢が挙げられる。

更に一部世論の反発を招いてしまったのが、各地での民主党市長や州知事の対応である。例えば犯罪が横行する緊急事態にも関わらず、シカゴのライトフット市長はトランプからの援助は受けたくないと連邦司法隊の動員を拒んだ。それが事態の悪化を招き、結局は連邦司法官の立ち入りを要請するお粗末な結果となった。ポートランド市でもデモが暴動化し連邦裁判所が襲われ放火の危機に晒された。トランプは強制的に連邦司法隊を送り込んで鎮静化を図った。前代未聞なのが、ウィーラー市長がなんとデモ抗議に自ら参加、催涙ガスを浴びる始末。民主党市長や州知事らの犯罪抑制への消極対応や過激デモに同情的な姿勢は、トランプの「法と秩序」主張を正当化してしまっている。最後に大統領弾劾という失策から何も学んでいないのか、民主党は下院司法委員会の公聴証言にバー司法長官を招集、ナドラー議長始め民主党議員らは尋問とは程遠い一方的な攻撃と選挙パフォーマンスを繰り広げた。この茶番劇は民主党有権者のみならず、リベラル系メディアからも疑問視されるほどお粗末な展開を露呈しただけである(CNNでさえ早々とコロナ禍報道に切り替えた)。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

民主党副大統領候補に浮上したダークホース(カレン・バス下院議員)

各紙を集計すると、副大統領候補の本命はカマラ・ハリスで一致。知名度で選ぶならハリス、バイデンとの信頼関係・継承力で選ぶならスーザン・ライスと考える。しかし、ハリスとライス両候補の間を取る選択肢が急浮上 ~ それはカレン・バス下院議員である。バイデン陣営がバス議員を真剣に検討する背景には左派と黒人票の取り込みが挙げられる。バス女史は左派的政策志向で知られ、ハリスとライスより際立って進歩的で、バイデンが苦戦している左派有権者へのアピールが期待出来る。一方、エリザベス・ウォーレンやバーにー・サンダーズほどの域に達しないため、民主党の中道派を孤立させるリスクは限定的。更に黒人票に関して、以前からハリス女史はインドとジャマイカのハーフに加え、インテリ階級のため、一般黒人からの親近感が得られない可能性を指摘した。ライス女史も母親の家系がジャマイカでワシントンDC生まれのインテリ階級である。逆にバス女史はロスアンゼルス中心部に生まれ、父親は郵便局員と低所得層と見た目も喋り方も一般黒人に分かり易い。極めつけは、多くの黒人団体に多大な影響力を持つ連邦議会黒人幹部会の議長に2018年から就任しており、バイデン氏が恩義を感じるジム・クライバーン議員からの評価も高い。最後に、彼女は性格的に控え目で大統領よりも目立とうとしない(カマラ・ハリスの最大欠点)こともバイデン陣営から好感されているようだ。

問題点としては知名度が低いことに加え、過去の発言が問われるリスクが想定される。取り分けキューバとサイエントロジーへの言及が取りだたされるであろう。彼女は1970年代にキューバを何度も訪問、カストロ議長が無くなった際に彼のことを「Comandante en Jefe(最高司令官)」と敬意を表した。このことはラテン系有権者、特に重要激戦州であるフロリダからの反感を招く恐れが予想される。もう一つはサイエントロジーという新興宗教団体への講演を行い、同宗教への称賛した経緯がある。その後、この団体がいくつかのスキャンダルに見舞われ、信者が逮捕される疑惑がある。ただでさえキリスト教以外の宗教には疑念・アレルギーを持つアメリカ人、特に南部で問題視される懸念が持たれる。

個人的には、スーザン・ライスに白羽の矢が立つのではないかと推測する。彼女は選挙選での貢献が限定的ながら、政権運営経験と知識に長け、バイデン氏とはケミストリーが合い、当選した後の政権運営において最も最適な候補と言える。逆にハリス女史は、選挙戦での貢献も限定的且つ政権運営はそれ以上に問題を含むと個人的に考える。彼女は知名度は最も高いが、大統領予備選を早々に脱落した要因として、政策のブレや黒人層の支持が低かったことが挙げられる。更にスタンドプレーの傾向があり、大統領への強い野心があり、バイデンよりも目立とうとするリスクが考えられる。バス女史は良く言うと堅実・安全な選択肢、悪く言うと中途半端・守りの姿勢が印象付けられる。一つ言えることは、副大統領候補の選択がバイデン政権の性格を占う一つの指標になるだろう。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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