ジョセフ・クラフト 特別レポート
副大統領選定プロセス大詰め ~ バイデン胸中と選定条件
掲載日:2020年07月30日
民主党関係者曰く、副大統領選定は、早ければ今週末にも決断されるとのこと。最終候補は3~4人に絞られ、うち一人は白人候補。候補が既に固まっているとしたら、バイデンの妻と選対本部マネージャーのジェニファー・オマレー・ディロン女史ぐらいしか把握していない。ナンシー・ペロシやチャック・シューマーなど民主党執行部にも知らされていない。しかし、選定においてバイデン氏自身が重要視する条件は下記の三つと指摘。こうした条件を基に一定の推測が出来る。
▶ 信頼関係(シンパティコ) ~ バイデン氏が最も重要視する副大統領の選定条件は、「信頼関係が築ける」あるいは「ケミストリーが合う」人物とのこと。バイデン氏は常々、「I want someone that is simpatico with me...」と話していて、シンパティコとは、「気質が合う」あるいは「気性が同じ」という意味。これはオバマ政権で自身の経験に基づく強い信念が背景にある。バイデン氏は年の差がありながらもオバマ大統領と強い信頼関係を構築やがて深い友情関係に発展した。オバマ大統領からの信頼があったからこそ様々な政策・プロジェクトを任され、歴代政権よりも副大統領の地位・影響力を高められたという自負がある。それと似た関係を次期副大統領候補に求めているのだという。
▶ 後継力(サクセッション) ~ 自身の年齢と健康を誰よりも意識しており、そのため万が一の時に大統領として指揮が執れる素質と経験のある候補が重要。万が一の事態に至らなくとも、オバマ政権のように副大統領には積極的に政策運営・執行に携わって欲しいと考えている。つまりポテンシャルよりも即戦力が求められている。
▶ 恩返し(黒人候補) ~ メディアはBLM運動によって黒人の副大統領が選ばれると報道しているが、それは必ずしも正しくないとのこと。正直なところ、バイデン氏はBLM運動を支持しているものの、強い親近感を抱いている分けでは無い。バイデン氏が黒人の副大統領を選ぶとすれば、その理由はむしろBlack Community、取り分けジム・クライバーン下院議員への恩返しが本質。覚えているかもしれないが、民主党大統領予備選でバイデン氏が苦戦するなか、サウスカロライナ州政界の重鎮であるジム・クライバーンの強い推薦によって同州の予備選で1位指名を勝ち取り、その後の起死回生劇に繋がった。バイデン氏は古い政治家であり、そうした恩は忘れない。
民主党副大統領候補予想 ~ スーザン・ライス元安全保障担当を有力視
上記で指摘された三つの副大統領候補選定条件を念頭においた場合、スーザン・ライス元安全保障担当が最も有力と予想する。最終候補者が3~4人ということだったが、スーザン・ライスの他に、カマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州)、ヴァル・デミングス下院議員(フロリダ州)そしてグレチェン・ホィットマー・ミシガン州知事ではないかと推測する。そこで、三つの条件(シンパティコ、サクセッションそして恩返し)に照らし合わせて各候補を下記に検証してみた(表参照)。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
信頼感・相性 (シンパティコ)
▶ スーザン・ライス ~ 候補者リストの中で唯一バイデンと長い交流関係を持つ。彼女はオバマ政権下で国連大使(2009年1月~2013年6月)そして国家安全保障担当(2013年7月~2017年1月)を務めた。政権発足時から二期在籍、言わばジョー・バイデンとは戦友。当時のホワイトハウス・スタッフによればバイデン副大統領はライスNSC担当のオフィスの前を通る際、必ず声をかけ冗談を言い合っていたとのこと。
▶ カマラ・ハリス ~ ハリス女史が上院議員になったのが2017年1月のため、二人がワシントンで重なる期間はほとんど無い。年齢差(56歳対77歳)、西海岸対東海岸の文化違いそしてワシントン政界の新人対エスタブリッシュメントの重鎮という違いを考えるとシンパティコ関係にはj悲観が掛かりそうだ。更にハリス女史は元大統領候補としてプライドそして全国的な知名度によるエゴも強いことから、チームプレイヤーとしては疑問視である。決定的と思われるのが、大統領予備選においてバイデン苦戦の切っ掛けを作った2019年6月27日第一回民主党討論会でのハリス女史によるバイデン攻撃である。あれから1年が過ぎたとは言え、シコリが残ってないはずは無い。
▶ ヴァル・デミングス ~ ハリス同様ワシントンでは新人ながら63歳はバイデン世代に幾分近い。最重要激戦州のフロリダ出身であると共に警察改革が問われる現状では、オーランド市初の女性警察長官は選挙選を戦うのに役立つ。それを優先するならシンパティコは多少譲らなければならない。
▶ グレチェン・ホィットマー ~ 48歳でバイデンとは最も歳が離れている。彼女がミシガン州上院で議長職に就いていた時(2011~2015年)、バイデンとは多少の交流があったようだ。更にコロナ対応で二人は3月ごろから定期的に連絡を取っていたとのこと。それでもオバマ・バイデンのような信頼関係からは程遠い。
後継力(サクセッション)
▶ スーザン・ライス ~ 国務省でアフリカ局副局長としてクリントン政権で4年(97~01年)、オバマ政権に8年、最後の4年は安全保障担当として中枢閣僚を務めた経験は他の候補を圧倒する。更にバイデン政権に就任する多くの閣僚とは親しい間柄と思われることから政権後継はスムーズに運ぶことが予想される。
▶ カマラ・ハリス ~ 上院の4年以外は主だった国政経験が無い。民主党大統領候補として幅広い政策研究をしている分、ライス以外の候補より多少大統領に近いかもしれない。
▶ ヴァル・デミングス ~ この4人の中で最も国政及び政策運営経験に乏しい。
▶ グレチェン・ホィットマー ~ 国政経験は無いものの、州知事として統治能力は評価に値する。特にコロナ対応においては真っ先に積極的に動き、州内外の圧力にも屈せず毅然と信念を貫きこロナ封じに成功した。ただ、大統領として同じ離京が発揮できるかは未指数。
恩返し(黒人候補)
▶ スーザン・ライス ~ 上記表で△を付けた理由は、母親がジャマイカそして両親がアカデミア出身(インテリ層)のため大半の黒人有権者と生い立ちが多少異なり、真の黒人系と言い難い。因みに父親のエメット・ライスは黒人二人目のFRB理事(79~86年)として有名。
▶ カマラ・ハリス ~ カマラ・ハリスも母親はインドそして父親がジャマイカ、且つ二人ともスタンフォードとバークレー大学の教授でインテリ層。典型的な黒人層とは言い難い。このため、民主党大統領予備選では黒人からの支持を取れず、早い段階で脱落した。
▶ ヴァル・デミングス ~ フロリダ州ジャクソンビルの貧しい家庭で生まれ、自ら大学そしてオーランド市初の女性警察長官に上り詰めた黒人の典型的な成功例。喋り方や動作が黒人有権者に親しみやすく、受けも良い。ただ、政治家として経験が浅いためインタビューや演説がぎこちないのが欠点。
▶ グレチェン・ホィットマー ~ 典型的な北米の白人・・・。
大方の下馬評はカマラ・ハリスとなっている。バイデン氏が知名度を優先するのであればハリス女史の可能性は十分あり得る。しかし、それは選挙選において不安を抱えているとも解釈できる。バイデン氏が選挙選に重点を置くのか、それとも政権運営を優先するのかで候補が自ずと見えて来る。でエリザベス・ウォーレンとの指摘もあるが、ウォーレン女史は民主党中道派から不人気そしてオバマ政権時で大統領及びバイデン氏とも対立した経緯を考えると副大統領の可能性は引くいと考える。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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