ジョセフ・クラフト 特別レポート

対中寛容政策の終焉が演出された二クソン図書館

掲載日:2020年07月27日

くまのプーさん ~ 本題に入る前に、ポンぺオ長官が15日に投稿した一見何気ないツイッターが、「習近平を侮辱」あるいは「中国へのけん制」をしているのではないかと物議を醸している。投稿は、「(愛犬)マーサーと彼女のお気に入りのおもちゃ」と題し、写真中央に「くまのプーさん」のぬいぐるみが置かれている(下記写真参照)。ご存じかもしれないが、「くまのプーさん」は、中国では習近をからかう侮辱的なニックネームであり、この言葉をネットに投稿すると中国当局から検問を受けるとのこと。個人的には、「たまたま・偶然」と思えないのが犬の存在である。中国では犬は凶暴な動物とされ、中国のネット社会ではアメリカを「犬」と批判することが多い。例えばフアーウェイの孟晩舟副会長がカナダで拘束された時、中国ではカナダのことを「犬の足」と批判。ポンぺオ長官はラジオのインタビューで投稿のことを問われ、習近平あるいは中国と関連づける意図は無かったと否定した。しかし、ポンぺオ長官が習近平のニックネームを知らないはずは無い。直近の対中安全保障アプローチ、直近の安全保障戦略報告書、エスパー、レイ、バーの対中強硬演説そして週末の南シナ海合同軍事演習など相次ぐ中国強硬姿勢が示されるタイミングでポンぺオ長官のツイッター投稿がたまたま、偶然だったとは疑わざるを得ない。

ニクソン図書館での演説 ~ プーさんよりも対中強硬姿勢に関して「シンボリック(印象的)」だったのが、演説の場をカリフォルニア州、ロスアンゼルス郊外にあるリチャード・ニクソン図書館を選んだことである。トランプ政権はこれまでもメッセージ性を計算した場所を選んで来た。2019年10月24日にペンス副大統領が対中演説を行う際にウッドロー・ウィルソン国際センターを選んだ経緯があった。ウイルソン大統領は貿易関税制度を撤廃したことで知られ、メッセージは米中貿易交渉(第一弾)で妥協すれば一定の関税見直しを図るというものだった。

そこでニクソン大統領図書館だが、ご存じのように同大統領は1972年に中国を訪問、その後の米中国交正常化の礎となった功績がある。これを機にアメリカは中国を徐々に国際社会に迎え入れ、クリントン政権下でWTO加盟を認め、対中寛容政策がより加速することになる。ところが5月20日に発表された「中国に対する戦略的アプローチ報告書」には、「中国を育み国際社会の一員に迎え入れるこれまでの政策は失敗」と、対中寛容政策の終焉を告げた。対中寛容清濁の終焉を象徴したのが、ニクソン元大統領の墓にポンぺオ長官が献花したことである(下記写真参照)。献花はキリスト教で「お別れ」あるいは「成仏」に近い意味合いがある。正しく、ニクソン政権で始まった対中寛容政策との別れを演出したのである。アメリカ対中政策との別れを演出したのである。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

大統領世論調査は何故ミスリーディングなのか? ~ カギを握るのは「投票率」

誤解が無いように冒頭に言っておきたいのは、現時点でトランプは間違いなく劣勢に立たされている。しかし大事なポイントとして、大統領選を占う世論調査はミスリーディング(不確実)な側面があり、その最大の要因は「投票率」にある。バイデン優勢は確かであっても、世論調査が示すほどの開きは無いと民主党の選対幹部が認めるほどである。

投票率の重要性に関して7月22日に発表されたReuters/Ipsosの世論調査を例に紹介したい。下記表①が示すように調査は、3,631人の登録有権者を対象に集計、結果はバイデン支持が46%に対してトランプ支持が38%と8ポイントの開きとなっている(因みに7月14日の調査では10ポイントの差があった)。3,631の回答のうち民主党員は50%を占め、うちバイデン支持が83%に上る(表の②参照)。逆に民主党員は全体の40%しか無く、うち80%がトランプを支持(表の③参照)。

つまり調査が示したバイデン8ポイントのリードの最大の要因は、民主党支持者の回答が多いからと言える。民主50%対共和40%という回答率(つまり投票率)が投票日当日の投票率を反映していない可能性が考えられる。無論、大統領選で実際の投票率が調査と同じであればバイデン勝利は間違いない。しかし投票率が45%対45%と別れれば僅差であり、共和の投票率が多き得れば当然トランプに有利に運ぶ。つまり、世論調査は当日の投票率を反映しなければ不確実性があるということである。確かに、本日大統領選が行われれば黒人を中心に民主党員の投票率が高いと考えられる。しかし、投票まで100日が残っており、1948年(トルーマン)と1968年(ニクソン)の大統領選は短期間で流れが十分変わり得ることを証明している。更に、バイデンは一度もディベート(討論会)をこなしていない。

最後に、投票率以外で重要なのが有権者の残り10%を占める中道派・無党派層である。下記の表④でも分かるように中道派層は「バイデン」、「トランプ」そして「分からない」と綺麗に分断している。民主対共和の投票率が互角・僅差だった場合、この中道派層が大統領選を左右することになり、ここを取り込むことは極めて重要である。兎に角言いたいことは、今はトランプが劣勢であっても世論調査には不確実性があり、現時点で大統領選の行方を決めつけるのは時期早々であるということ。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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