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ジョセフ・クラフト 特別レポート

アメリカの対中強硬姿勢の基盤である「国家安全保障戦略報告書」の概要

掲載日:2020年07月27日

23日(木)のポンぺオ国務長官の対中強硬演説が話題を呼んでいるが、この演説の基盤となっているのが5月20日に公開された「米国の中国に対する戦略的アプローチ」と題された安全保障戦略大綱である(下記資料参照)。安全保障戦略大綱とは、ゴールドウォーター・ニコルズ国防省改編法に基づき、政権と議会が当面の安全保障戦略に関して共通の認識を持つために定期的に作成される公式文書である。つまりこの安全保障大綱はトランプ政権のみならず、上・下両議院の了承を得ているのである。この安全保障戦略大綱の作成・取りまとめは、マット・ポッティンジャー大統領安全保障副補佐官が行ったと伺っている。この報告書に基づき一連の4者スピーチ(オブライエンNSC担当、レイFBI長官、バー司法長官そしてポンぺオ国務長官)が作成されたのである(詳しくは下記「ポンぺオ長官の対中強硬演説の4つのポイント」文を参照)。下記の安全保障戦略の概要ポイントを理解することで、4者スピーチの趣旨・意味合いがより分かり易くなると思われる。

この戦略レポートを一言でまとめると「大国間競争」時代に入ったと言えよう。下記に概要・主だったポイントを集約してみた。

▶  安全保障大綱の本質: レポートを省略すると、「中国を育み国際社会の一員に迎え入れるこれまでの政策は失敗、今後の米中関係を「大国間競争」と位置づけ,長期的に対抗すると宣言されている。

▶  中国の三つの挑戦・脅威: 中国は三つの挑戦を齎していると主張: ① 経済、② 価値観(イデオロギー)そして③ セキュリティ(安全保障)。経済に関しては企業へのサイバーテロ、技術移転強制、国際競争を妨げる政府補助金、模倣品被害そして一帯一路による不透明融資などの問題が挙げられた。価値観においては一党独裁制、全体主義、人権侵害や国家及び個人への圧制など民主主義への価値観が侵害されていると主張。セキュリティー(安全保障)は、東・南シナ海や台湾海峡での強硬的な軍事行動に加え、最新技術を不正入手するためのスパイ活動を挙げた。これが、下記に説明した4者スピーチの題材にそのまま反映されたのである。因みに6月26日のオブライエン演説は「イデオロギー」、7月7日のレイ演説は「スパイ活動(安全保障)」、7月17日のバー演説は「経済」そして7月23日のポンぺオ演説はこれらをまとめる意味合いがあった。

▶  三つの脅威に対する4つの対応: 上記挑戦に対して4つの安全保障戦略の柱で対応すると指摘: ①米国の国民,国土そして生活様式を守る,②米国の繁栄の推進,③力を通じての平和の維持,④米国の影響力の向上。①では,(経済)スパイ活動の摘発,悪意のある外国投資ぼ防止(FIRRMA法の強化),輸出管理規制(ECRA)の強化,アカデミアと国民を中国からの圧制・買収から守るなどが指摘された。②では,中国企業への補助金撤廃、強制的技術移転や知的財産侵害に対する制裁関税,貿易協定合意第一段執行の義務付けそして日欧と壮健且つ健全な経済・貿易プロセスを確立する。③では,三元戦略核戦力の現代化を進めること,インド太平洋戦略の促進、航行の自由作戦,台湾へ武器売却などにコミット。④では,宗教的自由を進める閣僚会議の開催,国際宗教自由連盟の発足,香港の高度の自治,法の支配,民主的自由の維持の要求などが挙げられた。4つの対応で最も目を引いたのが③の「力」を通じての平和維持、つまり軍事衝突も辞さないとも受け取る姿勢。

▶  結論(和訳): 米政権による中華人民共和国へのアプローチは、長年の対中政策の根本的な見直しを反映したものである。アメリカは両国間の長期的な戦略競争を認識している。全体的政府アプローチと現実的主義への回帰によってアメリカの国益を守り、アメリカの影響力を前進させて行く。同時に我々は中国との、建設的、結果重視(Results Oriented)のエンゲージメントそして互恵的協力には引き続き前向きである。我々は引き続き中華人民共和国のリーダーたちと敬意を持ちながら、現実的に中国政府のコミットメント(約束)の執行を求めていく。結論に再度強調された志向は「対中政策の根本的な見直し」と「結果重視のエンゲージメント」であり、これは今後のトランプ政権の行動を占うのに絶対に理解しておくべき見解と言えよう。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

ポンぺオ長官の対中強硬演説の4つのポイント

カリフォルニア州にあるニクソン図書館でのポンぺオ国務長官の対中スピーチを一言でまとめると「習近平への宣戦布告」ではないか。ヒューストンの中国領事館閉鎖の制裁に止まらず、南シナ海での軍事衝突や最悪の場合は台湾をめぐった戦争に等しい本格的な国家対立に発展するリスクが高まったを懸念している。そこでポンぺオ長官の演説映像及びスピーチ全文を読んだところ、四つの注目ポイントを紹介したい。

ポイント① ポンぺオ演説は「対中強硬姿勢」の第4章(まとめ)である:  ポンぺオ長官は自身の演説が、6月26日のオブライエン安全保障担当、7月7日のレイFBI長官そして7月17日のバー司法長官に継ぐ第4章、「対中強硬姿勢演説」のまとめであると言及した。オブライエン演説は「イデオロギー」、レイ演説は「スパイ活動」そしてバー演説は「経済(技術覇権)」に着目、そしてポンぺオ演説の役割はそれらを集約、中国の脅威がアメリカ国民及び世界民主主義にとってどのような影響を及ぼすのか説明することとした。ポンぺオ演説をより理解そして今後のトランプ政権の行動を占ういみで、以前に行われた3者のスピーチの要点をまとめてみた。

▶ 第1章 「イデオロギー」 ~ オブライエン安全保障担当は、「中国はマルキスト・レニン組織であり、個人が国や党のために犠牲にされる全体主義(Totalitarianism)を貫いている」と批判。中国国民は、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という思想を強要されており、中国人のみならず、アメリカ国民の自由を脅かすものと主張。オブライエン氏は共産党や習近平氏を批判する一方、中国国民には敬意と友情を抱いていると主張、国家と国民を区別することに気を使った。

▶ 第2章 「スパイ活動」 ~ レイFBI長官は、「アメリカが直面している最大の経済脅威は高度技術や知的財産を狙った中国のスパイ活動」と指摘。中国は10時間に一回のペースで防諜行為を行っており、FBIはその捜査に追われている。中国の不法行為は概ね四つに分けられると指摘: ①経済スパイ活動(サイバーテロ)、②アカデミアへの脅迫・買収、③米企業や国民への脅迫・買収そして④法治主義の無視。FBIはこうした中国の行為に断固たる措置を講じると断言。直近のヒューストン領事館の閉鎖命令は明らかにスパイ活動への対抗措置である。

▶ 第3章 「経済(技術覇権)」 ~ 中国共産党は経済電撃作戦(Economic Blitzkrieg)を行っており、技術による世界支配を目論んでいる。それが「Made in China 2025」である。更に権力と影響力を広めようとする野心的イニシアチブが「一帯一路」と「デジタル・シルク・ロード」である。その他、アメリカのサプライチェーンは中国に依存し過ぎており、深刻な安全保障リスクを抱えていることに言及。西側諸国のパートナーらと共に中国の野心そして依存度を抑制する必要があると宣言。直近のイギリス及びイタリアによるフアーウェイ排除はバー演説が示すトランプ政権の意向(圧力?)を反映したものであろう。

ポイント② 批判の対象は習近平個人:  ポンぺオ・スピーチで印象的だったのが、中国国民への批判を避け、兎に角習近平個人が悪の根源であると主張。ポンぺオ氏は、「習主席は破綻している全体主義イデオロギーの信奉者だ」、「習近平が夢見る新中華世紀(Chinese Century)では無く、自由な21世紀を望むのであれば古いパラダイム(対中寛容政策)は続けられない」あるいは「我々(自由主義国)が許さない限り、習近平による国内外での圧制は成功しない」と習近平批判に着手した。対立軸あるいは批判を習主席自身に向けることで中国国内での習近平体制を弱小化する狙いがあるものと思われる(でもそう簡単ではない)。

ポイント③ 結果重視(Results Oriented):  ポンぺオは、6月16日にホノルルで行われた楊潔篪政治局員会談は成果が無かったことを明かした。同長官は、「いつも同じだ、主張だけ並べても態度は全く変わらない」と愚痴。更に「楊局員の約束は空手形で、他の中国政府高官と同じだ。」とも指摘。「中国を真から変えるには、彼らの言葉では無く結果・行動を見て判断するしかない」と断言。締めくくりに長官は、「レーガン大統領はソ連と接する際に『信用しつつも確認(Verify)が必要』と語ったが、中国は疑いを持って確認する必要がある」と不信感を露わにした。この結果重視志向(Results Oriented)への転換は上記の「米国による中国への戦略的アプローチ」にしっかり明記してある。

ポイント④ 一段と高まった軍事衝突リスク: 今回のスピーチで個人的に注目していたのが台湾への言及である。「一つの中国政策」の否定までは踏み込まなかったものの、台湾への配慮が確実に見られた。 先ず中国の圧制行為に触れるなかで、「(過去に」友人である台湾のことを軽視、十分に支えて来なかった)と後悔の念を告げた。今後は中国との縦になり、より積極的にる台湾を守るとも受け取れる発言だった。更に、「防衛省は、東と南シナ海"そして台湾海峡でも"、体制強化及び航行の自由作戦を展開して行く」とコメント。深読みと言われるかもしれないが、「そして台湾海峡でも(and in the Taiwan Strait as well)」の文言は台湾を特に重視・強調しているニュアンスが感じられる。7月19日から始まった日米豪印による南シナ海とインド洋での合同軍事演習(QSD)」、21日のエスパー防衛長官による南シナ海における中国の主権主張は「完全に違法」宣言そして今回のポンぺオ長官の中国批判(特に台湾重視)の演説からは、アメリカは中国との軍事衝突も辞さない構えであることを警告していると思われる。しかし、習近平としても権力体制が侵されかねないことからやすやすとは引き下がれないであろう。アジア海域での軍事衝突・地政学リスクは一段と高まったものと見ざるを得ない。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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