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ジョセフ・クラフト 特別レポート

ミネソタ州黒人暴行死が及ぼす副大統領候補選びへの影響

掲載日:2020年06月01日

5月25日(月)に黒人男性のジョージ・フロイド氏が拘束時に白人警官に首を圧迫されて死亡した事件が発端で全米各地で抗議デモが広がっている。これは単なる警察暴行事件で片付けるべきではない。この事件は、長年燻り続けて来た人種差別不満に加え、経済格差の増大、治安情勢の悪化や政治不信そして、直近コロナ渦による人種及び経済被害への怒り一気に爆発、全国に波及したものと考える。先ず、この事件に関して一言。8分53秒に及ぶビデオを見る限り、どう寛容的に見ても過剰暴行の何ものでない。更に、被害者の息が止まったことを知りつつも、2分半近く膝でクビを圧迫し続けたことは意図的な殺人と思わせるほど卑劣。それから起訴せずに、解雇に止めた当初のミネアポリス検察官の対応ミスが市民の怒りに火を付けてしまった(下記写真参照)。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

この事件は、大統領選においても大きな意味合いを持つ。予てから2020年の大統領選は、黒人・マイノリティ票が重要と指摘して来た。2016年の大統領選では、黒人投票率があと2~3%高かったら、少なくともミシガンとウィスコンシン州そしておそらくペンシルバニア州もヒラリーに傾いていた。コロナ渦で存在感を全く見せられていないジョー・バイデンにとってこの事件は、黒人とマイノリティ票の投票率を上げる絶好のチャンスである。

小生は、2020年は戦後で副大統領候補が最も影響を及ぼす選挙と位置付けており、短所が多いジョー・バイデンとしては最も重要な決断になるであろう。3月から大統領選を勝ち抜くのに最も重要とされるラストベルトの激戦州(ミシガン、ウィスコンシン、オハイオとペンシルバニア)を囲い込むためには、ミシガン州のグレッチェン・ホィットマー州知事を選択することが賢明と指摘した来た。しかし今回の事件によってバイデン陣営はおそらくマイノリティ候補の選択を固めたものと思われる。黒人を筆頭に他のマイノリティ及びリベラル有権者(白人若年層)の感情がここまで高ぶったと以上、白人の副大統領候補では失望に繋がり、選挙戦での投票率を落としかねない。

そこでマイノリティの副大統領候補を改めて検証してみたい。下記写真は現在、バイデン陣営が副大統領として挙げていると思われるマイノリティ候補たちである。この中で、特に3人の候補に着目したい: ①カマラ・ハリス、②ヴァル・デミングス、そして③スーザン・ライス。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

▶ カマラ・ハリス ~ 主要メディアは早い段階からハリス女史の選考を有力視して来た。確かに彼女は全国知名度が最も高く、若者有権者からの支持も高い。更にカリフォルニア州司法長官としての経歴も優位に働くとの指摘がある。しかし、個人的には疑問を抱いている。確かにマイノリティ候補ではあるが、典型的なアメリカ黒人とは言えない。母親はインド人そして父がジャマイカ出身で共にUC BerkeleyとStanfordの学者というインテリ階級。アメリカ中部や南部の黒人有権者から見て「One of Us」と認知され難いと思われる。その証拠に、彼女は早々と大統領候補選から脱落したが、その要因の一つが黒人支持がとても低かったことが挙げられる。そして最大の問題が彼女の司法長官として経歴と言えよう。司法長官時代、犯罪に厳しい姿勢を取り、黒人・マイノリティの逮捕・検挙率が大きく上がり、本選ではアキレス腱になりかねない。

▶ ヴァル・デミングス ~ 以前にも紹介したが、フロリダ州、ジャクソンビルの貧しい黒人街で生まれ、自力でフロリダ州立大学を卒業したデミングス女史は。1983年にオーランド市警察に入隊、2007年には女性として初めてオーランド市警察署長に就任し、黒人対警察の対立緩和に手腕を発揮した。黒人から見て「One of Us」であると共に司法改革議論においては適した経歴を持つ。最大の難点は知名度が低いこと。次に国政の経験が少ない。彼女は2017年1月にフロリダ州下院10区に当選したばかり。更に個人的主観だが、彼女にインタビューを何度か拝見、不慣れのためか親しみ感に欠け、逆に黒人色が強く、白人有権者が遠のくリスクがある。

▶ スーザン・ライス ~ オバマ政権で国家安全保障担当として国政経験は豊富。万が一に大統領職に就任しなければいけない場合、現候補の中で最も適してる。特にコロナ渦後の安全保障対応に置いて彼女の右に出る者は少ない。更に、バイデン氏を民主党大統領候補に押し上げた立役者で、下院院内総務を詰めるほど民主党内での影響力を持つ黒人議員のジム・クライバーン氏がライス女史を態々リストに加えるよう助言したことは見過ごせない。しかしライス女史は、首都ワシントンでの評価は高くとも全国知名度は低く、エスタブリッシュメントとしてのレッテルが張られてしまっている。首都ワシントンDC生まれであることもエスタブリッシュメント色を強めてしまっている。因みに彼女に父、エメット・ライス氏、はFederal Reserve Bankで二人目の黒人理事(1979~1986年)である。更に、ベンガジ疑惑、トランプ選対本部の盗撮疑惑あるいは弱腰な中国外交などオバマ政権時代の闇・批判事項を引きずる懸念が持たれる。

今回の事件で一つ言えることは、エイミー・クロブチャーの評価が失墜したことである。正しく渦中のミネソタ州上院議員でありながら、指導力はおろかテレビにもほとんど出演せず、存在感を全く発揮できていない。その理由はおそらく、ミネソタ州の検察官だった2006年の今回疑惑の警察官(デレク・ショービン氏)が他の経験と黒人容疑者を射殺した際に起訴しなかった経緯が挙げられる。そもそも無いと思っていたが、これでクロブチャー女史の副大統領候補の可能性は完全に無くなった。

バイデン氏としては、知名度のハリス女史か、黒人有権者が親しみやすいデミングス女史か、それとも政策通のライス女史か、悩ましい選択が迫られる。無論、まだ早いし今後の情勢次第では新たな候補も加えられる可能性がある。個人的にはミシガン州のコロナ第2波対応次第では、まだグレッチェン・ホイットマー州知事の可能性も残っていると考える。しかしフロイド事件が齎したことは、今回の副大統領候補選では経験や政治思想よりも黒人・マイノリティからの支持を最も確保出来る人物が選定されるものと推測する。その意味では、カマラ・ハリスとヴァル・デミングスの二人が現時点では頭一つ抜けているのではないか?

トランプにとってミネソタ州暴動よりもSpaceX打ち上げが大事な理由

ミネアポリス市の黒人暴行死事件を発端に、ミネソタ州から全米各地に抗議デモや暴動が拡散。これまでの大統領なら公式行事をキャンセル、神聖化を図るため現地に乗り込むあるいは、せめてホワイトハウスに残り指揮を執ったり、国民に呼びかけるものである。ところがトランプ大統領は、フロリダ州でのSpaceX打ち上げを視察に行った。実はトランプにとって、SpaceXはオバマ政権対トランプ政権の違いを象徴する大事な意味合いがあるのだ。

米宇宙技術・進展はかつてアメリカの偉大さの象徴と多くの国民が思っている。そのシンボルであるNASA特にスペース・シャトル事業が打ち切られたのがオバマ政権下の2011年。正しくは、スペース・シャトル計画打ち切りが決まったのは2004年のブッシュ政権。それでもオバマ大統領が再開しようと思えば出来たが、そのまま終了させた。トランプは就任時から宇宙計画の復活を掲げ、2019年に「スペース・フォース(宇宙軍)」の設置を指示した。トランプは、宇宙開発の復活を偉大なアメリカの復活の象徴としたい狙いがある。

民間企業の功績にも関わらず、打ち上げ成功後にトランプは記者会見を開き、あたかも自分の成果のように高らかに謡った。会見でトランプは、「When I first came into office three and a half years ago, NASA had lost its way and the excitement, energy and ambition was gone...With this launch, the decades of last years and little action are officially over. A new age of American ambition has now begun.」とNASAの衰勢・劣化と共にアメリカの停滞時代の終焉を主張。そして、「The last administration presided over the closing of the Space Shuttle and almost all of the giant facility that keeps so many people working, so many brilliant minds going. People were crying, 」とオバマ政権批判を行った。無論、「And last year I signed the law, creating the sixth branch of that already very famous United States Armed Forces, the Space Force....The United States has regained our place of prestige as the world leader.」 と自画自賛も忘れない。

当然、暴動について何も触れない分けには行かい。会見の冒頭で用意した文を読み上げた。暴動が激しさを増す最中、態々フロリダの宇宙センターに出向くほど、このイベントは大統領選にとおて有利に働くという計算があっての決断である。一見、マイナスと思われる行為。しかし、アメリカ人の多くはコロナ渦で日々続くネガティブ・ニュースに疲れ、疑心暗鬼になっている。こうしたポジティブなニュースは誇りを植え付け、トランプの好感度アップにつながるとホワイトハウスは期待している思われる。本当にプラスに寄与したかどうかは今後の世論調査に注目したい。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

米通信品位法230条とは? SNSプラットフォームは根本的に変わるのか?

5月30日にトランプ大統領は、「230廃止!」とだけツイートを投稿した。どういう意味なのか?トランプが、「郵送投票は実質的に不正な行為だ」と主張した2件のツイートに対しTwitterが「要事実確認」のラベルを付けたことに反発、SNS企業の免責保護を制限する大統領令と直結するものである。。米通信品位法にある230条は1996年に制定され、SNSプラットフォーム会社(Facebook、GoogleやTwitterなど)が、第三者によって提供されたコンテンツに対して、一部の例外を除き法的責任を負わせない条例である。これによってインターネットで興隆している不適切コンテンツ、偽造情報あるいは誹謗中傷投稿などの社会問題を招いているとの批判が指摘されている。逆にこの条項が無ければ、プロバイダーは大半のコンテンツを拒否あるいは許可するまで時間が掛かり、表現の自由が規制されたり、インターネットの便宜性が失われかねないと賛否両論。

個人的な見解を申し上げると、免責保護制限の大統領令はほとんど政治パフォーマンスに過ぎない。議会が通した法案を大統領令で廃止・修正することは出来ない。現に問題の大統領令を読むと、法案廃止・修正では無く、FCC(連邦通信委員会)に230条に関する規則の明確化と新たなガイドラインの明記を求めている。大統領の面子を立てるため、FCCが新たなガイドラインを示す可能性はあるものの、裁判では230条が優先されるので拘束力は限定的である。実は、民主党と共和党共に230条の改定を希望しているが、それぞれ全く違う理由で修正したがっているため、大統領選までに議会で法案の改定は難しいと思う。

心配なのは、230条が存命したとしてもFacebookやTwitterなどのプロバイダーにとって余計な負担・リスクが強いられる可能性が考えられる。大統領令によって個人や企業からの訴訟リスクが増えること、裁判で勝訴したとしても訴訟費用や時間などの負担が掛かる。更に企業・ブランドのイメージ・ダウンにもつながりかねない。その意味では、今までよりは投稿の規制あるいはチェックが強化される可能性が考えられる。一つ不思議なのが、Twitterによって最も恩恵を受けている人物はトランプ自身ではないか?SNS企業が投稿規制を制限した場合、自分の首を絞めるだけではないか・・・?

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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