ジョセフ・クラフト 特別レポート
アイオワ州民主党党員集会総括
掲載日:2020年02月10日
アイオワを制しただけで大統領はおろか民主党指名候補になる訳ではない。しかし、火曜日のニューハンプシャー州予備選でブティジェッジ氏が万が一サンダーズ氏に勝つ、あるいは接戦に持ち込むようなことになれば、2008年のようなオバマ旋風が吹く可能性が考えられる。アイオワ州の投票結果をより掘り下げるとブティジェッジ旋風が垣間見られる。そこでニューハンプシャー州予備選を占う意味でアイオワ党員集会から下記の四つのポイントを紹介してみたい。
① 勝者より敗者
② ブティジェッジは第二のオバマになれるか?
③ サンダーズ対ブティジェッジ比較
④ アイオワ効果が早くも確認
ポイント① 勝者よりも敗者
勝者は確定できていないが、はっきり言えることは敗者がジョー・バイデンであること。同氏の代議員得票率は15.8%で順位が失望的な4位(下記表参照)。しかし、実態はもっと悪かった。アイオワの党員集会は、変わった制度を取り入れているため、ニューハンプシャー州などこれからの予備選挙の参考になり難い。その意味で、アイオワ党員集会の一般票を見てみたい。代議員得票率は、3位ウォーレンの18.0%に対してバイデンは15.8%と2.2%の差(下記参照)。しかし、ストレートに有権者の人気・支持を示す一般票はウォーレンが20.2%でバイデンは13.7%と実に6.5%も開いている。5位のクロブチャーとは僅か1.4%の差しかない。つまり、ウォーレンと競っているのではなく、むしろクロブチャーと5位争いを展開していると言える。バイデンにとって悪いニュースは更にある。
バイデンにとって致命的ともなり得るデータを紹介したい。そもそもバイデンが全国支持率1位にある最大の理由は「反トランプ票」。バイデンが支持されるもは、政策とか資質とかよりもなんとなく最も「最もトランプに勝てそう」という見解。アイオワ党員集会の入り口調査で、候補の投票基準を聞いたところ、「政策に共感できる」の37%を「トランプに勝てる候補」が61%と上回った(下記棒グラフ参照)。そこで、「トランプに勝てると回答した」61%を支持者別で見ると、バイデンは圧倒的リードどころか、ブティジェッジに僅かながら負けている。更にサンダーズ、ウォーレンそしてクロブチャーと比較しても圧倒的な差はない。「トランプに勝てる」という見解・イメージが薄らいだらバイデンの存在価値がなくなり、一気に衰退しかねない。更に、最新(日曜日)のCNN/ニューハンプシャー州大学の世論調査で「誰がトランプに勝てるか?」との問いに、サンダーズ(30%)がバイデン(23%)を上回った。僅か1ヶ月前は、バイデンが41%でサンダーズが20%と大きく差を付けられていた。バイデンの地滑りは始まったのかもしれない。
ポイント② ブティジェッジは第二のオバマになれるか?
共和党選対本部の幹部が密かに注目しているデータを紹介したい。下記は、アイオワ党員集会の郡別での勝者チャートである。注目するのは赤く囲った州東側の地区である。この地域に強い候補は、予備選は元より大統領本選でも健闘・勝利する傾向があるとのこと。2008年にオバマはこの地域で圧勝、そのまま勢いに乗って大統領となった。2016年は、トランプがアイオワ州全体で2位に入るも、この東側地域の大半を制した。今回、ブティジェッジが正しくこの注目地域大半の郡を勝ち取っている。アイオワだけで予備選を予想するのは到底早過ぎるが、共和党選対本部も、ブティジェッジの存在に着目している。
ポイント③ サンダーズ対ブティジェッジ比較
全体の得票率はブティジェッジ(26.2%とサンダーズ(26.1%)とほぼ同じ。しかし、投票の中身・性質はかなり違う。アイオワ州党員集会の入り口調査から二つのデータに着目してみたい: ①政治思想と②年齢別投票。先ず、下記グラフは政治思想別に支持率を分けている。リベラル(左派)総は全体の25%を占め、予想通りそのうち43%がサンダーズを支持している。穏健層(中道派)は30%を占め、バイデンとブティジェッジが共に25%の支持を分けている(これもバイデンにとって痛い動向)。最も注目のなが間の「多少リベラル層」である。この層は全体の42%と最も大きい。リベラル寄りにも関わらず、最も支持を受けたのはサンダーズ(19%)でもウォーレン(16%)では無く、ブティジェッジ(27%)である。有権者の3割は熱狂的にサンダーズ支持ながら、残り7割の有権者に関してはブティジェッジが有利である。
次に年齢別の支持(下記グラフ参照)。全体の24%を占める「17~29歳」の若者層は圧倒的にサンダーズ支持(皮肉にも最も年配候補を最も若年有権者が支持)。ところが、サンダーズはより年配層の支持が低い。「45~64歳」層には11%程度の支持で「65歳以上」からは僅か4%の支持しかない。逆にブティジェッジは、全年齢性から大体20~25%と安定した支持がある。何処国でも同じだが、投票率が高いのは高齢層である。アイオワの年齢データが全国を象徴するものであれば、サンダーズ陣営は心配すべきである。因みにバイデンは高齢に強く、若者に弱く、サンダーズと逆の問題を抱えている。ウォーレンはブティジェッジのように比較的安定しているものの、支持自体が低めである。
ポイント④ アイオワ効果が早くも確認
前回のレポートで、アイオワは票の数(全体の僅か1%)が大事では無いと指摘した。アイオワの重要性は「勢い」、順位によって支持率(メディア露出度)と献金の流れに影響が出ること。その「アイオワ効果」がニューハンプシャー予備選に波及している。アイオワ集会前のRealclear Politicsの支持率調査で、ウォーレンと4位争いをしていたブティジェッジがアイオワ後に飛び跳ね単独2位に立った(下記チャート参照)。同時にバイデンは17~18%から12%台に下落している。献金動向はまだ報告されていないが、同じ流れとなっていることはほぼ間違いない。最新のCNN/ニューハンプシャー大学の世論調査では、サンダーズ28%、ブティジェッジ21%、バイデン12%そしてウォーレン9%となっている。この調査が正しければ、ニューハンプシャー州は概ねサンダーズ対ブティジェッジの一騎討ちとなりそうだ。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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