ジョセフ・クラフト 特別レポート

政治献金から検証した弾劾訴追効果・・・

掲載日:2019年12月25日

共和党全国委員会(RNC)が集めた11月の政治資金額(PAC~政治行動団体を除く)が2,060万ドル(約22億円)と、11月の献金額として過去最高を記録(下記左チャート参照)。11月~12月は年末商戦あるいはチャリティなど他の出費が重なり、政治献金が細る傾向がある。集金額同様に重要なのが党の手元あるいは余剰資金。11月時点で、共和党の手元資金額は6,320万ドル(約70億円)と2012年以来の高水準とのこと(下記右チャート)。好調な献金収集の背景には弾劾訴追が影響しているようだ。たとえばつい先週の18日、弾劾決議が可決されたその一日だけで500万ドル(約5.5億円)、年間一日平均額の7倍も集まった。ペロシ議長が弾劾調査を発表した9月に献金額が飛び跳ね(2,730万ドル)、その後も証人尋問や下院決議など弾劾にまつわる注目イベントがあるごとに献金が増えている。

一方、民主党全国委員会(DNC)の11月献金収集額は810万ドル(約9億円)で、手元資金がたった840万ドルに留まった。より詳細に言うと民主党は700万ドルの借金があり、実質の余剰資金は140万ドルほどに過ぎず、共和党と圧倒的な資金力の差が出てしまっている。ただ、これに際して考慮すべき事情として、多くの献金の多くが大統領候補に直接入っていて、党に入らない回らないこと。野党としてありがちな傾向である。政党の資金力が大統領選を占うものでは無いが、財政事情は党の統制において極めて重要。この意味で、僅からながらでも弾劾決議で民主党から造反者が出たの対し、共和党から一人も出なかったのはこうした資金力が関わったものと考える。逆に、この財政事情でペロシ議長は造反者をよく3人に止められたと手腕を誉めたい。

弾劾訴追は、特に激戦州での世論を遠ざけしてしまったけでなく、共和党の財政力をも強めてしまう民主党の完全な失策と再度指摘せざるを得ない。1999年にニュート・ギングリッチ下院議長(共)は弾劾に踏み切り、その後の選挙で大敗を喫し、議長を辞任するだけでなく政治生命も絶たれてしまった。ペロシ議長もその二の舞を踏みかねない状況にある。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

民主党討論会:トランプに絶好の広告コピーを提供してしまったバイデン・・・

大統領候補の討論会が行われる度に、メディアは候補たちを勝者と敗者に分ける傾向がある。12月19日に行われた6回目の民主党討論会で、最大の敗者は民主党自身と言えよう。それは、討論会が弾劾訴追の影に隠れてしまい、視聴率はこれまでの討論会で最低を記録した。自業自得。そして個人的に、最大の勝者はトランプ大統領だと思う。その理由は、バイデンが民主党指名を受けた場合、本選でトランプが利用する最高の広告コピーを与えてしまったからである。

討論会で環境問題が取り上げられ、司会の一人を務めたティム・アルベルタ記者が、バイデン氏に「これまで原油と天然ガス生産によって爆発的な経済成長の恩恵を受けて来ました。大統領としてよりグリーン経済(環境保全)のために、その成長の一部を犠牲にする用意はありますか?たとえそれが何十万人の(ブルーカラー)労働者の失業を招くと分かっていても・・・」と尋ねたところ、バイデン氏は躊躇なく「その答えはYESだ・・・」と言い切った(下記参照)。バイデン氏は、一部の労働者が失業しても他の産業への転職サポートなど労働の流動性を首相し、フォローした。しかし、共和党・トランプは「その答えはYESだ・・・」の部分だけ切り取り、政治広告として流すであろう。つまりトランプは雇用増・景気促進、バイデンは失業・景気減速というイメージを有権者に植え付けるのに最高の映像・キャッチコピーである。推測だが、共和党選本部は広告代理店とCM政策に既に入ったものと思われる。

リベラル・メディアや民主党支持のコメンテーターらは「主だった失言が無かった」や「無難に乗り切った」としてバイデン氏の討論会パフォーマンスを評価した(個別候補のパフォーマンス評価について下記参照)。確かにバイデンの十八番である失言は無かった。しかし、上記の発言は後にバイデンの足を引っ張りかねない大失態になりかねないと考える。トランプにとってはありがたいクリスマス・プレゼントとなった。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

第六回民主党討論会、個別候補者のパフォーマンス評価

ジョー・バイデン: 可もなく不可もなくだったことで概ねメディアから賞賛。それは、バイデン氏への期待値が低いことと、他の候補の弱さを露呈したものに過ぎない。バイデン氏を熱狂的に支持する有権者は皆無。他の候補に比べ、消去法的にトランプに勝てそうという点が支持の最大要因。バイデン自身の力量よりも、反トランプ層の増加がカギを握る。現状は不利。

バーニー・サンダーズ: 相変わらず理想論ばかりで現実味に欠ける討論。しかしウォーレン女史が医療改革財源を具体的に公表して勢いを失ったことを見れば現状路線を貫くのが賢明であろう。一つ不味い場面を挙げるとしたら、人種問題を問われたのに、答えを避けて環境問題を熱弁。司会者が途中で、質問は人種問題と指摘しても曖昧な返答で終わった。人権問題への理解・興味が薄い印象を与えてしまった。これではマイノリティー票を取り込むのは難しい。

エリザベス・ウォーレン: これまで他候補への攻撃を控えて来たウォーレン女史が一変。特にブティジッジ氏を狙い撃ち。彼のエリート層との繋がり、富裕層からの献金を強く批判。この狙いは自分の庶民派イメージのアピールすること。しかし、庶民派というより、焦りを露呈した印象を受けた。夏から秋に欠けての躍進の原動力だった自信とエネルギーは明らかに欠けていた。立ち直れるか不安を残す討論会となった。

ピート・ブティジッジ: バイデンよりも他候補からの攻撃が集中。エリート批判に関して、民主党候補の中で唯一億万長者で無いことを主張したり、ウォーレンも上院選挙で富裕層からの献金を受けていると効果的に反論するも、一定のダメージは免れない。アイオワとニューハンプシャーで躍進するも、その後は苦戦が予想される。ここまで善戦したことは凄い。大統領指名は無理だが、上院議員あるいは州知事の道が開けたと言えよう。

エイミー・クロブチャー: 期待値が低かったこともあり、討論会で一番善戦したと思う。中道派としてバイデンとブティジッジの票を多少奪うかもしれないが、大統領指名を受けるには、認知度、資金力そして政治手腕(政策立案力)が弱すぎる。

アンドリュー・ヤン: アジア系どころか唯一のマイノりティー候補として注目を浴び、笑いを取るなど場を最も盛り上げた。候補者全員が弾劾を支持する一方、唯一、「民主党は弾劾に拘り過ぎており、より政策を重視すべき」と違いを見せた。この回答が会場の共感を最も受けたかもしれない。パフォーマンスは良かったが、クロブチャー女史同様、指名を受ける現実性が薄い。

弾劾訴追: 戦術ミスだけでは飽き足らず、品格の無さを露呈する民主党・・・

弾劾訴追が世論の支持を増やすどころか、反発を招き始めている自体を考慮し、ペロシ議長は弾劾決議の朝(19日)に民主下院議員を集め、採決にあたってはしゃいだり、喜びを表さないよう態度を慎むよう苦言を指した。記者会見でも、「今日は憂鬱で悲しい日」や「重い心で臨む」など、弾劾訴追は政治目的や個人的感情でないことをアピールした。当然、これ以上世論の反感を増幅させないためのペロシ議長の気遣い、懸念の現れである。ところが・・・

弾劾可決 ~ 最初の弾劾議決案が可決されたことをペロシ議長が表明すると、民主党議員が拍手で喜んだ。その瞬間、ペロシ議長が議長席から睨みつけて注意する一幕があった(下記①参照)。まるで遠足に出掛ける小学生を叱るかのごとく。既に織り込まれていた弾劾決議以上にこの場面が話題となり、各ニュース番組で報道されてしまった。
インスタグラム騒動 ~ 弾劾訴追が決まった後に発覚したのが、ラシーダ・タリーブ議員のインスタグラム。彼女は決議のため議会席に向かう途中、大はしゃぎで笑う自撮り映像を投稿(下記②参照)。ペロシ議長が懸念していた通り、SNSで批判が殺到した。浅はかなことに、タリーブ議員は激戦州のミシガン出身。そもそも弾劾訴追の反発が優勢な州で、出身議員の失態には呆れるばかり。
メディアも同罪 ~ 弾劾可決の夜(19日)、ワシントン・ポストとCNNの記者らが集まったクリスマス・パーティからのツイートが物議を醸している(下記③参照)。ツイートには、、メリー・クリスマスと弾劾を掛けて「Merry Impeachmas」と投稿。その日のWAPO記事やCNNの放送で、アメリカにとって「喜べない日」や「汚点の残る悲しい歴史」と落胆的な報道に終始していただけに、偽善的や猫かぶりとの批判が集まった。民主党支持のメディアまで足を引っ張る始末。

トランプそして共和党は、弾劾訴追は個人的・政治的な恨みが動機との主張を正しく裏付けるような民主党の軽率な行動。トランプ再選をより強固にしかねない呆れた行動。世界政局において共通点を挙げるとしたら、それは情けない体たらくな野党・・・。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

【ご注意事項】

お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。 また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートに表示されている事項は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。

【バックナンバー】