ジョセフ・クラフト 特別レポート
共和党の逆襲? ~ ロシア疑惑捜査の検証報告書が本日公表・・・
掲載日:2019年12月09日
レポート概要: 来月の上院弾劾裁判に向けて共和党は攻勢の準備に邁進している。その口火を切るのが、本日(9日)に、米司法省のロシアの2016年大統領選介入疑惑捜査が正当だったかを検証する調査の報告書が発表される。レポートはマイケル・ホロウィッツ監察官がまとめ、特に注目されているのが、FBIが2016年以降に秘密裁判所「外国情報監視裁判所」から「特定の米市民」の通信を傍受する令状を違法に取得した疑惑、つまりFISA(外国情報監視法)違反である。モラー捜査官が任命される以前、ロシア疑惑捜査はFBIが主導しており、トランプ陣営と共和党は反トランプ思想を持つFBI執行部による策略とそしてオバマ政権の介入があったと主張して来た。
民主党の悩み: 弾劾調査が盛り上がらない最中に、ロシア疑惑捜査を多少なりとも疑う事実が出ると、共和党・ホワイトハウスは無論、FOX News始め保守系メディアはこぞって、トランプを貶めようとする策略、弾劾もその一環であると主張される。ただでさえ弾劾調査が盛り上がらない中、そのような疑惑は世論の関心がウクライナ疑惑背けられ、最悪は大統領選に影響を及ぼしかねない。民主党にとって面倒なことが、ホロウィッツ監察官はオバマ政権が2012年に司法省に任命されており、トランプ支持者との言い訳が効かない。従ってトランプに有利な報告が少しでも出ると説得力と重みを持つ。
共和党・政権戦略?: モラー捜査が実行中、共和党・ホワイトハウスは、FBIのバイアス・不適切捜査をしきりに主張していた。ところが、報告書発表間近なのに与党はおとなしい。FOX Newsや保守系メディアは多少取り上げているがいきり立ってない。CNNやリベラルメディアは基本的に無視しており、無論日本では報道はほとんど無い。考えられることは二つに一つ。一つは、報告書の内容が政権与党にとって全く使えないものであること。もう一つは、民主党(弾劾調査)の教訓から、事前リークせず、報告書公開と共に攻勢を掛ける戦術。ワシントンのホワイトハウス通によると後者の可能性が強いとのこと。本報告書はモラー捜査のように(FBIを)完全にクロと位置づけるのではなく、むしろ部分的に違反・不適切捜査が指摘される可能性がある。そこで共和党は発表を待って、有利な部分だけ強調する戦略に出るつもりとのこと。弾劾調査の非公開証言の際、民主党は証言内容を事前にリーク。一時的に盛り上がったが、公聴会に入った時、目新しい内容が無かったため、世論がシラケた経緯がある。その間違いを共和党・ホワイトハウスは理解、二の舞を踏まないよう気を使っている可能性がある。
報告書内容: 調査内容は基本的にロシア捜査が正当であり、オバマ政権の介入およびFBIの組織的な策略は無かったと位置付けるものになりそうである。トランプが批判したコーミーFBI長官、マッケーブ副長官そしてトランプ批判のテキスト・メッセージを愛人に送り解雇されたピーター・ストローク元捜査官による犯罪性も認められないようだ。しかし、民主党は手を上げて喜べない。先ず、コーミー元長官は機密情報取り扱いの職務規範に抵触したと司法省が8月に発表、マッケーブ副長官は情報漏洩に関する偽証(3件)が発覚、2018年3月に解任されている。ストローク捜査官においてはトランプ政権を貶める内容のメールが発覚、モラー捜査から外され、その後にFBIも解雇された。3人のFBI幹部は起訴はされないまでも、不適切な行動があり、改めてレポートに含まれるものと思われる。
今回最も注目される点としてFBI職員の起訴である。FBIの弁護士であるケビン・クラインスミス氏が、トランプ選対チームの一人、カーター・ペイジ氏の通信傍受の許可を取得するために申請書の内容を改ざんしたとの疑いがあり、監察官が司法長官に起訴を推奨しているとの噂がワシントンに流れている。これが本当であれば、共和党・ホワイトハウスはロシア疑惑は民主党・反トランプ勢力の策略と大々的に謳うであろう。Fox Newsも連日連夜の報道合戦に打って出る。民主党にとって更に分が悪いのが、クラインスミス氏ははヒラリー・クリントンのメール疑惑捜査にも携わっており、不起訴に誘導したのではとの憶測を煽りかねない。
最後にポイントは、共和党・ホワイトハウスとしては別に公開される報告書に黒・白付けてもらう必要は無く、単にグレーである怪しい事案を一つでも二つでも指摘して貰えれば良いだけ。弾劾調査を打ち消すとまで言わないが、下院から世論の眼を反らす雑音が造り、不信感を植え付ければ上出来。あとは、上院の弾劾裁判でバイデンの息子疑惑やトランプに有利な証人を呼び、大統領選に向けた攻勢に転じられる。
裏目に出る弾劾調査 ~ 呆れる民主党の雑で素人まがいな戦術・・・
情報委員会が提出した弾劾調査報告書の中に含まれていた電話の通話記録が新たな波紋・物議を醸している。本題の前に、弾劾調査が盛り上がらない背景には、民主党の戦術が要因と指摘してきた。先ず9月24日に、ホワイトハウスがウクライナ疑惑の情報を隠していることを理由に、ペロシ下院議長が弾劾調査を正式に発表するも、翌日にホワイトハウスが問題視されるトランプ・ゼレンスキー会話のメモを公開、出鼻をくじかれてしまった。次に非公開証言に入ると、民主党は次々に内容をリーク、トランプ支持層そして一部中道派層からも不信感を買う。そして証言ごとに、民主党は弾劾容疑を「Quid Pro Quo(見返り)」から「Bribery(贈賄)」、「職権乱用」や「捜査妨害」など次々に変えて、政局的な意図を露呈してしまう。公聴会に移ると、既に(非公式証言から)内容が出てしまったため、放映はインパクト・新情報に欠け、更に5日間で12人の証人を詰め込み、疲労感と疑惑の争点がボヤケテしまった。挙句の果てに12月3日に弾劾調査報告書の公開した際、アダム・シフ下院情報委員会議長はフリップを使ったプレゼンを展開。本来、大統領の弾劾は、重苦しく、深刻な問題のはずが、シフ委員長は時折笑みを浮かべ、業とらしいフリップを使って不謹慎な印象を与えてしまった。素人まがいとしか言いようのない、失策の連続である。
そこで起死回生の策なのか、ワラにすがったのか、情報委員会は大統領の個人弁護士であるジュリアー二氏の通話記録を公表、物議を醸している。通話記録は、ジュリアーニ氏が各省に圧力を掛けると共に、大統領と共謀した間接的な証拠だと民主党は主張。中でもジュリアーニ氏とOMB(米行政管理予算局)の13分間会話を取り上げ、民間人がOMBと話す理由は無く、ウクライナへの軍事資金を差し止める圧力を掛けた可能性が高いと指摘(下記参照)。その他、「-01」で終わる番号は大統領の直通ラインの可能性が高く、その場合はトランプ自身がジュリアーニ氏に直接指揮したとも主張。通話記録の中にはヌーネス情報委員会副委員長や民主党に批判的な保守系ジャーナリストのジョン・ソロモン氏も名前も明記されていた。共和党は個人の権限を無視し、通話記録は不正に入手した可能性があると反発。アダム・シフ下院情報委員長は情報の入手経路に関して言及を避けた。
ところが、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は民主党の主張するOMBの電話番号が、ホワイトハウスの交換台であると民主党の主張を否定。重要な物的証拠として高らかに謡った通話記録がはからずも疑問視されたことで民主党は赤っ恥をかき、情報委員会の弾劾調査の信憑性が疑われかねない事態を招いた。民主党は事あるごとに返り血を浴びる体たらくな戦術ミスを露呈。来月から上院の弾劾裁判に入ると、情勢は民主党にとってより不利になる。ペロシ議長は当然分かっているものの、今更左派勢力を抑えて弾劾決議を諦めることは出来ない。2020年大統領選が遠のくばかりである・・・。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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