ジョセフ・クラフト 特別レポート
弾劾失策の煽り ~ 弾劾決議の替わりに問責決議案が一部から浮上・・・
掲載日:2019年12月02日
民主党の思惑とは裏腹に弾劾公聴会が世論を動かせてないことは何度も指摘させていただいた。現実を直視したのか、まだ少数ながら一部の民主党議員から「弾劾決議」よりも「Censure(問責決議)」が得策との指摘が浮上している。日本と違い、アメリカでは「問責決議案」という概念はあまり無い。弾劾は憲法に記されているが、問責決議を意味するCensureの記述は無い。「Censure」は解任やその他の罰則規定が無く、単に公的叱責あるいは注意に過ぎない。国会議員がCensureを受けた場合、委員会から外されることはあるが、議員辞職は無い。歴史的に、大統領への問責決議案が可決したのは4回: ①1834年のアンドリュー・ジャクソン、②1860年のジェームス・ブキャナン、③1864年のエーブラハム・リンカーンそして④1912年のウィリアム・ハワード・タフト。戦後は一度も無い。
下院での約40の激戦区の民主党員の間で再選の危機感が募っている。週末そして感謝際で帰省した激戦区の民主党議員らはタウンホールで集中攻撃を受けているとメディアが報告している。議員の危機感を高めているのが、共和党による批判広告攻勢がある。例えばAmerican Action Networkというトランプ支持の政治団体が先週から7百万ドルも掛けて、37の下院激戦区民主党議員を直接狙った批判広告戦略を展開し始めた(下記参照)。広告は弾劾調査に賛成した民主党議員を名指し、そのため医療改革や貿易協定議論が滞っていると主張、更に議員事務所の電話番号まで載せて、抗議の電話を入れるよう誘いかけた。こうした広告展開が効いているのか、選手になってペロシ下院議長がUSMCAの承認に前向きな発言を始めた。民主党への寄付金は予備選候補に流れており、この段階で共和党に対抗出来るほどの財政力が無い。
民主党執行部の中からも焦りが見え始めたと一部メディアが報告している。当初は共和党から何人の造反者が出るかが焦点だったが、今は民主党からの造反者に注目が転換しはじめている。弾劾調査決議の際、共和党からの造反はゼロに対して民主党は二人。弾劾決議を取る時に共和党が依然造反ゼロで民主党が10人に増えれば、失策が浮き彫りになり、民主執行部への批判が高まる。そうした責任回避から、弾劾決議を諦め、より軽い「Censure」であれば議員らの造反を抑制できる考えとのこと。Censure論はまだ少数派であり、ここまで来たら後戻りはできないと考える。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
FOX Newsのケーブル放送視聴率41ヶ月連続1位、大統領選への影響は?
アメリカの2大ケーブルTV・ニュース・ネットワークは保守のFOX News対リベラルのCNNとの印象が日本では強い。それもFox Newsの存在感・認知度の方が小さいと言えよう。しかし、実態は逆である。先週、11月の月間ケーブルTV・ニュース番組別視聴率ランキングが公表された。トップ25位の番組中、FOX Newsは14番組がランクイン(下記表参照)。それに対してCNNは僅か一つ。番組別視聴率だけでなく、放送局としての視聴率ランキングでもFOX Newsは41ヶ月連続で一位に対してCNNはこの数年間で5位~10位圏内に止まっている。日本では馴染みが無いが、CNNほど保守的では無いものの、リベラル系の放送局ではMSNBC(マイクロソフトとNBC放送の合弁)がFOX Newsに対抗して2位の地位を固めている。
人気トップの番組としてFOXの「ハニティ・ショー」と「タッカー・カールソン・トゥナイト」が挙げられ、番組アンカーを務めるショーン・ハニティ氏とタッカー・カールソン氏は露骨なトランプ支持者であり、連日弾劾批判を繰り広げている。FOX Newsはトップテンに6番組も入っており、度合いは違うもののそれぞれが弾劾批判を展開している。強硬な反トランプのCNN番組としては23位の「クオモ・プライム・タイム」一つだけ。クオモ・プライム・タイムの平均視聴者数はハニティ・ショーの358万人に対して124万人と3分の1に過ぎない。
弾劾公聴会が世論を動かせてないのは民主党の戦術ミスと以前に指摘したが、メディアの影響力も保守に有利に働いていることが挙げられる。日本では、米政局に関する情報は、CNN、ニューヨーク・タイムズそしてワシントン・ポストの反トランプメディアが中心であるため、トランプが劣勢に立たされている印象があるかもしれないが、米全土ではそうではないことを理解すべきである。小生は、FOX NewsとCNN両方を視聴しているが、最近のCNNは過剰な反トランプ報道に走っており、見るに堪えがたい。Fox Newsも同様あるいはそれ以上にバイアスが掛かているが、より自然あるいは慣れているのか不快感が少ないように思う。このリベラル対保守のメディア勢力が2020年の大統領選に影響を及ぼすことも考慮する必要がある。民主党の大統領候補らも今のところ不甲斐ないが、CNNやニューヨークタイムズも情勢を変えないと、トランプの再選をアシストしかねない。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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