ジョセフ・クラフト 特別レポート

日米金融政策予想検証 ~ 負け犬の遠吠え・・・

掲載日:2019年11月06日

先週のレポートで、「あえて市場コンセンサスと異なる予想~FOMCは政策維持、日銀は緩和する」との予想を立て、見事に外した。恥も外聞も無く、負け惜しみを言わせていただくと、FRBは10月では無かったが12月に緩和休止を示唆。日銀に関しては、政策声明文に異例とも言える2ページに及ぶ「『物価安定の目標』に向けたモメンタムの評価」との説明書きを添付するほどモメンタムが低下していないちょっと苦しい弁明に追われた印象を受ける。景気・金融情勢がよほど好転しない限り、(補正も出ることから)12月の利下げが濃厚になったと懲りずに予想する。しかし、展望レポート、政策声明文そして黒田総裁の記者会見を見て、景気が良いのか悪いのか正直分からない、日銀はリスペクトしているし、批判する気持ちは毛頭ないが、今年で最も矛盾を感じるメッセージだった気がする(自分は日銀以上に矛盾しているので、人の事は言えない・・・)。

日銀のフォワード・ガイダンス修正に関して(未熟ながらに)感じた事は・・・:

新ガイダンス:「日本銀行は、政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。」

・「モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間」と変えたことは、政策トリガーを「カレンダー・ベース」から「リスク・ベース」に変更。

・「リスク・ベース」というのは客観的なデータではなく、より日銀の主観的判断が入り、市場としてはより読み難くなった(例えば黒田総裁はしきり堅調な設備投資を強調)。

・補正の発表が出たことから、金融・財政政策のシナジー効果を狙う意味で12月は利下げの好機と考える。

「漱石枕流」な小生でした・・・あしからず。

弾劾調査決議で最も重要数字は「0」 ~ 共和党の結束力で潮目が変わる(?)・・・

ご存じ、10月31日に下院で弾劾調査を始める決議が行われ、232対196で可決された(下記表参照)。先週の弾劾調査決議で最も重要な数字は「0」であり、弾劾調査をめぐる政局の潮目が変わると思う。「0」とは、共和党から賛成に回る造反者が一人も出なかったことで、衝撃的な数字と言えよう。(20世紀以降)過去2回の下院弾劾調査採決を見ると、1974年のニクソンの時は4人を除く、共和党下院ほぼ全員の177人が調査執行に賛成した(これを切っ掛にニクソンは辞任)。1998年のクリントンの場合、大半の民主党員は反対したものの、それでも31名(15%)が造反(賛成)したのである。弾劾調査決議は実際の弾劾決議(罷免)とは違い、調査の手続きを決めるもので、接戦区の議員らは(真実追及名目で)とりあえず調査に賛成票(造反)を投じて、有権者の反応を見ながら最終決議で反対すべきか見極めるのが、常識というか主流の選択肢である。1998年に造反した民主党31名はいづれも接戦区出身の議員。しかし今回は、接戦区が少なくとも40区もあるのにも関わらず、共和党から造反者がゼロだったことは驚きのなにものでも無い。更に接戦区以外で、19名の共和党議員が2020年で引退を表明しており、再選を気にする必要が無い。この中から4~5名どころか一人も賛成に回っていない。造反者「0」の結束力は、共和党執行部以上に、トランプの求心力の凄さを印象付けるもので、今後の弾劾決議そして来年の大統領選の行方に影響を及ぼすもの考える。

共和党の結束力に、民主党は無論、リベラル・メディアは腰が砕けたというか不意打ちをくらったことは間違いない。ペロシ議長及び民主党執行部は、「共和党員でさえ大統領は不適切だと思った」と大々的に主張して、これからの公開調査に弾みを付けたかった。弾劾調査決議をライブで配信していたCNNのアンカーは明らかに気落ち、世論は民主党に傾かないかもしれないと弱音を漏らす反トランプ・コメンテーターが出るほど、番組でショックの様相は隠せなかった。重要なポイントは、下院共和党がここまで団結すると、上院での否決は確実であり、弾劾プロセスが時間の無駄であり、世論から怒りを買う可能性が考えられる。反トランプ陣営への心理的打撃は大きい。共和党議員がここまで団結を見せると、トランプ支持の有権者もより結束、大統領選に弾みがつき、さらには迷っている中道派の有権者も傾く可能性が考えらる。大統領選を目の前にして民主党は余計なリスクを背負ってしまった可能性がある。

では何故共和党はここまで結束出来たのか?弾劾調査決議直前にトランプ大統領・ホワイトハウスが下院議員一人ひとりにロビー活動を行った事実は分かっている。共和党団結の背景には様々な要因が考えられるが、二つの大きな理由が挙げられる: ①バイアス掛かった(民主党)議会対応への反発と②(トランプからの)選挙資金・選挙協力。下院情報特別委員会のシフ委員長あるいは同議員の事務所が事前に内部告発者と会っていた事実を隠したことや、9月26日の国家情報長官の公聴会でトランプ発言を露骨に歪曲したことも反感を買った。更には、シフ院長率いる情報委員会が非公開証言会でトランプに有利な証言は隠し、不利な証言をリークして来たことはメディアでさえ指摘している。しかし共和党が最も反発したのが、今後の公開公聴会の手続きである。本来双方が証人を呼び、質疑を行うが、シフ委員長が認めない証人は証言出来ず、更にホワイトハウスの弁護士は公聴会に参加できないなど制限が持たれたことである。これは、クリントンとニクソン時のプロセスとは異なり、公平な公聴会が開けない。そしてもう一つ大きな要因は大統領選の財政状況。トランプは2019年9月末で3億ドル(約320億円)の献金を集めている。これは2011年のオバマの同時期の倍の額である。当然、来年に入ればより多くの個人献金が集まり、大物献金者(シェルドン・アデルソン)も加わる。当然、下院選を叩くのにこの資金がものを言うのとやはりトランプ支持者(ベース)を囲いたい議員が多い。見事に共和党執行部・トランプが囲い込んだことになった。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

弾劾調査は諸刃の剣 ~ 全国的に支持でも接戦州では不支持・・・

10月10日のレポートで弾劾調査は民主党の失策になると紹介させていただいた。それ以来、世論調査は有権者が弾劾支持に傾いているとの指摘を受ける。必ずしもそうでは無い。以前から指摘しているが、2016年の教訓として、大統領選を占うのに全国世論調査は昔ほど参考にならない。むしろ州ごとの選挙人制度動向を分析することがより大事で、特に接戦州を注視することが必要。この意味で下記表(CNN調べ)の世論調査を見ていただきたい。「トランプは弾劾・罷免すべきか?」との問いに全国世論調査では48%対44%ですべきであると確かに支持が上回っている。しかし、接戦6州(アリゾナ、フロリダ、ミシガン、ノースカロライナ、ペンシルバニアとウィスコンシン)だけに絞ると43%対53%とすべきでないが多い。全国調査では一見、民主党が有利に思えるが、接戦州では逆効果となる可能性がある。ペロシ下院議長が弾劾調査に踏み切る考えを表明した9月24日以前、接戦州での反トランプ票が増えていただけに、今後確たる証拠・証言が得られなければ、民主党に逆風が吹くと思われる。ペロシが弾劾手続きを拒んだ直観が正しく、民主党は不用意なリスクを背負ったと思わざる負えない。まだ早いものの、2020年大統領選の予想は依然トランプの落選と見ているが、民主党が塩を送ったことで、より接戦となるものと思われる。

出所:CNN調査・報道

ベト・オルーク候補離脱 ~ 後に続くのは誰だ?

テキサス州上院選での善戦、当初若手のエースとして華々しく参戦したオルーク候補が金曜日に大統領候補選を離脱することを表明。個人的には、初めから同候補とカマラ・ハリスの可能性はゼロと見込んでいた。何故なら政策理念に乏しいからである。リベラルなのか中道なのか、風向きによってスタンスを変えていたのでは続かないのは当たり前である。オルーク氏が離脱を余儀なくされた直接の理由は選挙資金がほぼ底を付いたからである。先週のレポートで9月末時点での各候補の手元資金状況を紹介させていただいた(下記表参照)。

下記に紹介しているように、財政事情で次に離脱の可能性が高いの著名候補として、Amy KlobucharとCory Booker候補である。共に4億円前後の資金がある(9月末段階)。4億円もあればまだまだやれるのではと思う人も居るかもしれないが、全国展開をするスタッフ(当然ボランティア除く)を抱えるのには苦しい。スタッフを回すのがやっとで広告など打てない。次に危険水鬼に居るのが、Andrew Yang、Joe BidenそしてKamala Harrisと思われる。バイデンとハリスは9月末時点で大体10億円前後の資金を有し、離脱を余儀なくさせられる水準では無いが、積極的に選挙活動するのには厳しい資金繰りと言える。先週のレポートでバイデン選対本部は、遊説先でスタッフをホテルに泊めずにボランティア・有権者の自宅に無料で泊めてもらっていることを紹介した。

資金的に積極的な選挙活動が行えるのが、20憶円以上の資金を持つBernie Sanders、Elizabeth WarrenそしてPete Buttigiegである。特にピート・ブティジッジの動向に着目、バイデンの選挙活動が今後失速・制限されるようであれば、彼が中道派の受け皿になり得るからだ。数週間前までカマラ・ハリスと4位・5位争いを展開していたが、ここに来てハリスを引き離し、単独4位の地位を固めた。大統領選予備選の最初の投票州となるアイオワの世論長では、ブティジッジ候補は2位に付けている(下記右表参照)。当初から小生はブティジッジ候補を支持、躍進は不思議ではないが、同時に民主党の指名を受ける可能性は極めて低いとも指摘して来た。それはアメリカが、同性愛者の大統領をまだ受け入れられないからである。ピート・ブティジッジは大統領にならなくとも、予備選で台風の眼になる可能性は十分にあり得る。注目すべき人物である。

出所:OpenSecrets.org(民間選挙監視団体)

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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