ジョセフ・クラフト 特別レポート
金融政策予想:FOMCは据え置き、日銀は緩和(深掘り)
掲載日:2019年10月30日
市場の9割以上が30日にFOMCは0.25%引き下げ、そして7割近くは日本銀行が政策緩和を見送ると予想している。FOMCに関してはマーケットの大半が織り込んでいるにも関わらず、FRBが期待調整の言及をしなかったことから利下げの期待は理解出来る。日銀に関しては円安・株高の局面を受けて緩和期待が低い中、あえてリスクを取る必要は無いとの観測はこれも常識見解と言えよう。しかし、間違いを承知の上で、FOMCは据え置き、日銀は緩和とあえてアウト・オブ・コンセンサスな予想を呈したい。
・FOMC: 9月上旬、パウエル議長は黒田総裁に、(無論データ次第では変わる可能性があることを前提に)年内までの金融政策のベース・シナリオを説明したと理解している。それは、「7月の利下げは上げ過ぎた金利の調整、9月は保険的措置、10月は据え置いて、12月は全くのデータ次第」というイメージ図を描いたようだ。FOMCが据え置く推測には二つの背景がある: ①米中貿易協議好転期待・思惑と②金融緩和の限界(緩和手段の温存)。そもそもFOMCが9月の予防的緩和措置に踏み切ったのは、米中貿易対立だと言及している。ご存じのように部分合意ながら、一定の合意に辿り着き、景気・金融情勢はとりあえず(年内?)まで落ち着く可能性が高まった。現に企業決算予想や消費者センチメントの先行的景気指数の一部に改善の兆しが見られている。FOMCには利下げの余地がまだあるとは言え、大幅な利下げには限界がある。将来のリスクに備えて温存したいのが本音。3回連続の利下げとなれば、マーケットは12月の利下げも要望、パウエル議長が指摘した「予防的措置」ではなく「利下げサイクル」となってしまう。10月に利下げして12月は無い、打ち止め感を見せると、投資家の失望・景気不安を煽り、まとまった株価下落を招きかねない。むしろ10月を据え置くも、12月に緩和の余地・含みを残した方が、株式市場の安定を図り易い。子供のおねだりと同じで、どこかの時点で市場の利下げ期待を調整させないと、歯止めがかかり難くなり、将来より大きな株価の下落を招いてしまうリスクがあると考える。
BOJ: 黒田総裁は、「『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる恐れがあれば躊躇なく緩和措置に踏み切る」と主張、7月から今まで以上にトーンを強めている。では、「物価安定の目標」とは何か?株・為替水準を含め全体的な景気動向を含むが、具体的には「需給ギャップ」と「インフレ期待」と位置付けて間違いないと考える。需給ギャップについて日銀は10月3日にデータを公表、プラスではあるものの、2四半期連続で減少している(下記チャート参照)。2四半期連続で需給ギャップが最後に減少したのは2015年の後半で、2016年の1月には初のマイナス金利を導入したことは言うまでもない。ただ、2015年時は需給ギャップがマイナスだったのに対して今回は減少しているも、プラスは維持している。しかしながら、黒田総裁は「モメンタムが損なわれたら」ではなく、「損なわれる恐れがあれば」と踏み込んだコメントをしているため、需給ギャップの現トレンドはそれに当てはまるものと考える。
出所:日本銀行
二つ目のインフレ期待だが、データは公表されていないものの、基本的に横ばいから多少弱含んでいると認識している。需給ギャップに比べるとインフレ期待でモメンタムが損なわれているとは言い難い。しかし、モメンタムが維持されているとも言い難い。特に先行き観に懸念が出始めている。ご存じのように春先から消費者物価指数が下降基調に入っている。インフレ期待は足元のCPIに誘導されやすいため、インフレ期待に下向きプレッシャーを与えかねない(下記チャート参照)。更に日銀が注目する10月発表の短観指数データも当初の予想よりは幾分良かったものの、全産業のDI及び予想値が年初から下落傾向にある。無論需給ギャップの縮小もインフレ期待の重石となる。こうした下向き圧力のデータは今後インフレ期待も押し下げる可能性があり、黒田総裁としてはモメンタムが維持されていると説明するのには無理があるのではないだろうか?
出所:内閣府 全国消費者物価(CPI)
出所:内閣府 日本銀行 日銀短観DI(全産業)
確かに株価と為替を見る限り、日銀が緩和するとは思い難い。しかし、上記データを見る限り、「『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる恐れはない」とは擁護するのは苦しいのではと個人的に考える。オオカミ少年と言われないためにも黒田総裁の本音は緩和に踏み切りたいのではないか?問題は緩和措置である。 緩和するとすれば、19日のロイター・インタビューで示されたように、政策金利の深掘りであろう。ただ、それだけではイールド・カーブのフラット化及び銀行株の下落や円高を招く不安がある。そこで、深掘りをする場合は何かイールドカーブのフラット化及び円高を抑制出来る策を組み合わせることを模索していると思われる。そうした策が講じられれば、緩和に踏み切ると思うし、自信が持てる追加案が無ければ見送る可能性は否定できないというか確率が高い。
民主党大統領候補選①: 選挙資金から占う候補たちの持久力 ~ バイデンは正念場・・・
いろいろ理想を語っても、選挙活動の命綱は資金。民主党大統領候補選の特徴の一つとして既得権益に縛られない反エスタブリッシュメント(既成政治)を主張すべく、バーニーサンダーズやエリザベス・ウォーレンなど各候補らはスーパーPAC(企業や団体からの献金の受け皿となる政治資金団体)の設立を拒否している。ジョー・バイデンも同様にスーパーPACからの献金は受けないと公言。ところが昨日、バイデン氏は約束を撤回、スーパーPACの設立を発表した。それには苦しい台所事情が背景にある。
10月6日のレポートで民主党候補らの7~9月期の献金(収入)状況を紹介した。ジョー・バイデンの3ヵ月間の集金額は1,520万ドルとサンダーズ・ウォーレンの約2,500万を大きく下回るだけでなく、ピート・ブティジッジの1,910万ドルにも及ばず、4位となった。選挙活動の積極性と持続力は資金力によって左右される。その意味で、下記表は2019年9月時点での各候補の選挙手元資金をリストしてみた。ジョーバイデンは900万ドルとピート・ブーテジェッジどころかカマラ・ハリスをも下回る。台所が火の車状態にあるのだ。報道によると選挙スタッフの一部は遊説地のホテルでは無く、支持者の家に泊めてもらうほど倹約を余儀なくされているとのこと。
献金は候補の支持層のすそ野の広さを表しているから重要である。アメリカの選挙法では個人献金は2,800ドルまでと定められている(スーパーPACは該当しない)。前のレポートで紹介したように、例えばエリザベス・ウォーレンは7~9月期で2,460万ドルを集め、献金者一人あたりの平均献金額が26ドル、つまり献金者数は94.6万人となる。逆にバイデンは一人当たり倍の44ドルで献金者数は34.5万人。献金者数が少ないだけでなく、今後支持者が献金出来る余力資金(限度額)はウォーレンの半分を意味する。つまり、新たな支援者を発掘しない限り、資金力でウォーレンに更に差を付けられることが浮き彫りとなっている。
そこでバイデンは、仕方なく企業に頼らずを得なくなったのだが、ことは簡単ではない。何処の国でも同じだが、企業・団体(大物献金者)は勝ち馬に乗りたい。支持層が狭く、選挙資金が乏しく、持続力が弱い候補に多額の献金をするのは当然躊躇するものだ。こうした財政事情を抱えて、スーパーPACからどこまで献金を集められるかジョー・バイデンは正念場を迎えている。
出所:OpenSecrets.org(民間選挙監視団体)
民主党大統領候補選②: バイデン対ウォーレンの支持率検証
リアルクリア・ポリティックスの主要世論調査平均数値を見ると10月初旬にエリザベス・ウォーレンの支持率がバイデンと並び注目を集めた。以外にもそこからバイデンが引き離している。10月22日の時点で、バイデンの支持率は27.2%に対してウォーレンは21.8%と差が開いている(下記チャート参照)。これには二つの理由が挙げらえると考える: ①中道派の危機感と②バーニー・サンダーズへの同情票。
中道派の危機感 ~ 切っ掛けとなったのが、10月15日の民主党討論会(ディベート)と思われる。エリザベス・ウォーレンの猛追でディベート直前から中道派メディアが左派大統領の可能性を大々的に報道、中道派層の危機感を煽った。その懸念がディベートで的中、他の候補者らが攻撃するフロントランナー(優勢候補)はジョー・バイデンでは無く、エリザベス・ウォーレンだった。あのディベートを見れば大半の有権者はウォーレン女史優勢との印象を受けたであろう。その反動・危機感からバイデンに一定の支持が回帰したと思われるが、バイデンとしては喜んでいられない。一部の中道派有権者はバイデン支持に回帰するも、他の中道派候補に乗り換えている動きが見られる。その恩恵を受けたのがピート・ブティジッジとエイミー・クロブチャー女史である。ディベートの翌日、両候補に献金が一日で100万ドルも集まった。これはブティジッジ候補の一日平均の約4倍である。資金が底をつき始めているクロブチャー候補にとっては神からの恵みと言えよう。両候補への献金増はバイデンからの鞍替えを意味、現に直近のバイデン支持率が多少減少するのに対しブティジッジの支持率が上がっている。このトレンドが続けばバイデン氏は窮地に立たされかねない深刻な事態に陥る。
サンダーズへの同情票 ~ ディベートから一番恩恵を受けたのはバーニー・サンダーズかもしれない。心臓発作直後の討論会で健康面が心配されたが、サンダーズ氏は元気よく振舞った(少なくともバイデンよりは元気があった)。アメリカ人はアンダードッグ(弱者)を応援したがる。その意味で左派有権者の一部がバーニー支持に回ったと思われる。直近の支持率を見るとサンダーズが上がった分だけウォーレンが下がっている。バーニーの頑張っている姿は喜ばしいが、同情票は長く続かず、ウォーレンに回帰することが予想される。
出所:RealClear Politics:民主党大統領候補の主要世論調査平均支持率
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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