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ジョセフ・クラフト 特別レポート

ペンス中国スピーチ検証:表向きは強硬、本質は融和的・・・

掲載日:2019年10月28日

副大統領の演説は、最初に強い口調で始まり、強硬的な印象を与えるかもしれないが、中盤から中国政府へ配慮を見せ、最後は未来志向で関係改善を促す、予想以上に融和的なものである。スピーチからは二つのテーマが伺えた: ①国内有権者(特に中道左派)へのアピールと②中国政府対立の小休止・関係改善を促したこと。トランプ政権としては目論見通り、この2点においてバランスの取れた演説が出来たと見ているだろう。米株式市場の反応から少なくとも、悲観的な演説では無い。2018年10月4日の演説後にDJIA株価は約200pt下落、翌日も180ptそして月間で1,300pt(△5.8%)と大きく下落したの対して昨晩は僅か28ptの減少そして現在先物は+7ptと落ち着いている。さて上記二つのテーマについて検証してみたい。

・国内有権者(中道左派)へのアピール ~ 先ず4300文字のスピーチで、冒頭の150文字でシリア撤退を正当化する。これは共和党支持者・中道保守層が対象。次に900文字で過去の政権が中国の不正行為を黙視、トランプで初めて立ち向かったと主張、更には失業率は50年来の低い水準、家計所得の向上など成果を訴え、まるで一般権者への選挙演説である。その後に香港問題に言及、これまでトランプ政権の高官としてはもっとも踏み込んだことは驚きだった。香港デモに関して、「And to the millions in Hong Kong who have been peacefully demonstrating to protect your rights these past months, we stand with you. 」と呼びかけた。しかし、これは香港人よりも、香港デモを支持する国内の中道左派、取り分け若者層を意識した発言と考える。面白いのは、香港デモを支持する一方で、中国政府にも配慮を見せていることである。一つの配慮は、「peacefully demonstrating」と明記したことは暴動を起こすデモは支持しないとも受け止められ、中国・香港政府の主張を容認しているようにも思える。二つ目の配慮は中国政府が最も重要視している「主権」である。香港問題を語る冒頭で、「We respect the sovereignty of nations.」と中国の主権を重んじていることを述べ、更に表現の自由や人権を支持することを明確に述べる一方、香港問題の対応に関して具体的且つ直接的に中国政府の批判を避けている。これは中道左派にアピールする一方、過度に中国を刺激しない、バランスを考えた巧みな文だと思った。香港問題に関して最も驚いたのが、「(中国政府の反感を恐れ)社会的良心を忘れている」とナイキやNBAなど米企業を名指しで批判したことである。これは明らかに中国政府向けでは無く、「大企業は悪」とする左派有権者、いかにもエリザベス・ウォーレン支持者が喜ぶ発言である。こうしたコメントの意図には後に大統領選での討論でトランプ政権が香港を筆頭に人権問題に関して甘いとの批判をかわすアリバイ作りだと考える。

中国政府対立の小休止・関係改善を促す ~ 中国に対する融和姿勢はスピーチの前、ペンス副大統領のツイッターから示唆された。「我が政権発足時からトランプ大統領は中国との関係構築にコミットして来た。本日はウィルソン・センターで"この"重要イシューについて言及するとペンス自身でスピーチの本質を一文にまとめたのである。

今回のスピーチで最も印象に残った言葉は「デカップリング(分離)」である。ペンス副大統領は演説後半に、「People sometimes ask whether the Trump administration seeks to 'decouple' from China. The answer is a resounding "no." (トランプ政権は中国との『デカップリング』を求めているのかと問われることがある。答えは明確な『ノー』だ。」と強調した。この姿勢は去年の10月4日スピーチと大きく異なる。中国側から強いて反応があったのが、この「デカップリング」発言である。中国本土でツイッターへの投稿が許され、中国政府の非公式スポークスマンと言われる新華社通信傘下の環球時報のHu Xijin編集長が演説直後に下記のツイートを投稿している。Hu Xijin氏は、「ペンス演説への最初の印象は従来の中国批判を繰り返している。しかし彼は、『アメリカは中国とデカップリングしたくない、両国は平和且つ繁栄する将来を見出せる』と、米中関係改善に前向きに語った。」と投稿。更に、上記で指摘したペンス自身のツイートまでも添付、中国政府の受け止めを反映したものと考える。

ほとんど報道されなかったが、中国政府への配慮に関してもう一つ注目する文がある。2018年10月4日の演説では「China has been meddling in America's democracy.」と2016年の選挙妨害と犯罪行為に関して直接非難した。ところが今回は、「Beijing's economic and strategic actions, its attempts to shape American public opinion, prove out what I said a year ago, and it's just as true today: China wants a different American president.(中国の経済及び(軍事)戦略、アメリカ世論を歪めようとする行為は私が1年前に指摘したことと今日も同じである: 中国は違う大統領を望んでいる。)」。選挙妨害という犯罪行為を行ったと位置付けるのと、単に大統領の交代を望んでいるとでは次元が違う話である。

最後に1年前と昨日のスピーチの締めくくり文を比較してみたい。

2018年10月4日:「Today, America is reaching out our hand to China. And we hope that soon, Beijing will reach back with deeds, not words, and with renewed respect for America. But be assured: we will not relent until our relationship with China is grounded in fairness, reciprocity, and respect for our sovereignty.」

2019年10月24日:「America is reaching out our hand to China. And we hope that, soon, Beijing will reach back, this time with deeds, not words, and with renewed respect for America.」

一年前と同じ文でスピーチを終えているが、今回は、「勘違いしないように、我々は中国との関係が平等的、互恵的そして尊敬に基づくまで屈することは無い。」との文を削除してより融和的に終えている。11月のAPECでの首脳会談に向けてアメリカのメッセージは中国政府に伝わったものと解釈する。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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