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ジョセフ・クラフト 特別レポート

ペンス副大統領の中国スピーチは強硬的か融和的か?

掲載日:2019年10月23日

今週24日(木)に、これまで何度か延期されてきたペンス副大統領の対中演説第2弾が行われるとホワイトハウスは明かした。2018年10月4日に、ハドソン研究所で、副大統領が宣戦布告とも言える強硬的な対中政策を発表したことは記憶に新しい。そのスピーチは、その後の米中関係を象徴して来たとも言えよう。今年の6月に中国の人権問題を中心に第2弾の対中スピーチが予定されたが、突如延期となった。先週15日には、米下院が香港人権法案を可決、中国への圧力を強めている。木曜日のペンス演説はそうした流れを汲んだ強硬的なものとなるのか?それとも軌道修正をしてより融和的なものに変わるのか?

結論から言うとペンス副大統領の対中国スピーチは、より融和的な内容を含むと予想する。無論、これまでとは180度転換するものでは無く、人権問題を筆頭に、安全保障や貿易などの懸案事項について苦言を呈すであろう。そもそもペンス副大統領の中国外交に置ける役割は、「Good Cop/Bad Cop戦術」での悪役、つまり強硬・批判的姿勢を打ち出して圧力を掛けるもの。それが急に軟化してしまったらタクテックスが崩れてしまう。融和的の意味とは、ハドソン研究所での宣戦布告的な姿勢とは異なり、貿易協議を中心に米中関係を進展する意向を示唆する、より前向きな内容である。ではペンス演説がこれまで融和的、少なくとも貿易協議進展を促すものと思われる理由とは?

場所:今回のスピーチはシンクタンクであるWilson Centerで行われる。2018年10月4日のスピーチは反中思想を主張する(マイケル・ピルズベリー所属の)ハドソン研究所から発信したことに大きな意味合いがあった。米NSC高官曰く、ハドソン研究所でのスピーチは意図的であり、その(反中姿勢の)意味は誰よりも中国政府に伝わるとのこと。今回も、スピーチが行われる場所に一定に意味合いがあると考える。そこでウィルソン・センターはどのような研究所なのか?1968年に、米国議会がスミソニアン学術協会の下に設立した国際政治学を主とする研究所。正式名は「研究者のためのウッドロウ・ウィルソン国際センター」というだけに第28代大統領の理念や政治志向を継承する団体。ではウッドロウ・ウィルソン(1913~1921年)の主な功績、特に貿易や(中国)外交における立ち位置は?先ず就任早々、ウィルソン大統領は、大幅な関税引き下げの実現を果たす1913年アンダーウッド関税法を成立させる。それまでアメリカは正式な所得及び法人税制度が無く、政府収入を貿易関税に頼っていた。ウィルソン大統領は、同年に連邦所得税を立法させ(IRS~国内国歳入庁も同時に設立)、この収益と引き換えに関税を大幅に引き下げ貿易促進を進めたことが政権の最大の功績の一つ。この歴史を踏まえると、中国に(交渉次第では)、関税引き下げの用意があるとのメッセージが含まれている可能性が考えられる。因みにウィルソン・センターには「キッシンジャー中国研究所」が在籍している。

WHのニュアンス:6月にペンス副大統領が対中演説を行うことが発表された際、ホワイト・ハウス報道室は「中国の度重なる人権侵害への抗議」と位置付けた。しかし今回は、「to reflect on the U.S.-China relationship over the past year and look at the future of our relationship」と過去1年の関係を振り返り、将来の関係を見つめると、ニュアンスが柔らかいというか前向きな印象を受ける。上記でも申し上げたように人権、安全保障など様々な懸案事項に苦言を呈することと思われるものの、ニュアンスとしては貿易を中心に関係改善を模索したい印象がある。

タイミング:トランプ大統領は10月11日に米中貿易協議において部分合意を発表した。更にトランプは来月チリで行われるAPECサミットで習近平と会い、米中通商合意の「第1段階」に署名することも示唆。APECでの習近平とのツーショットは米国内問題からメディアを反らし、貿易交渉の進展を有権者(農家)にアピール出来るチャンス。このタイミングでペンス副大統領に強硬な演説をさせると、中国を逆なでし、貿易合意はおろかチリでの米中首脳会談も見送られるリスクが生じかねない。中国政府を批判する内容のスピーチであるならば、APEC前よりも後にする方が得策ではないか?むしろ首脳会談を見据えて、建設的ムードを演出する狙いがあるのかもしれない。そうでないとこのタイミングでの演説はメイクセンスしない。

香港:10月15日に、民主党が主導権を持つ下院が「香港人権保護法」を可決した。ここで中国人権問題特に香港を大々的に取り上げることは民主党と波長を合わせる印象を与えかねない。トランプの性格上、ナンシー・ペロシになびくことは考え難いのでは?中国政府として、香港問題は主権を脅かすものであり、断固として介入・内政干渉は許せない。香港問題に関して全く言及しないまでも、多少軟化姿勢あるいは一定の理解、建設的な発言をすることで、APECに向けた好意的なムード作りが図れる。現に、9月3日以降のトランプ及び国務省のツイッターには香港問題に触れる記述がほぼゼロに等しい。奇しくも、その直後から米中貿易協議が好転・・・。ペンスが香港問題についてどこまで踏み込むか木曜日のスピーチの一つの注目ポイントではないかと考える。

2020年大統領選:以前にも申し上げたが、トランプの言動・行動は全て来年の大統領選を見据えたもの。そこで最も重要なポイントは現在、中国と対立を深めることが大統領選に有利に働くのか、それとも貿易成果(農産品売却)を見せる方が有利なのかである。個人的には後者だと考える。部分合意に至ったこともされながら、共和党から大ヒンシュクを買ってまで強硬したシリア撤退を見ると、トランプは選挙公約の遂行に邁進しているようだ。中国との貿易部分合意は正に大統領選を見据えた妥協の産物。それをペンスのスピーチで態々壊すとは思い難い。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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