ジョセフ・クラフト 特別レポート
第4回民主党大統領候補討論会検証・・・
掲載日:2019年10月16日
今朝方、米オハイオ州で第4回民主党大統領候補討論会が行われた。これまでの討論会で最も多い12人の候補が集まったため、候補らの踏み込んだ議論には至らず、瞬間パフォーマンスに徹する部分が多かった。一言でまとめるとエリザベス・ウォーレンが実質的なフロントランナー(最有力候補)との印象を植え付けた討論会だった。
・ポイント① フロントランナー(最有力候補)は誰?: 討論会を見る一つのポイントは、実質的なフロントランナー(最有力候補)が誰なのかである。後れを取っている候補たちは先頭を走る候補を集中的に攻撃して自分の地位を向上させようとする。第1回討論会で、カマラ・ハリスがバイデンに喰いついたことで支持率が跳ね上がった例がある。今回の討論会で集中砲火を浴びたのは、バイデンでは無くウォーレン女史だった。世論調査によってはバイデンがリードを維持、あるいはウォーレンが逆転と別れるものの、少なくとも民主党候補らは、明らかにウォーレン女史がフロントランナーと見なしている。
・ポイント② 弾劾調査のアピールに欠ける: CNNのアナウンサーが冒頭に、弾劾調査は妥当と思うかの問いに、候補者全員が妥当且つ必須と答えた。候補から見解の相違があると弾劾調査の正当性が問われるので、民主党としては最低限の統一を見せた。しかし感情的な回答が多く、誰も具体的な犯罪あるいは弾劾に値する罪を示さなかった。民主党側の疑惑(バイデンの息子)に関しては犯罪は犯していないの一点張りながら、トランプは犯罪者と主観的な主張を繰り返しても政治目的・志向が協調されただけ。民主党は今回の討論会を通じて、弾劾調査への支持を増やすことは出来なかったと思うが、世論を失った訳でも無く、引き分けではないか。
・エリザベス・ウォーレン ~ 他の候補らから集中砲火を浴びることは終始テレビの画面に映っていることになる。つまり存在感と権威を全国的に示せたことが最大の収穫。彼女は他の候補からの攻撃を無難に凌いだ。特に素晴らしい反撃コメントも無く、失言やイメージ・ダウンも無かった。強いて言えば、医療制度の財源に関して増税に言及することを頑固に避けたことは政策の整合性に疑問を残すものだった。明らかにフロントランナーである風格は見て感じ取れ、これだけで十分な成果であろう。
・ジョー・バイデン ~ ウォーレン女史にスポットライトを奪われ、内心ショックだったのか、それが討論会での姿勢に表れていた。動揺していたのか、とにかく支離滅裂な発言の多さに呆気を捕らわれた。お家芸の失言はイラクとアフガニスタンを間違えたぐらいだったが、コメントの趣旨が意味不明では見るに堪えなかった。今回の討論会で、バイデンの支持層の不安は煽られたと思われる。今後の世論調査でバイデンの支持率が更に低下する印象は否めない。
・バーニーサンダーズ ~ 心臓発作で入院後、初の全国舞台。サンダーズ氏は発言の切れも良く、エネルギッシュで健康面でのアピールが出来たことが最大の収穫であろう。しかし、誰も言えないがみんな心で思っていることは、78歳の高齢で更なる心臓発作のリスクを掛けて大統領選は戦えない。コメンテーターから他の候補らはサンダーズ氏への攻撃を控え、気を使っている印象が強く、それがかえってダメージとなった。良く頑張ったと敬意を表したい。
・その他候補たち ~ 可もなく不可もなく。所々で頑張りを見せた候補も居たが、今後の支持率を動かすようなパフォーマンスは無い。8月から言い続けているが、民主党大統領指名はウォーレンとバイデンに絞って良い。今回の討論会を受けて更にウォーレンが伸びる可能性が高まったものと思う。強いて注目材料として挙げるならば、バイデン支持者でウォーレンなど左派候補に乗れない中道派層がピート・ブーティジェッジあるいはエイミー・クロブチャーに乗り換えることが想定される。そうなったとしても両候補(特にブーティジェッジ)がウォーレン女史に迫る・追い抜くことは無い。
出所:The Star Online
米中貿易部分合意は(トランプの)大統領選への焦り ~ 今後更なる選挙公約の執行を急ぐ?・・・
最近トランプ大統領の動きがいつもよりも輪をかけて慌ただしくなっている。先週、トランプ大統領は米中貿易協議の部分合意を発表した。日米貿易協定はトランプが急いで合意に至ったことは日本政府関係者とも確認。最も驚いた行動は先週のシリア(北部の)全面撤退である。明らかに共和党員から強い反発を受けることは承知のはず。弾劾調査で盛り上がる最中に、上院の共和党議員との溝を開けてしまうことは明らかなリスク。これらトランプの行動は、大統領選への焦りであり、選挙公約の執行を急いでるものと分析する。
この意味で、今後トランプの行動を占うのに執行出来ていない選挙公約を検証すると良いかもしれない。下記は、2016年の選挙戦でトランプが掲げた主要選挙公約、そしてそれらの成果・進展状況を並べたリストである。ここでは、これら公約・政策の良し悪しを容認・否認するつもりは無い。改めて見ると政治家には珍しく(?)、それなりに公約を実現させている(〇で表記)。そこで、未解決あるいは進行中の公約に着目したい(△と☓で表記)。
残る公約として(☓の公約)、メキシコに壁の建設費用を払わせることは(当然)無理、インフラ整備も民主党の協力が得られない、そして拷問プログラムの導入は票に繋がらないことから断念するものと考える。それでもこれら公約を引き続き正当化・主張すると思われるが、実現性は無い。そこでより実現可能な公約を表にピンクで囲ってみた。入国規制・移民法、NATO費、オバマケアそしてメキシコの壁などが想定される。これらを絞っていくと、イスラム教組の入国制限は最高裁が修正案の大部分を認め、完全勝利とは言えないものの、一定の進展を主張出来る。これ以上進めるのにはマイノリティ票をより失いかねず、更なる法廷闘争が必要のため大統領選には間に合わない。不法移民(犯罪者)の国外退去をより進展させることは考えられるが、DACA(幼少期来訪者に対する繰延措置)の強制退去は不人気のため、手を出すことは出来ないの思われる。オバマケアの撤廃と置き換えは悩ましい。共和党には国民に指示される代替案が無いため、単なる撤廃は混乱を招く。2017年にオバマケアの撤廃を試みて支持率を下げた経緯から現状を維持しながら、民主党の医療制度批判に徹することが予想される。この場合、サンダーズやウォーレンが大統領候補であれば批判しやすいが、バイデンだとかなり攻め難い。
そうなると次に取り掛かり易い選挙公約として「NATO費用負担」と「メキシコ国境の壁建設」が挙げられるのではないか。金融市場的には、米中や中東紛争よりは「NATO」や「ウォール」の方が影響が少なく、」年末に向けて安定相場に入る期待は高まったものと考える。無論、トランプのことだから相場を揺るがす予期せぬ行動・言動は想定すべきであることは言うまでもない。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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