ジョセフ・クラフト 特別レポート

米機密情報の開示権限と書類の分類用語・・・

掲載日:2019年09月27日

一連のウクライナ疑惑でトランプとゼレンスキー大統領との電話記録が25日(水)に公表された。機密情報の開示権限について簡単に触れたい。2009年に発動された(オバマ)大統領令13526が最も新しい規定である。すべての機密情報の開示権は大統領に委ねられている。大統領は一切の手続き、議会の許可など得る必要は無く、いつでもそして誰にでも情報を開示することが許されている。ワシントン・ポストが、2017年5月にラブロフ露外相がホワイトハウスを表敬訪問した際、トランプが機密情報を明かしてしまったと批判する記事を掲載。いかなる重要な安全保障情報であろうとも法的な問題は一切無い。

ウクライナ大統領との会談内容は、「Executive Privilege(大統領特権)」にあたるため、議会が召喚しようとも守られる。ウォータゲート事件で最高裁が例外を認めたが、極めて異例である。今回、電話記録が公表されたのはトランプ大統領自ら許可したからである。更に昨晩の下院公聴会で、マクガイア国家情報長官代行が証言したように内部告発状も、「Executive Privilege」に触れるため、大統領の許可が下りた昨日まで公表することは出来なかったのである。下院の情報委員会は全ての告発状は議会に提出することが法的に義務付けられていると主張するが、大統領特権は除外されている。今回のウクライナ疑惑に関して重要なポイントの一つは、トランプ・WHが情報開示を決めたことである。本人・ホワイトハウスは弾劾に値する犯罪・行為を行っていたならば、公表に踏み切るとは思えない。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

さて、今回公表された電話会談資料の頭に見慣れない用語・頭字語が明記されたが、その略・意味は以下の通りである。

SECRET = 国家安全に支障をきたす内容。極秘文書には三つのレベルがある。最も極秘・重要度が高いのが「TOP SECRET」で見るにはアクセスコードが必要。次に「SECRET」で一緒に「LIMIDIS(Limited Distribution配布者限定)」と明記されることがある。最も軽いのが、「CONFIDENTIAL」。

ORCON = 「Originator Controlled」の略。作者・出元が配布先を限定、管理するという意味。

NOFORN = 「No Foreign Nationals」の略。米国民以外への配布禁止という意味。
その他

OfficialまたはFOUO = 「For Official Use Only」と政府の正式文書を意味する。扱い注意だが、特段機密情報扱いの制限は無い。取り扱い制限を設ける場合は、「Classified」や「Restricted」などが加えられる。

CNWDI = 「Critical Nuclear Weapon Design Information」の略。機密資料に核兵器に関する情報がある場合に記載される。

「ウクライナ疑惑」に関する五つのポイントと民主党の腰を折ったマグワイヤ証言・・・

以前から、ロシア捜査は弾劾に至らない、今世紀最大のがっかりイベントになると指摘させていただいた。今回ウクライナ疑惑もデジャヴとなる感が強い。民主党が弾劾調査を発表してから僅か二日で腰折れ状態を招いている。いや、むしろ共和党の巧妙な罠にはまった可能性があるかもしれない(詳しくは下記参照)。今回のトランプの行動・言動は不適切だが、弾劾に至るには相当ハードルは高い。あのモラー捜査でさえ起訴に至らなかったのである。しかも渦中のウクライナ大統領は、「圧力は受けてない」と全面否定する始末。しかし、最も痛かったのは昨晩のマグワイヤ国家情報長官代行の下院情報委員会での公開証言である。アダム・シフ情報委員会委員長はマグワイヤ長官が内部告発を違法に隠蔽した疑いを掛けた。情報委員会の証言を全て拝見(3時間半)したが、マグワイヤ国家情報長官代行は実に誠実に落ち着いて法の手順に沿って適切に処理したことを分かり易く説明した。あまりに理路整然と説明したため、シフ委員長始め民主党委員の露骨な誘導尋問が延々と続き、相当心象を悪くしたと思う。マグワイヤ氏が呆れ顔を見せる場面もあったが、怒らず根気よく法に乗った手順を踏んだこと説明した。民主党のバイアスが掛かった質問(共和党も同じ)でも当初は見れたが、3時間も続くと怒りと呆気に取られるばかり。モラー捜査官の証言の二の舞というかそれ以上に不発に終わった証言となったと思う。ペロシ議長の懸念した通りに展開を突き進んでいる・・・。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

ポイント① ペロシ下院議長の求心力低下 ~ ロシア疑惑・モラー捜査が不発に終わっても、オカシオ・コルテス議員など若手の極左派派閥はトランプの弾劾を求めた。ペロシ議長が弾劾に慎重なのは、安易に弾劾を強硬すれば国民の反論を招かねない。1998年に共和党がクリントン大統領の弾劾調査に踏み切り、同年の中間選挙で1934年以来の敗北を喫した例がある。本来は共和党の教訓から見識を持たなければいけない重鎮議員のナドラー下院司法委員会委員長やアダム・シフ下院情報委員会委員長らまで弾劾に前のめり。モラー捜査が不発に終わり、動きが取り難い中、今回のウクライナ疑惑が舞い込み、ペロシ議長が押し切られる形で弾劾調査に飛びついたのである。本来、確たる証拠が揃うまで待つべきところを、ワシントン・ポストなどのメディア報道を宛てに焦りを露呈した格好となった。

ポイント② ペロシ議長の配慮 ~ 弾劾調査を封じ込めなかったものの、ペロシ議長は来年の選挙リスクをなるべく抑制する配慮を見せた。過去(ニクソンとクリントン)の弾劾調査では、手続きとして票決を取ったが、今回、ペロシ議長単独で調査を決めたのである。採決を取ると記録が残ってしまう。もし、証拠が集まらずあるいは世論の反感を買ってしまった場合、弾劾調査に賛成した議員らが接戦の選挙区で苦境に立たされてしまう。そうした場合は、ペロシ議長が一人で責任を取る形を選択したようである。党内強硬派の要望を聞き入れガス抜きをする一方、選挙を見据えてなるべくリスクを回避する議長として立派な決断、伊達に30年以上も下院議員をやっていない。

ポイント③ 民主党のリスク・賭け ~ ペロシ議長が弾劾を躊躇するには分けがある。大統領を弾劾することは国家を揺るがす最大の事件、安易に強硬すれば世論の反感を招きかねない。下院で可決しても上院での否決は明白のため、金、労力そして不安を課すことになる。最新の世論調査では57%が弾劾に反対している。2020年の選挙を左右する中道派も58%と反対姿勢(下記表参照)。中道派を孤立しかねないだけなく、トランプ支持層の怒り、危機感を煽り、投票に出向かせてしまうリスクがある。大統領選でもっとも重要な要因の一つは投票率、個人的に民主党は墓穴を掘ってしまった可能性がある。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

ポイント④ 共和党の罠 ~ 共和党が仕掛けた罠に民主党がはまった可能性があるかもしれないとワシントンの政治通と意見が一致した。共和党の対応があまりにも早い。報道直後、民主党の情報請求に対してホワイトハウスが開示を拒む様相を見せるが、ペロシ議長が24日に弾劾調査に踏み切ると翌日には全情報の開示に転換する。都合よくゼレンスキー大統領との会談も設定され、同大統領は「圧力は全く受けてない」と全面否定。そこで下院情報委員会の公開証言ではマグワイヤ国家情報長官代行の誠実性と用意周到な答弁が民主党の政局バイアスを露呈してしまった。モラー捜査官の証言同様、弾劾調査の勢いに水を差される始末。

ポイント⑤ 弾劾調査による最大の被害者はジョー・バイデン ~ トランプの不正行為も大事だが、そもそもの疑惑はウクライナ当局によるバイデン氏の息子の捜査をやめさせようと当時副大統領だったバイデン氏が検察官の解任をウクライナ政府に働きかけたというもの。疑惑が本当かどうか分からないが、弾劾調査が続く限り、バイデン氏をこの疑惑が付きまとうことになる。ヒラリー・クリントンのメール疑惑をしつこく追及したように、やがてトランプ、共和党そしてFox Newsはバイデンへの攻勢に転じるであろう。そんな時に、エリザベス・ウォーレンの勢いが高まり、バイデンとの差を急速に縮めている。ウクライナ疑惑を早めに払拭できないと民主党の有権者がウォーレン女史に乗り換えかねない。トランプ・共和党は本選でバイデンよりウォーレンの方が戦い易いと見込んでいる可能性が考えられる。弾劾調査で民主党への反感が高まり、バイデンが離脱するようなことになれば、トランプにとって一石二鳥である。

ブックメーカー(賭け屋)から見た民主党候補のオッズ・・・

以前にエリザベス・ウォーレンの勢いが増していると報告させていただいた。最新の世論調査ではバイデン氏の支持率が28.4%に対してウォーレン候補は21.1%と差を詰めているものの、まだ及ばない。しかし、ブックメーカー(賭け屋)はどう見ているのか?下記は主要ブックメーカーのオッズをまとめたチャートである。一目瞭然。

出所:RealClear Politics:主要賭け会社の民主党候補オッズ

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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