ジョセフ・クラフト 特別レポート
米中貿易交渉に進展(対面協議の再開近し)? ~ リスペクトを求める中国に米が受け入れ・・・
掲載日:2019年07月23日
G20大阪サミットで米中が貿易交渉再開に合意してから未だに両国高官による対面協議は無く、電話協議に止まっている。中国は米(農業)製品購入再開に基本合意したものの、未だ実際に輸入されたことは確認出来ていない(トランプはツイッターで愚痴を漏らす)。しかし、立往生している貿易交渉に打開の可能性が浮上してきた。これに関して、ワシントンでは中国政府の「非公式スポークスマン」と密かに位置付けられている「胡锡进」という人物に着目したい。
中国ウォッチャーの間で注目されている「胡锡进」は1960年生まれで人民解放軍系の大学から北京外国語大学のロシア語の修士号を取得、2005年から中国共産党機関紙・人民日報の傘下にある環球日報(Global Times)の編集長を務めるジャーナリスト。環球日報は「中国版Fox News」とも言われ、保守誌である。胡锡进編集長が何故注目されるかというと、本土からのアクセスが禁じられるツイッターを使い、中国政府・共産党を代弁するようなコメントを掲載している。今年に入って彼のツイッターをフォローしてきたが、個人的あるいは中国社会に関するネタはほぼ皆無で、常に政府の見解を擁護するコメントを投稿している。政府の許可無くしてはこのような投稿はとても出来ない。中国政府にとっては関与を否定できる都合の良いコミュニケーション・ツールであり、多少なりともトランプのツイートへの対抗的な意味合いがあるかもしれない。いずれにせよ、胡锡进氏のツイッターは習近平政権・共産党の見解・主張を忠実に代弁しているものと見て間違っていないと思う。
そこでG20サミット後の米中貿易交渉に関する彼のツイートを検証、中国の本音・腹積もりが見えて来ると思う。アメリカが早期の作物購入を要求しているのは米政府筋から確認は出来ている。何故、輸入再開に至ってないのか?更に未だ対面協議が何故無いのか?穀物輸入及び対面協議を再開する前に、中国が頑なにアメリカに求めていることは、対等な立場・相互尊重のある協議フレームワークを構築することである。対等・尊重の意味合いは恐らく、突発且つ一方的に関税を掛けたり、中国企業に突如規制を設けないことだと推測する。アメリカがそうしたフレームワークに同意しない限り中国は本格的な協議を拒むものと思われる。
ここに来て一定の進展の期待感が浮上してきた。おそらくアメリカが中国の主張を受け入れた可能性が示唆される。更に21日の投稿では、中国が農産品の輸入再開の手続きに入ったと指摘、米中双方に一定の理解がもたれたものと思われる。数日ないし数週間のうち正式発表があれば胡锡进氏のツイートは中国政府の意向を代弁している証拠となる。これが本当であれば朗報だが、忘れてはいけないのは、これで5月上旬に米中貿易協議が決裂した前の段階に戻っただけである。ここから難しい交渉が始まる。小生が理解しているところでは、中国が「政府系企業への補助金」と「エンフォースメント条項の「一部」の受け入れを強く抵抗している。これがムニューシンが指摘する「90%合意」した残りの10%。更には90%まで合意した後に中国は30%撤回していることから、アメリカが戻したい90%と中国が撤回した65%の溝を埋める必要がある。これは結構時間の掛かるプロセスになりそうだ。
●ファーウェイ規制解除は容易で無い ~ 迫りくるECRA法案・・・
ファーウェイに対する輸出規制が解除される憶測・期待が浮上しているが、そう容易ではないことは何度も申し上げて来ている。ファーウェイは貿易問題よりも安全保障問題とすみ分けた理解をすることが大事である。ファーウェイ規制が緩められるとの噂に米両院は敏感に反応、16日にファーウェイに対する新たな規制法案「Defending America's 5G Future Act」を提出。この法案はファーウェイに対する現規制を維持するだけでなく、今後商務省の対象リストから企業を外す場合、必ず議会の承認を必要とするもの。
この議会の動きに関して注目すべきポイントがいくつかある。ポイント①: 法案は民主・共和両党賛同の超党派体制であること。反中姿勢は民・共が唯一合意出来る議題、つまりトランプの再選と関係無く、反中姿勢は続くことを意味する。ポイント②: 両党の重鎮・大物議員が法案のスポンサーを務めていること。民主党上院からは96年に初当選、州知事も務めたマーク・ウォーナー(Virginia州)議員そして1984年に下院時初当選、州の司法長官を20年務めたリチャード・ブルーメンソール(Connecticut州)が法案の発起人を務める。共和党からは次期国務長官の噂があるトム・コットン(Arkansas州)上院議員、マルコ・ルビオ(Florida州)とミット・ロムニー(Utah州)議員らが主導している。これだけ大物議員が一つの法案のスポンサーを務めることは議会の強い支持を意味しており、ホワイトハウスとしても容易に覆せるものでは無い。ポイント③: これはECRA・FIRRMAが執行出来るまでの繋ぎ措置であること。経産省曰く、ECRAに関して現在日米欧の間で執行に関する細かい議論、すり合わせの過程にあり、執行は2020年前半を見込んでいる。
上記の法案はECRA(米輸出管理改革法)執行までの繋ぎ的措置と考える。ECRAは2018年8月に法案成立、既存の輸出規制でカバーしきれない「新興・基盤技術(emerging and foundational technologies)」のうち、米国の安全保障にとって必要な技術を輸出規制対象とすることなどを定めている。理解すべき点として、この法案は商務省の管轄下に置かれているものの、予算は2019年度NDAA(国防権限法)に入っている、つまり貿易では無く安全保障マターであること。大げさと言われるかもしれないが、ECRAはFIRRMA(外国投資リスク審査近代化法)と共にデジタル覇権争いにおいて世界経済構造を大きく揺るがす、21世紀最重要議題となり得る。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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