ジョセフ・クラフト 特別レポート
BREXIT迷走劇 ~ 2020年に延長?!ジョンソン新首相はEU離脱よりも保守党を解党へ導く?
掲載日:2019年05月27日
5月5日のBREXIT迷走劇レポートで、メイ首相は5月23日のEU選挙までに辞任表明すると主張したが、一日外れた。最終的に2回目の国民投票は実地されるとの考えは変わらないものの、今後の情勢を再考する必要があるかもしれない。英政治情勢に詳しく、複数の国会議員とも親交の深いロンドン在住の投資家と意見交換を行った。結論から言うと: ① 10月31日の離脱期限が更に延長、そして②合意無き離脱の可能性が多少高まった。更に、メイ首相の後任がボリス・ジョンソンとなった場合(現在最も有力視)、ブレキジットに至る前に保守党から複数の離脱者、最悪の場合は分裂・解党の危機を招く危険性も考えられる(解党はちょっと大げさかもしれない)。下記は現在までに保守党党首に立候補を表明した主要党員の表とそのオッズ(賭け率)。ボリス・ジョンソンの他に、現在可能性が高いとされる候補者はドミニク・ラーブ、マイケル・ゴブそしてジェレミー・ハント。
ブレキジット迷走劇が更に混迷しかねない理由は以下通りである。先ず、ローリー・シチュワート氏以外は離脱派である。各候補らはメイ首相の失敗は繰り返したくない思いからメイ離脱案(WAB)を破棄あるいは距離を置くことが予想される。ボリス・ジョンソンは兼ねてからEUと再交渉、より有利な条件を引き出すと主張しているが、EUは再交渉に応じない。ジョンソン氏は交渉戦術として合意無き離脱も辞さないと発言しているが、EUからは見透かされている。本当に合意無き離脱を目指せば保守党の一部そして野党の介入によってEU離脱50条の破棄の採決に踏み切られる可能性がある。出されるであろう。2回目の国民投票で打開を図れるものの、新党首・首相として野党労働党の案に乗る訳には行かない(ブレキジット派なら尚更)。そうなると膠着状態が続くだけ。仏マクロンの反対はあるものの、EU議会が唯一妥協出来るのは離脱期限の延長である。保守党党首は7月まで選ばれないこと、8月に夏休みに入る。9月~10月の2ヶ月間では決着を見出すのにしか時間が無い。ブレキジット迷走劇は2020年に突入する可能性が高まった。
メイ首相はブレキジットを進める中、党の結束を最重視した。しかしメイ首相と異なり、ジョンソン氏は党の存続よりも自身の政策思考を推進することを優先するというのが、同氏を良く知る投資家の見解。合意無き離脱の強硬姿勢が強まれば、党のブレキジット穏健派の一部は離脱を選択する可能性が浮上する。今年の2月に離脱強硬派の影響が強まり過ぎたとして、3人が離脱している。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
トランプ支持率下落 ~ 中絶論争にトランプは躊躇?
5月10日のレポートでトランプの支持率が就任以降、実質的に最高値を付けたと報告した(下記チャート参照)。ところがそれ以降は下落に転じている。Realclear Politicsの支持率平均値は5月10日に45.1%を付けた後、42.8%へ後退。支持率低下の最大要因は5月14日にアラバマ州が中絶禁止法案を可決したことが挙げられる。これにより、1973年に妊娠中絶を女性の権利と認めた「ロー対ウェード判決」が最高裁で覆される可能性が浮上したからである。何故ならば、アラバマ州中絶禁止法案が違憲として訴訟を起こす団体が表れる可能性が想定、それがアラバマ高裁で否決され、上告によって最高裁で争われることになるからだ。これまでリベラル思想が過半数を占めた米最高裁だが、トランプが二人の保守系判事(ゴーサッチとカバノー)を任命したことで最高裁は保守周流に転じたのである。
トランプのベースである福音派や極保守は喜んでいるものの、一部の女性そして中道保守は不安を抱いており、支持率低下に寄与したと考える。何せ今回の法案は全面禁止と極めて厳しく、性犯罪や近親相姦などによる中絶も例外としないもの。さすがにトランプも有権者の不安を悟ったのか、例外を認めるべきとの懸念ツイートを打った(下記参照)。南部地域は「Pro-Life(中絶反対)」が主流だが、北部は「Pro-Choice(中絶擁護)」の州が多い。トランプのツイートは、大統領選を左右するとされるスイング・ステート(Wyoming、Ohio、MichiganとPennsylvania)への影響を警戒したものであろう。大統領選の争点が経済であればトランプに分があるが、中絶問題が最大の焦点となると苦戦する可能性が考えられる。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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