• ホーム
  • マーケット情報
  • ジョセフ・クラフト特別レポート
  • バー司法長官の「ロシア捜査メモ」に関する6つのポイント

ジョセフ・クラフト 特別レポート

バー司法長官の「ロシア捜査メモ」に関する6つのポイント

掲載日:2019年03月28日

アメリカで物議を醸し、連日連夜報道されているモラー捜査の結果だが、意外と日本では盛り上がりに欠けているような気がする。米法律や文言のニュアンスなど複雑な部分があるのかもしれない。そこでアメリカ人というか私の個人的な視点からバー司法長官のメモに関する注目すべきポイントを6つほど紹介したいと思う。

ポイント① 規模: バー長官はモラー捜査の規模に関して、40人のFBI捜査官、19人の弁護士、複数の情報分析官や経理検視官やその他専門家が加わったと明かした。更に2,800もの召喚状、500の捜査令状、230の通話記録要請、13の外国政府への要請状を発行、そして500人もの証人の事情徴収を取ったと明かした。これほど綿密且つ徹底的な捜査であるから、結果を否定することは容易ではない。

ポイント② 共謀: ロシア疑惑の捜査開始から「共謀」という言葉が独り歩きしてしまった。しかし、議会に宛てた4ページに亘るバー司法長官のメモの中で「共謀(Collusion)」という言葉は一度も使われていない。以前から申し上げているが、アメリカには「共謀罪」という罪が無いのである。司法省として罪状に当たらない表現を使っても意味が無い。その変わり、メモに明記されている文言は「Conspired(陰謀)」と「Coordinated(協調)」である。共謀罪は存在しないが、陰謀罪にあたる「Conspiracy Against the U.S. Government (18 U.S.C. Code§371)」があるからである。「Collude」と「Conspire」という動詞の意味は似ていて、ニュアンスを読み解くのはアメリカ人でも難しい。ポイントは法的な罪と位置付けるには「(共犯者と)会って何かを企てる」だけでは不十分で、「企てた何かを行動に移すあるいはその過程にあること」が法的に問われるのである。その意味で、ニュアンス的に「Collude」はこの前者の意味合いを含み、「Conspire」はより後者に近いと言える。モラー捜査官は、「The investigation did not establish that the members of the Trump Campaign conspired or coordinated with the Russian government in its election interference activities.」と結論付けた。この結論は完全な無罪を意味するもので、少なくともロシア疑惑に関しては疑いは晴れたと民主党でさえも認めざるを得ないだろう。

ポイント③ ロシアの関与: トランプ陣営とロシアとの共謀にメディアの目が捕らわれしてまって、そもそも根幹の問題であるロシアの大統領選妨害・関与の問題が飛んでしまっている。CIAなどの情報機関は前々から指摘していたが、モラー捜査でもロシアの関与は確固たる事実と主張している。捜査は: ①ロシアの民間インターネット組織(IRA)と②ロシア政府自体が選挙戦に様々な妨害・操作を企てたと断定。トランプはこれまでロシアの関与に否定的だったが、この事実を認め、対策を講じる必要がある。自分に有利な結論だけ謳って、都合の悪いことは無視する訳には行かない。ロシアだけでなく中国や北朝鮮の関与も指摘されている。民主党はトランプ陣営によるロシアとの共謀・陰謀にだけ着手するのではなく、本質の議論をすべきである。

ポイント④ 司法妨害: バー長官のメモで最も物議を醸したのが、司法妨害に関するモラー捜査の行動である。モラー氏は司法妨害に関して、「大統領に犯罪行為があったと結論づけないが、無実(Exonerate)とするわけでもない」と自ら決断を避け、バー司法長官に委ねた。これは検察官として奇妙というかあるまじき措置と言わざるを得ない。検察官の責務は起訴するか、しないかのいづえれかである。起訴ができないのであれば検察官は法的以外のことで言及すべきではない。モラー捜査官の発言は法を超えて大統領の資質を党政治的分野に足を踏み入れたことになる。これはコーミー元FBI長官が2016年にヒラリー・クリントンのメール事件に関して起訴はしないが、極めて不適切だったとコメントしたこととで大きな問題となった繰り返しと言える。

モラー捜査官が「無実とするわけでもない」と決断を避けた証拠のヒントがバー長官のメモに記されている。それは「most of which have been the subject of public reporting」という指摘文である。司法妨害にあたる可能性の証拠は主に、捜査によって発覚したというよりも既にテレビのインタビューやツイートで明かされたトランプの言動が大きいようである。例えば、2017年5月にNBCとのインタビューでトランプは「(コーミーFBI長官を解雇したのは)ロシア問題が念頭にあったから」とコメント(おそらく弁護士の助言によって後に撤回)。司法妨害に問えない理由の一つとしてバー長官は興味深い見解を指摘している ~ ロシアとの共謀・陰謀の疑惑が無罪であればその捜査を妨害する動機・意図が証明できないというものである(the evidence does not establish that the President was involved in an underlying crime related to Russian election interference...the absence of such evidence bears upon the President's intent with respect to obstruction)。必ずしもではないが、根幹の罪が無いのに、それを妨害する動機は低いとの見解は一理ある。

ポイント⑤ 捜査の最終権限: 司法妨害に関してモラー捜査官の代わりにバー司法長官が無罪と決断したことを不当とする民主党の主張は間違っている。モラー捜査は設立当初から司法省の管轄の下に置かれている。従って捜査方法も罪状の最終決断と権限は司法省にあり、そのトップであるバー司法長官が決断を下すことに何ら問題は無い。因みにクリントン弾劾決議に繋がったケン・スターによる捜査は司法省管轄外の独立捜査で今回と役割が異なる。司法長官に利害対立・利益相反があるならば捜査から忌避する・身を引くべきでバー氏就任時に民主党はそれを求めなかった(一部の議員は主張した)。今になって不当と指摘するのは往生際が悪い。更にバー司法長官は自らの見解だけでなく、ローゼンスタイン副長官、司法省の顧問室(Office of Legal Counsel)そして同省の専門家の意見を仰いだ上の決断で、バー長官個人の結論というよりは司法省の結論であり、全うと考えるべき。

ポイント⑥ メディアのハシゴ外し: CNNを筆頭に反トランプ・メディアはこの2年間、「ロシアとの共謀」そしてそれを暴くモラー捜査がトランプの崩壊に繋がるとほぼ毎日謳って来た。それが崩れた今、手のひらを返したように「アメリカ人がロシアと共謀していなかった事実アメリカにとって喜ぶべき瞬間だ」と主張を変えて来た。CNNの看板アンカーは事あるごとに「This is a great day for America」とコメンテーターの発言の間に何度も口を挟む光景が印象てきである。無論、トランプ支持などに回るということでは全く無いが、今までの主張から露骨に距離を置こうとしている。挙句の果てには(自分らが誘引したにも関わらず)過去の番組で「トランプは共謀罪に当たる確固たる証拠がある」などと主張した民主党議員の映像を流し、こうした発言の不適切性を問う、本末転倒な事態に開いた口がふさがらない。CNNだけで無く、他のリベラル系メディアも同罪である(FOX Newsなど他人の批判は到底できない)。米ジャーナリズムにとって情けない瞬間である・・・。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

【ご注意事項】

お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。 また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートに表示されている事項は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。

【バックナンバー】