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ジョセフ・クラフト 特別レポート

バイデン施政方針演説検証 ~ 演説の本質は予算陳情(内政重視)

掲載日:2021年04月30日

サマリー・ポイント
▶ 演説の本質 ~ 440兆円にのぼる2つの経済・社会保障計画を売り込み営業、つまり予算の陳情。

▶ 演説の評価 ~ CNNの視聴者評価は51%と低い。ブルーカラー労働と中国姿勢が裏目に出たか?

▶ 中国コメント ~ 融和的な印象が裏目?ホワイトハウスが投稿した演説文から中国コメントが削除!

演説の構成は4つに分けられる:
① これまでの成果をアピール ~ コロナ対策とワクチン普及は織り込み済み、ポイント稼ぎは限定
② 「アメリカ雇用計画」 ~ 雇用創出をアピールするも「反ビジネス」色が出過ぎで中小企業からの孤立招く?
③ 「アメリカ家族計画」 ~ 企業・富裕層増税案を「子育て支援」に鞍替えすることで議会の支持取り付けられるか?

演説の本質 ~ 今朝(米時間28日21:00)に行われ、就任100日に合わせた議会への施政方針演説を一言でまとめると、「440兆円にのぼる経済及び社会保障の二つの法案を売り込む営業トーク」、つまり予算の陳情。予算陳情である最たる証拠として演説後にバイデン大統領が最初に挨拶に向かったのが、デローロ下院歳出委員会委員長とサンダーズ上院予算員会委員長である(下記写真参照)。この二人の強い協力無くしては議会での法案成立は極めて難しい。コロナ制限にもかかわらず、ソーシャル・ディスタンスを無視して、取り分けデローロ委員長とは両手でグータッチしたことは、バイデンの期待または営業の意気込みが垣間見られる一幕だった。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

演説の評価 ~ アメリカ人として演説を聞いていて違和感を感じた。演説後にCNNが視聴者による評価調査を発表した。CNN自身が注意を促したように、この調査はCNNの視聴者のみ、つまり民主党・バイデン支持者が中心を占めるものであり、バイアスがかかっていることを指摘。そこで結果に驚いた。個人的には、7割前後が高評価を示すのかと思ったら「とても評価できる」と答えたのは51%という低さに驚いた(下記左表参照)。民主党支持者が占める世論調査としてはショッキングなほど低いと思う。確かに「ある程度評価できる」も加えると7割を超えるが、力強い支持が伺えない。同調査の過去の大統領(1年目)の施政方針演説評価と比較するバイデン大統領は最も低い(下記右表参照)。あのトランプ大統領でさえもCNNの調査で57%の高評価を得ている!

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

では低い評価の原因は何か?おそらく自分が感じた違和感と関係があるのではないかと思う。演説の低評価の原因は、労働創出とブルーカラー労働(長時間・低賃金)を結び付けてしまったことではないかと推測する。バイデン大統領は、インフラ投資は雇用を生むとしきりにアピールしたが、現在アメリカ国民が感じる最大の不満・不道義は「失業」よりも「格差」である。バイデン大統領はインフラ投資によって、「水道管工事」、「職の90%は大学学位を必要としない」や「道路、橋そして空港建設」など肉体・ブルーカラー労働を謳った。ブルーカラー職は、長時間・低賃金の印象があり、現在の中流階級には魅力的と受け止められない。ワシントン・ポストが、「アメリカを形成するブルーカラー設計図」と位置付けるほどブルーカラー印象が強かった演説で、「雇用の質よりも量」を印象づけてしまったことが裏目に出たと考える。

もう一つ違和感を感じたのが「労働組合」に関するコメント。大統領は、「The middle class built this country. And the unions built the middle class.(中流階級がこの国を築いた。そして労働組合中流階級を築いたんだ!)」。はっ?!70~80年代じゃあるまいし、労働組合になに媚を売っているんだ?労働組合に加盟している労働人口は80年代の20%から現在10%まで低下、21世紀に入って労働組合を頼る中流階級は少ない。取り分けGAFAなど若者が好む職種はほとんど組合員は雇用しない。労働組合は、肉体労働・ブルーカラー職の印象があり、中流階級が望む格差是正のアピールに残念ながら至らなかったものものと考える。

中国 ~ 議会の圧力もあって、バイデン政権の対中姿勢はより強硬的にシフトしていることは以前に指摘させていただいた。ただ、バイデン氏自身による中国批判は少なく、今回の演説でも対中融和色が払拭できなかった。中国の言及を受けてFox Newsが真っ先に反応、ホームページに「Tough on China?」と強硬姿勢を疑問視する見出しを投稿。あのCNNでさえ中国発言には間違いがあると指摘、演説の対中コメントには批判な見解を示した。バイデン大統領は、「習近平とは一緒に17,000マイルも渡航し、24時間以上もプライベートに協議を重ねて来た」と発言。CNNが主張するように習近平と2,700キロも一緒に旅したなどありえず、二人で24時間も会談したのは大げさ。最も気になることは、ホワイトハウスが投稿した演説文から中国の関する記載が削除されていることである。どういう意図で発言を削除したのか現時点では分からないが、単なるミスとは思えない。個人的な推測だが、ファクトに基づくトランプ発言を強く批判して来ただけに、渡航履歴や会談時間など間違った情報に対する批判を避ける狙いがあったのではないか。いずれにせよ、中国に関するコメントが視聴者およびメディアには融和的な印象を与えてしまい、裏目に出たと言いうのは過言ではない。

演説の中身検証 ~ 演説構成は大きく四つに分けられる: ①(これまでの)成果のアピール、②「米国雇用計画」の売り込み、③「米国家族計画」の売り込みそして④その他(国内懸念事項への弁明)。

① 成果のアピール ~ 演説の冒頭で、「America is on the move again(アメリカは再び動き出している)」、「America is ready for take-off(アメリカは上昇の準備が出来た)」、「Leading the world again(再び世界をリードする)」そして「There is no quit in America(アメリカは絶対に諦めない)」とアメリカの回帰・前進を謳うコメントが相次いだ。そして就任100日目の成果として「1.9兆ドルのコロナ経済対策」と「ワクチン普及」の成果を高らかに謳った。コロナ対策に関しては、$1400(15万円)の給付金は85%の家庭(約1億6,000万世帯)に支給したことを主張。更に家賃支援や100日間に80万人の国民がオバマケアに加盟したことなどアピールした。最も力を入れたのがワクチン普及で、7割の高齢者が接種、高齢者の死者数が8割減少した成果を主張した。そして国民の9割がワクチン接種会場の8キロ圏内に住んでいることを紹介、早期に接種することを促した。ただ、ワクチン成果に関して興味深い表現があった。バイデン大統領は、「(ワクチン接種は)歴史上最大のロジスティックな成果である。」とコメント。これはワクチン開発とワクチン普及を分ける意味がある。ワクチン開発(Operation Warp Speed)はトランプ政権が成し得たこと。バイデン政権としてはワクチン普及をアピールしたい狙いがある(とは言え、バイデン就任時には既に1日90万が接種していた)。「コロナ経済対策」と「ワクチン普及」の成果は間違いないが、既に織り込み済みで幾分盛り上がりに欠けたような印象を受けた。

② 「米国雇用計画(経済対策)」 ~ CNNがホームページの見出しに「Jobs、Jobs、Jobs」と投稿するほど、バイデン大統領は雇用創出を主張した(下記参照)。ワシントン・ポストも「ブルーカラーの雇用設計図」と位置付けている。当初はインフラ投資計画と位置づけながら、「米国雇用計画」と改名し雇用創出の印象を強めることで、世論及び議会の支持を取り付ける狙いがある。一つ印象に残った発言として、「アメリカ雇用計画を誘導する原則は一つ: 『Buy American』」。要はトランプの「America First」とさほど変わらないものだが、オブラートに包みより聞こえが良いようにしたもの。ここで最も驚いたというか裏目に出た発言・心象は「反ビジネス」と考える。バイデン大統領は、「労働組合への加盟を支持」、「最低賃金を15ドルに引き上げる」あるいは「自国生産を求める」など企業への負担増的な主張を繰りかえした。大企業いじめならまだ良いが、「組合」や「最低賃金の引上げ」は中小企業に悪影響を及ぼすもので、ぎゃくにマイナス・イメージを与えてしまったのではないかと考える。民主党支持者には中小企業の経営者も多く、違和感を誘い、そうした懸念がCNN調査の低評価にも表れたのではないか?

③ 「米国家族計画(社会保障)」 ~ これも当初は富裕層増税案としてまとめられたが、議会が受け入れ易いように「子育て支援」や「(一部)教育無償化」など社会保障政策に結び付けた。増税は民主党内でも懸念する議員が多く、来年に中間選挙を控えてハードルは高い。そこで大企業そして富裕層の節税・脱税を批判、中流階級にとって有益(格差是正)であることをアピールしたことは効果的だったと考える。例えば、55の大企業が400憶ドルの収益をあげたにもかかわらず、税金を一切支払っていないことを指摘。更に国税局に税調査体制を強化し脱税行為を取り締まるなど規制強化もアピールした。ここでの政権の狙いは2つあると考える: ①政府負債を増やさないことで共和党員が支持し易くすると ②企業・富裕層負担での世論支持を高め、議会に圧力をかける。

④ その他 ~ 内政重視の演説だけに外交にはあまり時間を割かなかった。ただ、ロシア、イラン、北朝鮮そしてアフガニスタンには言及。取り分けロシアに関しては、プーチンを名指し、対立は望まないが躊躇なく対応(制裁)すると指摘。イランと北朝鮮の核武装に関しても強い懸念を示した。しかし、上記でも指摘したように中国との競争には言及したものの、ウイグル・香港などの人権問題、不当な経済行為あるいは台湾・アジア海域で脅威に関して一切コメントが無かった。国内批判を意識して時間をかけた議題は「銃規制」、「警察改革」、「人種差別・平等政策」そして「移民問題」など国内問題。ただ、演説のトーンは責任問題の根源は議会が法案を通さないことにあると責任転換との印象を受けた。日米首脳会談の記者会見でも垣間見られたように、国内メディア取り分け民主党員の関心は「銃規制」、「警察改革」と「移民問題」にあり、これら事項に関してバイデン政権への評価は低く、今回の演説で高評価には至らなかった

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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