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ジョセフ・クラフト 特別レポート

① 日米共同声明検証 ~ 日米Give and Takeと中国報復措置は限定的

掲載日:2021年04月19日

米メディアの注目は残念ながら薄かったものの、日米首脳会談は大成功だったと思うし、取り分け霞が関と官邸の周到な準備が伺えた。菅総理も去年のインドネシアやベトナム訪問よりは落ち着いており、バイデン大統領との記者会見では存在感を示せた。ただし、事務方レベルでは相当難しい話もあり、分野・議題によっては温度差もあったものの、とりあえず収めて同盟国連携のアピールを重視したと推察する。

鳩山元首相は、「夕食会を断られ、ハンバーガー付きの20分の首脳会談では哀れ」とこき下ろしたが、全くのナンセンスである。米側は異常なまでにコロナ感染に気遣い、多数の夕食会は無責任且つ批判の対象となる。ハンバーガーは気の合う者同士で食べるもの、ワーキングランチには適している。アメリカ人がお寿司を振舞われて無礼というようなものであり、鳩山氏のトンチンカンな見解と言わざるを得ない。

本題の共同声明だが、第一印象としては長文である。5,700字に及ぶ声明文は三つのセクションに分けられた:①自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟、②新たな時代における同盟そして③今後に向けて。議題の重要性に関してこの順番通りと見るべきと考える。最も注目且つ重要という意味で①に重点を置いて、あまりメディアで取り上げられていないポイントを下記に紹介したい。

自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟
この部分は安全保障・防衛に趣を置いたもの。先ず、バイデン政権は「自由と開かれたインド太平洋」と言及することは少なく、この文言は日本側の主張で盛り込まれた可能性が高い。言いたいことは、このような日本側の主張が随所に見られ、事務方の交渉では対等に立っているということ。この部分では三つのポイントを指摘したい:ア)Give and Take、イ)UNCLOSそしてウ)中国の反応。

Give and Take:一番印象的だったことは防衛においての日米間のギブ・アンド・テイクが鮮明に表れていたことである。例えば、アメリカが「日米安保条約の下での日本の防衛の支持を改めて表明」すると、日本は「自らの防衛力を強化する」とコミットしている(下記参照)。更に米国が「安保5条が尖閣諸島に適用すると再確認」すると、日本は「抑止力と対処力を強化する」と明記している。つまり日本としては、アメリカの防衛コミットメントを再確認出来た一方で、今後は更なる地域での防衛プレゼンス、集団的自衛権の拡充まで余儀なくされることが考えられる。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

UNCLOS:文言の中に「United Nations Convention on the Law of the Sea(国連海洋法条約)」が2回も明記されたことに着目(下記文書参照)。UNCLOSは1982年に採択、1996年に発効した海洋に関する法的な秩序の形成の目的とした条約。声明文に4回も明記された「Rules Based International Order(ルールに基づく国際秩序)」に関連付けたものであるが、日本と中国は1994年にUNCLOSに署名しているものの、肝心のアメリカは未だに署名していない。実態は、オバマ政権で認識・支持したものの、議会で承認出来なかったのである。中国がUNCLOSを承認しているから下記の主張は一定の意味があると思うが、中国からしてみれば「お前に言われたくないわ」というところではないだろうか?

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

中国の反応:中国政府は表向き反発しているように見えるが、内心は冷静に受け止めていると考える。つまり大した報復措置には打って出ないと考える。香港・ウイグル問題など人権問題はこれまでも指摘されており、中国としては慣れている。人権問題において声明文では、これまでのアメリカの指摘以上のことは明記されなかった。むしろ国務省の人権レポートの内容に比べればソフトに止めたと言えよう。台湾を明記した「行為」は確かに中国政府からすれば憂慮すべきものだが、文言自体に反論するのは難しい。声明文で明記された「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」は、中国も含めて誰もが支持するものである。文面に「台湾の独立」を示唆するような文言が入れば情勢は大きく変わったが、そうではない。日米側のギリギリでの上手い処理と言えよう。

中国が強い報復措置に打って出ない背景には、「言葉」より「行動」に秘められていると思う。中国政府は、「必要なあらゆる措置を取る」とか「強烈な不満と断固たる反対」と一見厳しいことを言っているものの、例えば外務省の公式見解が発表されたのは17日の夜中(ほぼ18時間後)とゆっくり。国内のニュース番組も第一報どころか番組の終盤に短く報告、大した取り扱いになっていない。更に中国政府の非公式スポークスマンとされる環球時報の編集長もツイッターに一切投稿していないのは異例である。これらは中国政府としては過剰に反応したくない意図があり、強い反発行動は予想しがたい。

新たな時代における同盟
日米は、「日米競争力・強 靱性(コア)パートナーシップ」という新たな取り組みを立ち上げた。声明文では、「このパートナーシップは、①競争力及びイノベーション、②新型コロナウイルス感染症対策、国際保健、健康安全保障(ヘルス・セキュリティ)、③気候変動、クリーンエネルギー、グリーン成長・復興に焦点を当てる」と紹介した。個人的に注目したのは、サプライチェーンや経済安全保障面においての今後の影響で、具体的にいうと東芝の非上場・海外ファンドによる買収への影響である。取り分け外為法のハードルが上がるか着目したい。原発事業に加え、バイデン自身が語った量子コンピューターなど安全保障に跨る事項が多い。東芝の現経営陣が望んでいるとの報道もあるが、日米首脳会談を受けて今回のCVC買収が見送られる可能性が高まった可能性があるかもしれない。

今後にむけて
締めの最大のポイントはオリンピックが決行するということではないか。アメリカ政府が容認したことは、米選手が派遣されるということ。米選手が参加することはNBC放送がIOCへ多額の放映料をIOCに支払うあるいは既に支払ったことを意味する。つまり1,000億円ほどの資金がNBCからIOCに動くとなれば、容易にキャンセルすることは出来ない。

② アメリカの韓国への信頼が低下 ~ ケリー気候変動特使がハシゴを外す

報道されているように、ケリー気候変動特使は中国の帰りに韓国に立ち寄った。そこで福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する方針に関して、チョン・ウィヨン外相が「深刻な憂慮」を伝えた(下記参照)。ケリー特使は、「日本政府の決定とプロセスには透明性があり(米が)介入するのは適切ではない」として韓国に同調しない姿勢を示した。先ず、少なくともこの件に関しての韓国側の外交下手というか情勢判断の読みが甘いと思う。米国務省は12日に日本の判断を擁護する公式声明を発表している(下記参照)。更によく13日にはIAEAのグロッシ事務局長も日本の判断を支持する表明を行っている。この過程で日本に批判的な見解を求めても、アメリカが同調するはずもなく、単に恥をかいただけに過ぎない。

福島の処理水に関わらず、米韓関係に亀裂というかアメリカの信頼が低下しているシグナルは以前から垣間見られた。取り分け注目なのが先週に紹介した「戦略的競争法」である。法案には、日本を31回も明記したのに対し韓国は10回に止まっている。それ以上に重要なことは、法案の223条に安全保障強化に関して日本に5項目の要請がなされている。しかし韓国にはそのような要請・項目が無い。日本にとって防衛の責任負担が増すことを懸念する者も居るだろうが、アメリカ側の期待の高さを象徴している。韓国にはそのような期待が見られない。

バイデン政権の最初の対面会談、会談にバイデン政権の主要閣僚が勢ぞろいしたりあるいは福島の書類水に関して一早く理解を示したり(無論、日本政府の事前の根回しの効果が大きい)、米側の日本への配慮が感じられる。逆に韓国とは溝が感じられ、ケリー特使の姿勢が象徴てきである。もし韓国側に配慮する気持ちがあればもう少し水を濁した言い方も出来たがそのようなそぶりは一切ない。米韓の関係、取り分けアメリカの信頼は、バイデン政権とオバマ政権時代では低下していると言わざるを得ない。アメリカの日本への信頼・期待は良いことではあるものの、アジアの安全保障において求められる責任・役割が増えることも意味する・・・。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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