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ジョセフ・クラフト 特別レポート

① 米中外相会談検証① ~ 冒頭挨拶発言時間と注目発言

掲載日:2021年03月22日

日米外相らは長年の外交プロで、自分らの発言・姿勢がどのように相手を刺激するか当然理解した上で冒頭挨拶を行っている。ブリンケン・サリバン両氏の冒頭挨拶はノートから読み上げられており、人権問題など中国を刺激する発言は意図的であることは間違いない。中国側はアメリカの出方によって、A案、B案そしてC案など対応の選択肢を準備しているはずだ。無論、突発的てきという即興的な部分もあったが、双方の反応はトータル・サプライズでは無いと言えよう。

事前の合意・プロトコールでは、双方が2~3分喋った後に非公開の会談に入るものだった。しかし結果はご存知1時間を超える(通訳を除けば36分ほど)と異例の冒頭挨拶となった。そこでそれぞれの発言時間と単語数を割り出し(下記表参照)、あまり報道されなかった発言を取り上げてみたい。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

発言① ブリンケン (2分50分) ~ 人権問題にはっきり言及したことは高く評価したい。バイデン大統領はプーチンを「殺し屋」と位置付けるも、習近平に対しては何故か融和的な姿勢を見せて来た。今回のブリンケン長官の発言で注目したいポイントは、「Adversarial(敵対的)」という言葉である。無論、ウイグルや香港の人権問題への言及は中国の反発を招いた。しかし、バイデン政権が対中関係において「Adversarial」という文言を使用したのは初めてと思われる(下記に発言を添付)。中国陣営にとってショックだったのではないかと推測する。これまで、「中国は最大の競争相手」など「競争」という言葉が日本では「強硬的」あるいは「対立」的と解釈されがちだが、アメリカでは「ライバル」という位置づけでむしろ友好的・建設的なニュアンスを持つ。その証拠にサリバン安全保障担当は、「厳しい競争は歓迎する」とコメントしている。「Adversary」は敵対国を示し、ネガティブな意味合いを含み、これはオバマ政権時代で対ロシアに適用した文言。簡単に言うと、アメリカが中国に喧嘩を売った印象。

ブリンケン長官: 「I said that the United States' relationship with China will be competitive where it should be, collaborative where it can be, adversarial where it must be. 」

発言② サリバン (2分41秒) ~ ビデオを見て、サリバン安全保障担当の挨拶は多少上目目線だったように感じた。親が子供を言い聞かせるように、44歳のサリバン氏が70歳の楊潔篪共産党政治局員と67歳の王毅外相に説教染みた話や自画自賛と受け止められるような発言には少し違和感を感じた。小生が中国側だったらブリンケン氏の発言よりもサリバン氏の発言の方が感情的にカチンと来たのではないかと思う。例えば、「アラスカで会うのはふさわしい・・・ここはアメリカ人のように心が広く、柔軟且つ勇敢な地」、「バイデン大統領はQUAD首脳会談を開き、世界の民主主義国家のやる気に語り掛けた」あるいは「我々の国際アプローチそして中国に対するアプローチがアメリカ国民の利益をもたらすことを確実にする」などと語った。

発言③ 楊潔篪 (17分39秒) ~ 正直、中国の高官がアメリカに面と向かってここまで激しく且つキツイ口調で反論したのは覚えがない。いくら政治局員と言えでも個人の判断でこのような反応は示せない、事前に習近平国家主席を含む共産党執行部と打ち合わせ、合意の下での反論と思わざるを得ない。楊潔篪氏の言論は、アメリカ側の猛反発、例えば挨拶が中断、最悪会議自体が打ち切られてもおかしくないほど、外交プロトコールから逸脱したものと思う。トランプを例に挙げるのはおかしいかもしれないが、2019年の米朝会談打ち切りが思い出される。会談が打ち切られずに進んだことは、双方の計算された外交戦術である象徴と思われる。長い楊潔篪局員の発言の中で最も注目したのが、米中首脳電話会談が融和的なものであるとの言及したことである(下記参照)。中国側が明かしたのは、バイデン大統領と習近平国家主席の会談(2月10日)が融和的なもので、外相会談もその精神を受け継ぐべきというもの。これは楊潔篪氏の意図的且つ勝手な解釈ではないかと思ったが、ブリンケン・サリバン両氏は電話会談の主張を否定・反論しなかったことから一定の真実性があるようだ。ブリンケン国務長官は以前、ある外交官に対してバイデン大統領とケリー特使は中国に比較的融和的な姿勢であることを認めた。そこで自身とサリバン氏はより強硬的で、政権の対中姿勢のバランスを取るとも説明している。楊潔篪氏の発言はこれまで推測した通り、バイデン大統領の対中融和姿勢が確認されるものだった。そうした中国側の印象・解釈をブリンケン長官とサリバン委員長が修正を図ったのではないか。

楊潔篪局員: 「President Xi Jinping and President Joe Biden agreed to step up communication, manage differences and expand cooperation between our two countries. We are having this dialogue today to follow up on the common understanding reached during their phone conversation. 」

発言④ 王毅 (3分54秒) ~ 「私はかなり手短に終える」と言いながらもしっかり4分近くも喋った。サリバン氏のアラスカ発言がよほど気に触ったのか、「アラスカは両国の中間点にあり、双方が妥協・間で折り合う象徴だ」と反論。王毅は再び米中首脳電話会談を持ち出し、中国の戦略的対話に持ち込みたい意図が伺えた(下記発言参照)。ただブリンケン長官は中国側の戦略を見抜いていたのか、戦略的対話のエサは食わなかった。バイデン大統領が電話会談で融和的過ぎたことの反省からか、より強硬的姿勢への修正を図ったと推測される。

「Let me also say that the phone conversation that President Xi Jinping and President Biden is a very important one, and they agreed to some common understandings that have pointed the way forward for us to bring back the China-U.S. relationship onto the right track.」

発言⑤ ブリンケン (2分43秒) ~ ホスト国がゲストに言われっぱなしでは、冒頭挨拶を終われない。退席を促されるプレスを止めて中国に反論したブリンケン長官の行動は適切であり称賛したいものの、その反論が抽象的でちょっと弱々しい印象を持った。ブリンケン長官は、「反アメリカに賭けることは良い賭けでは無い」と指摘したが、口調があまりにも落ち着いていて、優しい口調であったため説得力・迫力に欠けた印象を持った。外交のプロであることからの態度かもしれないが、中国のように多少は声を荒げても良かったかもしれない。

発言⑥ サリバン (2分01秒) ~ サリバン氏の反論も歯切れが悪く、正直ちょっとダサかった。同氏は、「アメリカのSecret Sauce(秘密調味料)は、自国の欠点を受け止め、絶えず改善していること」とコメント。私だけかもしれないが、「シークレット・ソース」って正直、20年前に流行った言葉でカッコ良く無い上に、中国陣営に伝わったか疑問である。更に、火星探査の成功について言及(自慢?)するも、中国批判というよりも単なる自画自賛に聞こえた。挙句の果てに、楊潔篪氏が「アメリカが何処かの惑星に降り立つ協力を求めているなら中国は協力を惜しまない」と皮肉たっぷりに言い返された。

発言⑦ 楊潔篪 (3分10秒) ~ ブリンケンとサリバン両氏の抽象的な反論とは対照的に楊潔篪局員は鋭い皮肉を交えてキツイ反論劇を展開。楊潔篪は先ず、「私が悪かった。会談が始まる前にアメリカ側に口調・態度を慎むよう指示しなかったのがいけなかった」と超上目線で反論。ふてぶてしさは驚きを超えて感心してしまう。この発言には習近平主席も椅子から転げ落ちて笑ったのではないか?この後も、「アメリカを見くびった」とか「アメリカは力ある立場から中国を説教する資格は無い」あるいは「中国を抑圧しようとすれば自身が被害に遭うことを歴史が教えるだろう」など立て続けにこけおろした。

発言⑧ 王毅 (1分43秒) ~ 王毅の締めに発言で最も興味深かったのが「韓国」である。正確に言うと韓国を名指ししなかったこと。王外相は、「あなた方が会った国から、中国による威圧が指摘されたとのことだが、これは米中、日中そして豪中を指すものと思うが・・・」とコメント。しっかり韓国が外されている。韓国を忘れたのでは無く、韓国は中国寄りと言わんばかり。この見解は、米韓外相声明文で中国が名指しされなかったようにある程度の真実味がある。要は米中韓同盟にゆさぶりをかけて来たのである。同時に日本とオーストラリアに対して間接的に脅しているとも思う。日豪のような先進国は気にしないかもしれないが、ASEANや発展途上国はこうした発言にとても敏感である。

② 米中外相級会談検証② ~ 冒頭挨拶の米側パフォーマンスは上院外交委員会向け

大波乱と話題を呼んだ冒頭挨拶の非難合戦がある程度計算されたパフォーマンスであることは理解できると思う。計算し尽されたパフォーマンスだったことは、中国政府を代弁するとされる環球時報のツイッター投稿から伺えると共に、国務省のスポークスマンも言及している(下記①参照)。海外では外交戦術として冒頭で相手を揺さぶり、その後の交渉を有利に進める良くある戦術である。プーチンがメルケル首相との会談で、彼女が嫌がる大型犬を連れて会わせた例が象徴的。パフォーマンスである証拠に、会談終了時には冒頭の姿勢とは180度変わって双方が融和姿勢的に転換していた(下記②参照)。

中国のパフォーマンスが取り沙汰されたが、実はアメリカもかなり国内を意識していたと思われる。中国は、国内世論に加えて今年で共産党創設100周年もあることから、党の士気を高めたい狙いと共に一帯一路を意識したASEANやアフリカ諸国など地域外交・影響力も念頭に置いた強硬戦術だった。中国同様にアメリカ側も強いアピールを国内に行っていたと推察する。アメリカも反中思想が強い国内世論は無論、日韓豪や今週に訪問が予定されている欧州を念頭に同盟国・パートナーに弱腰は見せられない。しかし、バイデン政権が最も意識、パフォーマンスを向けたのは、上院外交委員会である。

ワシントン政界に精通している知人から、内政重視のバイデン姿勢に上院外交委員会が不満を抱いていると伺った。上院外交委員会は、ロシアや中国への姿勢・対応が弱いとか、制裁が少ないなど問題視しているとのこと。外交委員会はこれまでは沈黙していたが、議会執行部に事前相談もなくシリアを空爆したことが反発の引き金になった模様。上院外交委員会の意思は同委員会に所属、バイデン大統領の弟分で、側近中の側近であるクリス・クームスから詳細な報告が入っているようだ。今回のブリンケン国務長官の対中批判は、こうした上院外交委員会の不満のガス抜きする狙いがあった可能性が高い。議会の不満・圧力が寄与したのか、直近でバイデン大統領はプーチンを「殺し屋」と位置付け、ロシアや中国に対して制裁を発動している。中国は米中首脳電話会談でバイデン大統領の融和姿勢に言及。バイデン政権はそうした中国の解釈だけでなく、議会の印象の修正を図ったとワシントンの外交サークルでは受け止めているようだ。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

③ 米中外相会談検証③ ~ バイデン政権の対中政策のキーパーソンとは?

米中外相級会談でのアメリカ側の陣営に着目、興味深い人物が浮上した。会談には、通訳を含めて7名の米高官が出席。ブリンケン、サリバンそしてキャンベル氏の他にフリッツ国務次官補(中国、モンゴルと台湾調整担当)、フォーデン駐中米代理大使そしてローゼンバーガー安全保障、中国上級部長が参席(下記参照)。その中で注目人物が、ローラ・ローゼンバーガーNSC中国上級部長である。彼女は外交のキャリア官僚で、オバマ政権時代に当時のブリンケンNSC副委員長の首席補佐官そしてブリンケン氏が国務副長官に就任すると一緒に移動してまた首席補佐官を務めている。それ以前は、NSCの中国と朝鮮半島部長を務めた。要は、ローゼンバーガー上級部長がブリンケン国務長官から絶大な信頼を得ており、対中政策構築のキーパーソンであると推察する。

ローゼンバーガー女史の存在と共に浮かび上がったのが、Alliance for Securing Democracy(ASD)という研究機関。ASDは、2017年に設立され、30名ほどの元政府の安保・外交専門家によって構成される専門研究機関である。ASDは、Hudson InstituteやBrookings Instituteのように民間企業へ分析資料を提供するよりも、政府機関と連携を図る知見が高い専門部隊である。ASDはGerman Marshall Fundの参加にあり、同ファンドは72年に創設された国際情勢の研究機関の参加にある。ASDは当初、ロシアのサイバーテロの分析そして対抗措置を構築するために立ち上げられた。同機関は、「Hamilton 68」と呼ばれ、リアルタイムでツイッターやSNSに投稿しているロシア関連の口座を追跡するシステムを開発し、注目を浴びた。ロシアのサイバー攻撃への対抗措置が評価され、2018年から中国共産党中央統一戦線工作部への対抗措置も担うようになった。このASDの初代所長に任命されたのがローゼンバーガー女史であり、ブリンケン国務長官を筆頭にバイデン政権から対中政策のブレーン的役割が期待されているとのこと。今後、ローゼンバーガーNSC中国上級部長そしてASDという機関に要注意すべき存在と考える。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

④ IMM先物市場の円ポジションが大きく転換 ~ 米金融政策のテーパリング予兆か?

3月10~16日のIMM先物市場の円ポジションの契約数が、6,514枚の円買い持ちから39,368枚の売り越しへと大きく転換した。これは円価で5,735憶円の売り越しとなり、1週間のポジション変化としては2020年3月以来、この6年間で3番目に大きい動きとなる(下記チャート参照)。IMMの円ポジションはUSD/JPYとの相関性が高く、日米金利動向にも影響される。日米の金利差から基本的に円ショートが主体となっていたが、コロナ禍のFRBによる金融緩和(日米金利差縮小)によってドル売り(円買い)基調に転換したが、1年ぶりにドル買い・円売り基調に戻った。

IMMが円ショートに転換したことは、米国の金融緩和の終焉を先取りしていると言えるかもしれない。無論、早期の利上げを主張しているのでは無いし、IMMのポジション動向をFOMCが強く注視しているとも思わない。しかしながら、パウエル議長が当面の金融緩和継続を主張したにも関わらず、FRBが銀行のSLR(補完的レバレッジ規制)の次元措置を延長しなかったように、FOMCは徐々に正常化に傾いていると見るべきと考える。このIMMの(円売り)ポジション転換はそうした正常化を反映する指標の一つと思われる。この他、FRBも注目するブレークイーブンインフレ率は2.18%と2018年11月以来の水準まで上昇。住宅価格もリーマンショック以前の水準まで上がっている(ただし家計のレバレッジは当時よりかなり低い)。政策金利の引き上げは当面無いものの、量的緩和の資産買い入れ額縮小(テーパリング)が前倒しされるリスクは否定できない。バーナンキ・ショックと言われ、2015年5月に緩和継続をアピールしておきながら6月の決定会合で国債のテーパリングに踏み切った例が脳裏を過ぎる。そうした教訓からパウエル議長らはマーケットとの対話を重視するものの、ファンダメンタルズの変化に伴ってFOMCも緩和姿勢の修正を余儀なくさせられるかもしれない。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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