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ジョセフ・クラフト 特別レポート

① バイデン政権が著名独禁法学者二人を起用 ~ ハイテク大手に宣戦布告か?

掲載日:2021年03月15日

政権人事があまり取り沙汰されなくなっているが、注目の人事を二つ紹介したい。二人ともコロンビア大学の教授でいずれも独占禁止法が専門である。以前にバイデン政権のAgency Review Team(政府機関審査チーム)のメンバー構成から金融とハイテク産業規制への強い取り組み姿勢が窺えると紹介した。そうしたARTのメンバーが様々な政府規制機関の役職に就いている。主だったところでは、金融・証券監査ARTを指揮したGary Gensler氏がSEC(証券取引員会)委員長に就任。この度バイデン政権は、二人の独占禁止法の専門家の起用を決めたが、注目に値することは、二人ともハイテク産業(取り分けGAFA)に厳しい姿勢を取っていること。つまりこの人事は、バイデン政権が所謂ビッグ・フォーに対して規制強化の狼煙を上げたと解釈される。

一人目はリナ・カーン女史で、この度FTC(連邦取引委員会)委員に指名、これまでアマゾンやグーグルなど大手プラットフォーマーの反競争的行為に警鐘を鳴らしてきた。二人目の大統領特別補佐官に就いたティモシー・ウー氏は、2000年前半のドットコム・バブルからネット社会の平等を主張、近年はFacebookなどハイテク大手企業の解体を推奨している。二人がバイデン政権に入ったことは、いよいよハイテク規制に本格的に乗り出すことが示唆されるのではないか。下記に二人の簡単なプロフィールを紹介する。

リナ・カーン ~ 彼女がYale大学在籍中(2017年)に出版した記事「Amazon's Antitrust Paradox」は、一躍脚光を浴び、NYT紙が「独禁法の概念を再構築する重要な分析」と称賛。同記事に加え、「The Separation of Platforms and Commerce」と題した記事はメディアそして業界から数々の賞を受けている。彼女の基本概念は、これまでの独禁法は商品価格を抑えるのに焦点を置いて来たが、アマゾンやグーグルが提供するプラットフォーム事業には目に見えない反競争的行為が多く潜んでいるというもの。彼女の指摘によって近年は、価格以上に巨大プラットフォームによる弾圧行為あるいは反競争的行為が取り沙汰されるようになった。彼女の考え方がエリザベス・ウォーレンの消費者保護思想やハイテク解体論を大きく形成したと言われている。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

ティモシ―・ウー ~ 彼は、2000年初期にNet Neutralityという概念を広めたことで有名。ネット・ニュートラリティとは、ユーザー、コンテンツ、サイト、プラットフォーム、アプリケーション、接続している装置、通信モードによって差別あるいは区別することなく、インターネットサービスプロバイダ(インターネット接続業者)や各国政府が、インターネット上の全てのデータを平等に扱うべきだとする考え方。2018年の著書、「The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age」では、企業の巨大化あるいは産業の権力集中がポピュリズム、ナショナリズムそして過激政治思想に繋がると指摘する。彼は近年のFacebook解体を要求した独禁訴訟の支持者でもある。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

FTC(連邦取引委員会)は、5人の委員で構成されている。現在4人のメンバーは、Rebecca Kelly Slaughter女史、Noah Joshua Phillips氏、Rohit Chopra氏そしてChristine Wilson女史である。中でもChopra氏は、Dodd-Frank法や消費者保護法に深く携わり、カーン女史と極めて近い思想を持つ。Slaughter女史も2021年1月にZoom社が不正行為を行っていないとのFTC委員会の判断に異議を唱えるなど、反ハイテクと言える。即ちカーン女史のFTC指名が承認されれば、FTC内のハイテク規制強化論者が過半数を占めることになり、解体論など規制志向が加速することが予想される。そこに、ウー氏を筆頭とするバイデン政権の経済チームの後押しがあれば、GAFAに強い逆風が吹くかもしれない。

② QUAD首脳会議検証① ~ 声明文の功罪

(一部の)メディアは、「バイデン政権は(トランプ以上に)対中強硬姿勢」や「アメリカは中国と全面対決」などのような虚像・希望的観測をいつまで推奨し続けるのだろうか? QUAD首脳会議の開催前は、「中国包囲網」、「中国けん制」あるいは「対中強硬鮮明に」などとQUAD会議の趣旨を大きく報じたが、結果的に声明文には中国に関して一言も触れられなかった。アメリカ世論そして議会の強い反中姿勢に比べて、現在のバイデン政権の対中姿勢は融和的あるいは中途半端と言わざるを得ない。「バイデン政権は反中」との読者の希望・期待に応えたいという気持ちは理解できなくもない。1月25日のサキ報道官の「戦略的忍耐発言」、2月4日のバイデン大統領初の外交演説で中国に関して僅か27秒しか触れなかったこと、2月10日の米中首脳電話会談で2時間以上も話し(昔話にふける?)、2月16日のCNN主催タウンホールで人権弾圧行為に関して習近平に理解を示したこと、2月19日のミュンヘン安全保障会議の演説でプーチンやクレムリンを名指し批判するも、習近平や共産党には言及しないなど、客観的に見て対中強硬姿勢を打ち出しているとは言い難い。実態として、バイデン政権は対中政策がまだ構築出来ておらず、より融和的か、強硬的かの立ち位置を模索しているものと思われる。

バイデン政権が対中姿勢に関して迷っている最中で、同盟国が反中姿勢を鮮明に打ち出すはずも無い。その象徴が、2月19日のG7首脳会談声明文と今回のQUAD首脳会議明文だと考える。期待に沿わない点があったものの、QUADによる首脳級会議が行われたことは大きな成果と言える。そこで今回のQUAD会議を検証するにあたっていくつかの功罪に触れてみたい。


「自由で開かれたインド太平洋」を明記 ~ 声明文1番の冒頭に、「我々は、多様な視点を持ち寄り、自由で開かれたインド太平洋のための共通のビジョンの下で結束している。」と明記。日本がリーダーシップをとって築いたこの枠組みが継承される意思表示と言える。これまでバイデン政権は、「自由で開かれたインド太平洋」という正式名をあまり使って来なかった。推測だが、日本政府が声明文に盛り込むよう働きかけたものと思われる。それでも「自由で開かれたインド太平洋」への言及はこの1回のみ。

インド (ワクチン) ~ 中国抑止において、インドは重要なキープレイヤーである。ワクチン外交を推奨することでインドをQUAD首脳会議に取り込めたことは、中国にとって脅威であり、成果である。インドのワクチン供給推進はインドへのアメだけでは無く、日米豪に取っても助け船である。本来、日米豪が先頭に立って発展途上国にワクチンを提供しなければいけないのにとても出来る状況にない。そこでインドをQUADに取り込み、且つ対中・露のワクチン外交に対抗する、一石二鳥の戦略。

対面首脳会議を約束(継続性) ~ 声明文の5番に、「首脳レベルでは、我々は2021年末までに対面の会議を開催する。」と明記。2020年10月のQUAD外相会議で定例化が示されたものの、バイデン政権に変わって、改めて確認。年内に首脳間のフォローアップ会議の開催は、このイニシアチブの継続・恒久化が示唆、これは成果である。



中国の言及避ける ~ G7に続いて対中姿勢の足並みが揃っていないことが露呈された。G7の声明文には抽象的な表現で「中国」と一回だけ明記。今回のQUAD声明文では一度も明記されていない。中国に関して4番で、「東シナ海及び南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に 対応するべく、海洋安全保障を含む協力を促進する。」と表明するのが限界。QUAD会議は特定の国を名指し、批判するのが目的でないとの指摘もあろう。しかし、声明文には北朝鮮とミャンマーについて言及している。バイデン政権自体が、中国とどこまで対立すべきか迷っている最中、日豪印はおろかASEANが反中の踏み絵を踏むことなどできない。今回QUADが対中強硬姿勢に踏み込めなかったのは、インドが原因との指摘があるが、それ以上にバイデン政権が反中姿勢を明確に示せていないのが実態と考える。

インド (アキレス腱) ~ QUAD首脳会議の開催にこぎ着けたのはインドを取り込んだ成果がある一方、QUADのアキレス腱がインドであることも露呈してしまった。中国はQUADの弱みを見透かして強かにインドを取り込む工作を図るというか既に図っている。インドは対中抑止に重要な役割を担う一方、QUADのアキレス腱でもある。中国は経済協力でインドをある程度取りこめられれば、QUADの連携・協力姿勢を弱めることが出来る。オースティン国防長官が日韓訪問後にオーストラリアに寄らず、インドを訪問することが象徴的である。

人権問題に一切触れず ~ 人権問題を重要視するはずのバイデン大統領よ、どうしちまったんだ~?QUAD声明文にはウイグル、チベットそして香港問題はおろか、「人権問題」という文言が皆無。声明文の3番に、「我々は、新型コロナウイルス感染症の経済的及び健康上の影 響に対応し、気候変動と闘い、また、サイバー空間、重要技術、テロ対策、質 の高いインフラ投資、人道支援・災害救援及び海洋分野を含む、共通の課題に 対処することを誓う。」と宣言している。ここに一言「人権問題」を含むことはたやすいのではないか。先月のG7声明文でも人権弾圧などの問題は触れられなかった。人権問題に関してリーダーシップを取るどころか、2月16日のCNNのタウンホール(対話集会)でバイデン大統領は、「彼が香港で行ったこと、ウイグル西部(自治区)、台湾で何をしているのか、といったことについて私は一つの中国政策を強化することに声を上げる(反対する)つもりはない」と習近平主席を擁護したのである。バイデン大統領は、人権問題や対中強硬姿勢において強いリーダーシップを発揮していないと言わざるを得ない。その証拠が日本外務省の掲載したQUAD会議の概要である。会議では、東・南シナ海情勢の他に、中国海警法や国連海洋条約の侵害に加え、ウイグル自治区の人権問題の懸念が表明されたが、それはバイデン大統領ではなく菅総理である(下記参照)。バイデン大統領は、コロナ対策には意欲的に取り組んでいるのに人権問題に消極的なのが理解しがたい。

日本外務省ホームページに紹介されているQUAD首脳会議の概要より・・・

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

③ QUAD首脳会議検証② ~ 中国の反応は「見透かし?」それとも「焦り?」

クワッド首脳会議を中国は(本音的に)どのように受け止めたのか?新華社通信の傘下にある環球時報そしてその編集長は中国内でツイッター口座を持つことが許されている数少ない人物。そのため、中国政府の非公式スポークスマンとして金融市場では認知されている。そこで今回のクワッド会議に関して環球時報からツイッターが投稿された。この投稿の意味合いについてワシントンに居る外交通と協議した。結論から言うと中国に見透かされている(笑われている)とも見受けられるし、逆に焦り(脅威)とも受け止められる。

QUADという枠組み、すなわち対中で連携する国家間の組織は、中国にとって脅威に間違いない。NATOがロシアにとって脅威であるように、QUADはアジアのNATOになり得る。今回は外相級から首脳級に発展したことは中国にとって無視できない事態と言える。取り分けインドがより枠組みに参加していることは深刻と考える。そうした脅威や焦りから強がりに見受けられなくもない。

ところが、今回のQUADから少なくとも対中強硬姿勢において足並みが揃っていないことを露呈してしまった。上記②で指摘した問題点は当然中国も理解している。中国から見れば今後QUADの基盤を崩すのにアキレス腱(インド)が見えたことは成果、今後インドに対して様々な揺さぶり工作を試みることが推測される。その意味でツイッター投稿は、中国執行部としてQUADは怖がるに値しないと見透かしたようにも読み取れる。

いずれにせよ中国そして西側諸国からみて、QUADの効力そしてアジアの安全保障にとって重要な役割を担うのがインドであることは間違いない。日米豪はインドを取り込み、更なる連携強化が重要であり、中国はインドとの距離を縮めることでQUADの枠組みに亀裂を入れる戦略(すなわち3+1)に特化するであろう。所謂ナマステ外交の始まりかもしれない

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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