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ジョセフ・クラフト 特別レポート

① 1.9兆ドルのコロナ経済対策検証 ~ 給付金は更なる株高の起爆剤となるか?

掲載日:2021年03月08日

土曜日に1.9兆ドル(約200兆円)のコロナ経済対策が上院で可決された。皮肉にも週内に可決されるはずの法案は民主党のマンチン議員が反対の意思を表示、民主執行部とホワイトハウスが慌てて収拾にあたった。結果、失業手当や給付金の上限所得額などいくつかの対策が減額されることになってしまった。法案採決の土壇場劇は、シューマー上院院内総務の根回しの甘さ、取り分けマンチン議員を軽んじてしまった議会運営のミスとほかならない。ご参考までに下記に法案の主な対策を集約したのでご参照ください。

そこで本題の経済対策による株式市場への影響について考えてみたい(下記表参照)。1次対策(2020年4月~)の給付金($1,200)の一定額が投資アプリのロビンフッドなどを通じて株式投資に宛てられたことが話題となった。金融緩和と重なり、そうした新規投資も寄与して、1万9,000ドルを割ったダウジョーンズ指数は年末には3万ドルの高値を更新(下記チャート参照)。2次の対策は1次の半分となる$600に止まった。ダウジョーンズは3万1,000台を付けるも、上昇モメンタムが鈍化。ゲームストップ現象が話題となったものの、給付金との因果関係は不透明とされる。そこで3次対策の給付金は1次を上回る$1,400となるため、更なる株高の押し上げ要因となるか注目される

結論から言うと多少の押し上げ効果はあっても、大きな影響には至らないと推察する。限定的な効果としてポイントを3つあげた:①市場のリスク許容度低下(長期金利懸念)、②家計の余力(貯金率)減少、そして③政府の金融規制。去年の春先は、FRBの積極的な金融緩和と政府による多額の財政出動が重なり、株価の割安感を助長、リスク許容度を一気に強め、個人による株式投資を後押しした。現在、バブルと言わないまでも割高感があり、更なる財政出動(給付金)は当面期待できない。そして最も大きいのが、FRBのテーパリングリスクを市場が懸念していること。実際にテーパリングを行うかは別として市場はより高い可能性を織り込み始めていることは確かで、投資家のリスク許容度を低下させている。次に家計貯金あるいは可処分所得に注目したい。コロナ禍後の家計貯蓄率が大きく上昇したことは間違いない。しかし、貯蓄率増加は高所得階級が中心で、直近では低所得層の貯蓄率低下が加速しているデータもある。JPMorganの調査によれば、低所得層(つまり給付金対象者)は去年積み上げた貯金の64%を支出しているのに対して高所得層の支出は38%に止まっている。つまり低所得層の資金余力が低下しており、年内にさらなる給付金が見込めないことからリスク投資あるいは高額商品消費などはこれまでよりは控える可能性が考えられる。最後に、政府の規制強化が過剰投資の抑制に寄与するものと思われる。イエレン財務長官に加えゲンズラーSEC長官はロビンフッダーなどSNSを中心とする投資家行動の調査を開始した。これによって株価が下落することは無いが、1年ほど前のロビンフッダーあるいは直近でのゲームストップ現象のような投資行動が抑制されることが推測される。

1.9兆ドルコロナ経済対策法案の主要対策
・現金給付: 一人当たり最大$1,400(ただし7万5,000ドルの所得制限)
・失業手当: 週$300の加算額支給($10,200まで税対象外)
・子育て支援: 子供一人当たりに$3,600の税額控除
・食糧支援: 対象者一人あたりに月$234の食料補助支援(Food Stamp)
・地方支援: 州と自治体政府支援として3,500憶ドル(約37.8兆円)
・家賃支援: 各州に200憶ドル(約2.2兆円)配布(家賃の他に公共料金支援にも適用)
・教育支援: 学校再開対策として1,700憶ドル(約18.4兆円)
・コロナ対策: CDCそして州・自治体に感染予防や検査対策として650憶ドル(約6.5兆円)

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

② バイデン安全保障暫定指針検証① ~ 最も注目するメッセージは「責任の共有(負担転換)」

3月3日にバイデン政権は「安全保障の暫定指針」を発表。注目が対中姿勢に集まるのは理解できるが、指針全文を注意深く読むと違ったメッセージが浮かび上がる。それは、同盟国に「責任の共有」を求めていく趣旨である。バイデン政権が主張する「同盟国連携」の本当の意味とはなんなのか?それは、「反中の踏み絵を踏むこと」と「自国防衛の強化」と考える。「反中の踏み絵」とは、アメリカの横に並んで経済・貿易、領土問題あるいは人権侵害などに関して中国へ抗議・制裁を行っていくこと。その際、中国からの経済制裁や軍事威圧を受ける覚悟を持たなければならない。中国は、オーストラリアそして直近では台湾を見せしめにすべく貿易制裁や本土での企業活動の規制を課せている。アメリカは中国と闘う余力があっても、果たして日本や欧州はおろかASEAN諸国らもどこまで付き合えるのか疑問が持たれる。

本指針で取り分け目立った「責任」とは、自国防衛の強化と思われる。バイデン政権が指摘する自国防衛の強化とは、トランプ政権が(NATOなどに)求めた軍事費用負担増よりも、自衛権の拡充、軍事強化による抑止力を意味する。この趣旨は、「share」、「invest」、「widen」、「join」、「pool」や「forge」など参加・加わるを意味する動詞が指針の中で随所に盛り込まれていることからも示唆出来る。日本に置き換えれば、集団的自衛権の枠組みを広げることが求められる可能性が予想される。無論、憲法違反や改正という圧力の話では無い。「同盟国連携」は日本が守られると歓迎する見解があるが、それには悩ましい責任・貢献が求められることも把握しなければならない。この意味で、「There is no such thing as a free lunch (ただより)高い物は無い」というアメリカのことわざが思い浮かぶ。

下記は、安全保障暫定指針の中から同盟国に「責任の共有」あるいは「負担転換」を指摘した文書を添付。
「We will work with allies to share responsibilities equitably, while encouraging them to invest in their own comparative advantages against shared current and future threats. (我々は同盟国と公平な責任の共有を進めると共に、各国が現在と将来の脅威に対処できるよう個別能力の向上に投資していくことを奨励する。)」

「Our strength is multiplied when we combine efforts to address common challenges, share burdens and widen the circle of cooperation. (共通の問題に取り組み、負担を共有し協力の輪を広げることで、我々の強みは倍増する。)」

「We will promote locally-led development to combat manipulation of local priorities. 各地域の優先事項の(不正)操作に対抗するべく、各地域主導の開発(対応)を推進していく。」

「We will rally our allies and partners to join us, pooling our negotiating leverage and showing our collective power and resolve. (同盟国とパートナーを結集し、交渉力をプールし、集合的な力と決意を示す。)」

「On all issues, we will work to forge a common approach with like-minded countries. (すべての問題に関して、同じ志の国々と共通のアプローチ・対応を構築するために努力する。)」

③ バイデン安全保障暫定指針検証② ~ 根幹は内政重視、「唯一の競争相手」はニュアンス違い

7,800字ある同指針の全文を読み、なるべく客観的に内容を集約してみた(下記概要参照)。最も重点を置いている根幹のメッセージは「内政重視」である。指針の随所に国内基盤の強化(経済復興)こそが中国などの安全保障リスクに対抗できる最も効果的な手段と主張している。バイデン政権発足以前から主張していた4つのプライオリティ(コロナ対策、経済復興、気候変動と人権問題)に明記、取り分け最優先課題として挙げたのが「コロナ対策」と「経済復興」。更に内政重視の象徴として多く見られた文言が中流階級を示す「Workers」、「Working Family」あるいは「Small Business Owners」である。

中国に関しては、メディアが着目したのが「唯一の競争相手」の文言。見出しからは、中国が唯一の脅威との印象が持たれやすいが、ニュアンスは多少異なる。中国がアメリカのみならず西側諸国の最重要懸念事項であることは指摘するまでもない。上記の全文は、「China is the only competitor capable of combining its economic, military, diplomatic and technological power to mount a sustained challenge to an open and stable international system. (中国は、経済、外交、軍事、技術力を複合させ、安定した開放的な国際秩序に絶えず挑戦が出来る唯一の競争相手)」と総合的な規模を指摘しており、唯一の強豪相手ではない。無論、最大の脅威であることに間違いない。この項目をさらに読むと脅威を抱く国としてロシアも同等の挙げており、その他イラン、北朝鮮や非国的テロ組織にも言及している。バイデン政権は、中国への警戒感を間違いなく示している一方で、「中国との戦略的競争が国益にかなう場合の協力を妨げるものではない」と文の最後に融和姿勢も付け加えている。

最後にちょっと気になったこととして、指針には一度も「自由で開かれた太平洋」と明記されていない。先月の外相会談からも米国のQUADへのコミットメントを疑う余地は無い。インド太平洋での協力の枠組みは支持するも、「自由で開かれた太平洋」との表記・タイトルは前政権の産物、トランプ色が強いことから使いたがらないのではと疑問視。アジアでの連携・協力体制は大きく変わらずとも、今後に違う呼び名を求めてくるかもしれない。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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