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ジョセフ・クラフト 特別レポート

① ミュンヘン安全保障会議でのバイデン演説検証① ~ 中国対ロシアで温度差?

掲載日:2021年02月22日

ミュンヘン安全保障会議でのバイデン大統領演説の最大メッセージは、「欧米同盟連携の回復と強化」。そこで、安全保障の最大懸念である中国とロシアには当然言及。だけど漠然な印象だけど、「あれっ?」と思ったのがロシア対中国への態度・姿勢に幾分温度差を感じた。あくまでも相対論だが、演説の内容はロシアに対してはより強硬、真っ向から批判的だったのに対して中国はより融和的、配慮を見せた印象を受けた。映像でも、何気に中国に言及した時よりもロシアの方が幾分気持ちが高ぶっているように感じた(ただし、大きな違いは無い)。そこで、「人権・領土問題」、「経済・政治思想競争」そして「首脳・政権名指し批判」の3つの観点からロシア対中国の姿勢の違いを紹介したい。

人権・領土問題について ~ 領土問題に関してバイデン大統領ははっきりとウクライナ問題に言及したのに対して、香港、ウイグルあるいはチベット問題には一切言及しなかった(下記文参照)。それはミュンヘン安全保障会議なので欧州地域に赴きを置いたからとの指摘もあるかもしれないが、バイデン大統領は中国を取り上げた際、「United States, Europe and Asia work together to secure the peace and defend our shared values and advance our prosperity across the Pacific」と米欧アジアの連携を主張している。それならウイグルやチベットにも言及しても良かったのではないか?2月4日の初の外交演説でもこれらの問題に言及しなかったのが気になる。更に、ウクライナだけでも分かるのに「クレムリン」と政権を名指ししている。対照的に中国の時はコメントが抽象的で、威圧校をする「者」と中国の言及を避けた(下記赤字参照)

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

経済・政治思想競争について ~ 「こじ付け過ぎだ」、と言われるのを覚悟で紹介したい。ここでは、一見両国を対等に批判しているような印象を受けるが、文言の一つ一つを見るとロシアに対してより刺々しいというか挑発的な言葉が見られる。英語の印象論なので上手く伝わるか分からないが、ロシアを表現する際、「攻撃」、「汚職」、「兵器」、「阻害」そして「無謀行為」など直接的というか角々しい文言が多い。それに対して中国の時は、「基盤を損なう」、「不公正な慣行」あるいは「威圧的行動」とちょっと角が取れた表現になっている。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

首脳・政権の名指し批判 ~ 一番「あれっ?」と思ったのが、首相・政権の名指し。ロシアの場合、「プーチン」と「クレムリン」と直に名指しの批判に対して「中国」あるいは「中国政府」のみで「習近平」は無論「共産党」とも一切言及がない。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

最後にロシアと中国に関して、実態を最も象徴する文言が、「The challenges with Russia may be different than the ones with China, but they're just as real」ではないかと思う。要は、両国は安全保障上の脅威だが、中国は経済的利益が高い・広いのに対してロシアは低い・狭い。中国の経済力にはイタリアを筆頭に各欧州諸国もそれぞれ温度差が違っていてEUとしても対中姿勢が一枚岩という分けではない。そうした利害関係がより中国に気を使っているのではないか?更に、オバマ政権は相対的に反露・親中の歴史が今回の演説にも反映された可能性も考えられる。

② ミュンヘン安全保障会議でのバイデン演説検証② ~ 無視されたイギリスが憤慨?

バイデン大統領は、20分間の演説の中で「Europe」あるいは「European」という言葉を実に22回も使った。ところが、「UK」、「United Kingdom」あるいは「Britain」への言及はゼロ、一度も触れていないのには驚いた。欧州の安全保障会議であるからEUに片寄りがちになるのは不思議では無い。しかしいくらEUから離脱したとは言え、イギリスはNATO加盟国であり、欧州半島で安全保障の重要な役割を担っている。ウクライナにでさえ言及している。傷口に塩とは、G7首脳会談を終えたばかりで、本人が同会議に出席しているにも関わらず議長を務めたジョンソン首相への感謝・労いどころか存在にも触れなかった。一つバイデン大統領を擁護するとジョンソン首相とは違うコマの出演のため直接触れなかった可能性が考えられる。それにしても冷遇の印象は否めず、これにはイギリス官邸筋も密かに激怒したようだ。

上記に関して下記にバイデン大統領演説のコメントに着目してみたい・・・。
●「The Transatlantic alliance is back... The partnership between Europe and United States in my view is and must remain the cornerstone of all that we hope to accomplish.」とバイデン大統領は欧米の連携を強調した。3歩譲って、ここでの「Europe」とはイギリスを含むヨーロッパ地域・半島を意味したのかもしれない。
●ところが、「Let me erase any doubt, the United States will work closely with our European Union partners and capitals across the continent from Rome to Riga...」と上記コメントをフォローするように、EU諸国のパートナーと明確に位置付けている。それを強調するように「ローマからリーガまで」とまで付け加えている。ラトビアの首都リーガに言及できるならロンドンぐらい言えたのではないか。
●「It's great to be with Angela and Emmanuel...」とバイデン大統領は冒頭挨拶でコメント。会議にはジョンソン首相も参加していた。本来、G7会合を無事に終え、議長のジョンソン首相に感謝するのが最低限の外交上の社交辞令。

ジョンソン首相の演説からもバイデン姿勢を意識した発言が示唆される・・・。
●ジョンソン首相は、欧米からの疎外感を悟ったのか、「it's vital for our American friends to know that their allies on this side of the Atlantic are willing and able to share the risks and the burdens...」や「Britain is working alongside France, Germany and the United States in a trans-Atlantic quad」などイギリスは欧州の一角であると同会議での自身のスピーチで主張した。
●更にジョンション首相はバイデン氏との距離を感じたようで、「UK's presidency of the G7 are to help the world to build back better and build back greener...」や「America is unreservedly back as leader of the free world...」などとバイデン選挙キャンペーンを引用し、世界のリーダーと持ち上げるなどバイデン大統領に媚を売るような発言が目立った。

オバマ政権は、公的にBrexitを批判。バイデン氏自身も、「北アイルランドに和平をもたらしたベルファスト合意が英国のEU離脱の犠牲になることは容認できない」や「北アイルランドの和平を脅かすのであれば、米国が英国と貿易協定を結ぶ可能性はなくなる」とジョンソン首相に苦言を呈してきた。ブレキジット指示だけでなく、トランプ大統領と表向き親密な関係にあったジョンソン首相をバイデン大統領が行為に思っているとは思えない。ジョンソン政権スタッフと金曜日に会談したロンドン在住の投資家曰く、英政府は米側の姿勢に困惑しているとのこと。同スタッフは、G7でのアメリカ側の態度に対して「Snub(冷や飯を食わされた感じ)」と不快感を示し、更にミュンヘン安全保障会議演説の内容にも憤慨したとのこと。最後に、これは「同盟国連携」では無く「えこひいき連携」と個人的な見解ながら憤りを露わにしたことに知人の投資家も驚かされたとのこと。

③ 誰も知らないワシントン最大の権力者 ~ マクドノー上院議事運営って何者?

今週から1.9兆ドルのコロナ経済法案が本格的に審議されるが、その法案を左右しかねないワシントン政界での有名な話を紹介したい。トランプが大統領選に勝利した2016年11月、共和党は上・下院でも過半数を獲得。そこである下院議員がポール・ライアン共和党下院議長に、「これで我々の天下だ、強敵は誰も居ない」と断言。ところがライアン議長は重い表情で、「いや、一人居る。エリザベスだ。」と返答。下院議員が、「えっ?エリザベス・ウォーレン?」と聞くとライアン氏は、「エリザベス・マクドノー上院議事運営だ」と答えたとのこと。ライアン下院議長の予感は的中、2017年に共和党のオバマケア廃止法案が否決に追い込まれたのはマクドノー女史の存在が大きかった。

「上院議事運営(Senate Parliamentarian)」の最大の役割そして何故ワシントン最大の権力者と言われる所以は、財政調整法が適用される際にどの政策法案が審議されるか決める上院スタッフ、いわば審判のような存在。財政調整法にはバード・ルールと言って、簡単にまとめると政府予算に関係の無い政策は法案から排除される制限がある。上院議事運営は、選挙でなく任命され、中立性が求められる。財政調整法適用の決定権から上院での法案審議・採決に影響力を持つ。対照的に上院議長である副大統領は50対50の時に票を投じる以外の影響力を持たないため、真の上院議長とも言われている。共和党のオバマケア廃止法案も予算に関係無いが、票取りに必要な政策が取り除かれてしまい、最終的に3人の共和党員上院議員が反対に回り否決されてしまった。

そこで民主党が、1.9兆ドルのコロナ経済対策法案による財政調整法を使って採決することを決めた以上、マクドノー上院議事運営によって中身が変わる可能性が想定される。1.9兆ドルと名目の額を保持しても、例えば他の予算法案との関係上給付金の支給者を全員から低所得者に限定するなど調整が行われている。民主党取り分け進歩派が最も重要視する政策そしてマクドノー氏が削除する可能性が高いのが15ドルの最低賃金引上げである。バイデン大統領は既に察したようで、周囲に最低賃金は今回見送ると語っているとのこと。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

④ ワシントンで物議を課もしているバイデン大統領の春節ビデオレター

米大統領が春節・旧正月の祝辞を表明するのはもはや恒例、取り分けオバマ政権はビデオ・メッセージで配信することが多かった。海外向けのメッセージでもあるが、主な趣旨はアメリカ国内のアジア系国民に向けた祝辞である。当初は「Chinese New Year」と表記され中国を直接イメージがさせるため、公平性と他国性の観点から近年は「Lunar New Year」と表記されるようになった。その意味でも声明文やビデオの内容は特定の国を刺さず、中立あるいはアメリカを印象づけるものになっている。

そこで旧正月の元旦に投稿されたバイデン大統領の春節祝辞のビデオレターに驚いた(下記右絵参照)。ワシントン政界に精通している知人確認したところ、「驚いたね~、外交サークルではちょっと物議を醸しているよ」との返答があった。下記の写真を比較していただきたい。左写真は従来の春節ビデオレターで、ホワイトハウス内(会議室や図書室等)から放映される。大統領による公式なイベント・演説のため、アメリカ国旗や大統領の紋章が映される。そして下記右写真は、今回バイデン大統領の春節ビデオレターである。

先ず、アメリカ国旗あるいは大統領紋が無い。それどころか、背景は中国カラーの赤で統一されているではないか。更に中国を連想させるのが、明王朝時代と思われる花瓶が後方に置かれている。それでも足りないのか真っ赤なクッションに金色の刺繍は中国共産党の旗の色(赤と黄色)を象徴する。共和党の党大会でもこんなに赤を観たこと無い。そして英語が分からない外国人(中国人)を意識したのか字幕が付けられている。要は、アジア系のアメリカ国民よりも、中国を意識したメッセージとの印象を抱かざるを得ない。ビデオレターの前日に習近平国家主席と深夜まで2時間も会談したことも考えると中国に対して過度な配慮と疑ってしまう。

考え過ぎ、深読みだとの指摘もあろう。正直、迷った。ベトナムもナショナル・カラーは赤であり、春節では赤と金は富と幸運を呼ぶこと使われる。花瓶だって旧九谷焼など中国以外かもしれない(これは説得力に欠ける)。字幕だって外国人というよりも耳の不自由な方々を念頭に置いた可能性がある。しかしこの演出は明らかに意図的であり、オバマ時代の形式からかけ離れている。真意ではなくとも、中国を意識したと疑われる演出であることは優に想定出来る。中国国営系メディアの関係者はブログで、「(ビデオレターは)中国に対する姿勢を示すものと広く受け止められている」と解説、そのような受け止め方をされてもおかしくない。今回のビデオレター演出は、バイデン大統領自身が指示したのか、それともスタッフが大統領の対中融和姿勢を忖度したのか、いずれにせよ中国が喜ぶ内容となったことは間違い無い。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

⑤ 日銀は6兆円のETF購入枠の撤廃示唆か?

ご存じ、3月19日の日本銀行金融政策決定会合(MPC)で「2%を実現するためのより効果的で持続的な金融緩和の点検」がなされる。「効果と持続性」を追求するのに様々な運営作が推測されるが、直近の資産購入動向を見ていると日銀はETFの6兆円買い入れ枠の撤廃を市場に促しているのではないかと推測する。その根拠は、日銀は6兆円枠達成に遅れており、買い増すどころか買い控えている、つまり年度までの6兆円ターゲット達成が見送られるようだ。無理もない、日経平均が30年来の高値圏にあるなか積極的なETFオペはファンダメンタルズを超えた値動きを助長、リスク・プレミアムに寄与する本来の目的から逸脱しかねない。もしそうであれば、僭越ながらに真っ当な決断だと思う

2月19日時点で日本銀行は年度ベースで4兆7,834兆円のETFを購入(設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETFも含む)。のこり30日弱で1兆円以上のETFの購入はかなり積極的なオペを要する。ところが、ターゲット達成にはペースをあげなければいけないのに、日銀は2月に入ってETF購入オペは一切行っていない(設備・人材投資支援枠除く)。政策目標を断念するのであれば(改めて正しい選択としておきたい)、2020年度最後のMPCでの制度改正は良いタイミングでもある。

更に日銀は介入に際しETF購入額を減額、1月以降から1日のETF購入額が700憶円から500億円に下げている(下記チャート①参照)。コロナ禍によって2020年3月には1日2,000憶円のETFを購入していたが、その後1,000憶円、800億円そして700億円と引き下げて来た。この動きは一定の景気回復そして株高に伴う、オペの正常化と位置付けられるだろう。これは、1月以降の500憶円は2016年8月以来の低水準であり、6兆円ターゲット達成が遅れている中での異例の減額はターゲットを諦めたと解釈せざるを得ない。何度も指摘させていただくが、本来の金融政策趣旨に寄与しないのであれば枠組みの見直しは適切と考える。

もし上記の推測が正しければ、金融政策変更のハードルは低いと考える。先ず声明文だが、現在6兆円枠の文言は脚注(footnote)に明記されており、これを削除するだけで良いのではないかと思う(下記表②参照)。そもそも購入ターゲットを脚注に入れること事態、金融政策委員会としてあまり重きを置きたくない、むしろ上限枠の12兆円を強調したい意図が伺える。そこで6兆円枠を撤廃すると金融市場がテーパリング憶測を招くのではないかとの指摘があるが、そのリスクは極めて低いと考える。第一に、6兆円枠を撤廃しても12兆円の上限が担保されていれば、必要な状況で6兆円あるいはそれ以上のETF購入は継続できる。3万円台で購入を控えれば、調整局面(例えば2万5,000円)ではより積極的に購入できることから逆に下値防衛強化の議論ができる。第二に、3万円台に乗った現在のブル相場で日銀が6兆円枠を撤廃したからと言って積極的な株売りに転じる投資家は皆無だと思う。同時にこの水準で積極的なETF購入オペが必要だと考えている投資家は居らず、ETF枠調整は理に適っている。3月の金融政策決定会合は、政策調整やオペレーション改善に打ってつけのタイミングであろう。黒田総裁筆頭に日銀幹部もチャンスと見ているのではないかと推測する。

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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