ジョセフ・クラフト 特別レポート
① 左派メディアがこれ以上無視できなくなった2つのスキャンダル
掲載日:2021年02月17日
今左派メディアがピンチ。ケーブル放送を観て、なんとなく元気に欠ける。先ず、トランプの裁判が1週間で呆気なく終わってしまった。ニュースが少ないところに、反トランプ勢力のスキャンダルが2つも浮上。下記スキャンダルで厄介なのは、魔女狩り、フェークニュースと主張して来たトランプをある程度正当化するものであり、弾劾裁判でトランプ離れを期待した民主党の思惑から外れかねない。二つのスキャンダルは無視できないものに発展、やっと週末からCNNやMSNBCでも取り扱いが得られるようになった。
クオモ知事のコロナ隠蔽疑惑 ~ CNNやニューヨーク・タイムズからコロナ対応のヒーローと崇められたクオモNYK知事が「コロナデータ改ざん疑惑」で窮地に立たされている。去年の春にニューヨークがコロナウイルスで多大な被害に直面した際、クオモ知事は毎日記者会見を開き、「(コロナ対応で)必要なのは政治判断よりも、正確なデータと事実である」と透明性の重要性を主張し、メディアから称賛された。次の大統領に相応しいとまで一時人気が高まった。ところがクオモ氏は、養護施設のコロナ死者数を大幅に低く報告していたことが発覚、これまで、擁護施設でのコロナ死者数を8,500人と報告していたが、実際には倍以上の15,000人とのこと。これは養護施設に入っている全人口(9万人)の訳16%にも及ぶ大きな額。改ざんの理由は、トランプ政権による捜査を回避するため。当初、クオモ知事は疑惑を否定、左派メディアも右派団体の陰謀とほとんど取り上げなかった。ところが2月3日にニューヨーク州裁判所がデータの開示を要求すると、12日にはクオモ知事の側近が民主党議会に事実を認める告発を行い、スキャンダルが発覚した。現在、ニューヨーク州司法長官が捜査に乗り出し、議会から辞任要求が出る始末。クオモ知事の弟が看板アナウンサーを務めるCNNでさえ擁護出来なくなり、方針転換、先進から報道に乗り出した。
リンカーン・プロジェクトのセクハラ疑惑 ~ Lincoln Projectは、反トランプである共和党政治戦略家によって2019年12月に創設された政治資金団体(PAC)。創設メンバーは、故ジョン・マッケイン上院議員の選対戦略官を務めたジョン・ウィーバー氏、弁護士でトランプ大統領補佐官だったKellyanne Conwayの夫でもあるジョージ・コンウェイ氏、ブッシュ大統領やシュワルツェネッガー知事の政治戦略官を担ったスティーブ・シュミット氏そしてCNNの政治コメンテーターであるリック・ウィルソン氏の4名。共和党員でありながらトランプに反旗をひる返した4名は、CNN、NYTやMSNBCなど左派メディアから持てはやされテレビに引っ張りだこ。過激な反トランプ広告を掲載、民主党員から支持され、90億円以上の献金を集める注目の政治団体となった。ところが、1ヶ月ほど前からウィーバー氏が複数男性へのセクハラ疑惑が浮上。当初は右派メディア・共和党の陰謀として左派メディアや民主党は無視するも、1月31日にニューヨーク・タイムズ紙が21人から虐待を受けたと告発記事を報道。更に、献金の7割近くが政治活動では無く、創設者4人のコンサルティング会社に支払われた疑惑も浮上、FBIが調査に乗り出す始末。反トランプで結束していた同政治団体は、幹部同士がお互いを責め、辞任が相次ぐ中、先週金曜日には創設者の一人であるシュミット氏が退任を表明。一時はアイドル扱いまでしていた左派メディアは一転、批判報道に乗り換えた。
② 電話会談から解析する米中勢力関係 ~ 軍配は習近平に?
先週、バイデン大統領と習近平国家主席の電話会談が行われた。会談内容あるいはコメントが注目されるものだが、会談のロジスティックス(日程、時間や演出)から国家間の駆け引き、強かさ、あるいは焦りなどが垣間見られる。今回の電話会談ロジを検証して、如何に中国が強かであるか、バイデン政権が飲み込まれているか推察される。結論から言うと軍配は習近平にあがった。下記は、ワシントンのホワイトハウス通とも連携して辿り着いた共通認識である。
開催日 ~ 2月10日(米)・11日(中)。 どの国が先に会談を要請するかによって力関係が伺える場合がある。現地の取材から、会談を申し込んだのは中国のようだが、実際に焦っていたのはバイデン政権のようだ。米国務省は、中国への対応を協議することも想定し、先ず同盟国との電話会談を優先したとのこと。面白いことに、中国から強い要請も無く、沈黙の様子だったとのこと。そして就任から3週間弱の2月7日のCBS放送のインタビューで、「米中は世界で最も重要な関係にも関わらず何故電話会談を行っていないのか?」とバイデン大統領は問われた。大統領は戸惑った様相で、「電話しない理由は無い」と認めた。そこで中国はすかさずチャンスと見たのか、電話会談を打診したようだ。ホワイトハウス報道室に精通している現地のコンタクト曰く、中国側は春節前の11日までに会談を行わなければ、春節後(約1週間)まで対応できないとプレッシャーを掛けた可能性が高いとのこと。そこで焦ったのかホワイトハウスが中国の要請通りの春節前の日程を受けたようだ。会談の開口一番、バイデン大統領が春節の祝いに言及したことからもアメリカ側が中国側のスケジュールを気に掛けていることが伺える。
開催時間 ~ 推定22:00前後(米)・09:00前後(中)。 米中電話会談の時間は米国夜としか公表されていないが、現地の取材だと、バイデン大統領の食事後とのこと。通常、食事は19:00~21:00に取ることが多いので、会談の準備や支度など考慮すると22:00前後ではないかと推測される。先ず、78歳と高齢の大統領に国務省が夜中近い時間の会談を簡単に受けるとはとても考えられない。しかも、会談は2時間に及んだことで、寝床に着いたのは優に翌朝になったと思われる。バイデン大統領の1日のスケジュールは午前9時半のブリーフィングで通常始まる(火~金)。ところが習近平会談の翌朝(米11日)は、午前10時から上院議員とインフラ投資に関する会合が予定されていた。通常のブリーフィングと同会合の準備を考慮すると普段よりも早く起床しなければならず、寝不足の懸念が持たれる。通常のルーティーン及び健康を害してでも習近平との会談を優先した可能性が考えられる。因みに、菅総理との会談は日本時間の午前0:47分、ワシントン時間の午前10:47分に行われた。
会談時間 ~ 2時間。親友・親戚と2時間も電話で話すことなんて滅多に無い。ましてや他国の首席それも対立国と2時間も何を話すのか?習近平が香港ウイグル問題あるいは不公平な経済慣行について2時間も耳を傾けるとは到底思えない。ホワイトハウスの報道室にオフレコで問い合わせた知人によると、「電話会談は概ね穏やかで、以前に中国を訪問した時の思い出話に花を咲かせた」とのこと。単なるご機嫌取りでないことを祈る。電話会談の時間に関して中国側は相当喜んだ様子。共産党の非公式スポークスマンとされる環球時報の編集長は早速ツイッターで会談時間を好意的に解釈(下記参照)。中国に一定の苦言を呈したとしても、会談の大半は和やかで融和的なものだった可能性が高い。
米中首脳が建設的且つ融和な姿勢を持つことは歓迎すべきである。ただ、上記で紹介した日時そして会談時間を考慮するとやはりバイデン大統領の対中寛容姿勢あるいは融和的な心理を露呈したのではないかと考えざるを得ない。このようなスタートでバイデン政権は中国と今後厳しい交渉や強かな駆け引きが出来るのか不安を抱くのは小生だけであろうか?
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
③ 「戦略的忍耐」の真意は政策構築までの時間稼ぎ ~ 産経新聞取材
1月25日の定例記者会見で、サキ報道官が対中姿勢に関して「戦略的忍耐」と言及したことが話題となった。2月1日の本レポートで、「戦略的忍耐」の真意は、オバマ政権時代とは異なり、「包括的な対中政策が構築出来るまでの間、様子を見る・待つ」という意図があると紹介させていただいた。「戦略的忍耐」が独り歩きしてしまい、サキ報道官のコメント全文を読まないと真意が伝わらない。一部の評論家は、失言であると主張するが、ホワイトハウスは未だに撤回していない。失言では無いが、物議を醸したことに報道室が面食らったことは間違いない。もしサキ報道官が、「戦略的忍耐」と言及せず、例えば「戦略的に待つ」あるいは「忍耐強く見守る」と発言していれば大した話題にならなかったであろう。
そこで産経新聞が2月9日にホワイトハウス報道室に「戦略的忍耐」の真意についてホワイトハウスに取材を行った。産経新聞によると、ホワイトハウスは、「オバマ政権下で北朝鮮の核問題への対応でとった「戦略的忍耐」の政策方針を中国に対して適用することを意味しない」と強調したのこと。ホワイトハウス報道官は、オバマ政権の北朝鮮政策を念頭に「戦略的忍耐という語句は、過去において特定の政策的アプローチを形容する際に使われていた」とも報道。更に同氏はワシントンの専門家にホワイトハウスのコメントに関して見解を伺ったところ、「一連の見直しを踏まえた米政権の新たな対中戦略が本格的に策定されるまでに『多少の期間がかかる』との受け止めが主流と報道。
ここで主張したいことは、ベテランの報道官が勝手且つ咄嗟に「戦略的忍耐」という文言を使うことは考えられないということ。報道官は、政権幹部の考えを把握し、正確に報道できるように、大半の大統領と閣僚会議・ミーティングに参加している。そうしたミーティングで、バイデン大統領あるいはブリンケン国務長官などが「戦略的忍耐」と使っていた事を聞いていて、彼女が記者会見で引用したのが最も理に適っている。つまり、バイデン政権内では未だに「戦略的忍耐」という概念が残っており、文言が使われていることが示唆される。ある外交官が指摘したが、頭では分かっていても、長年培ってきた政治・外交理念(DNA)は中々消えない・・・。
④ バイデン大統領の対中メッセージは計算された3部構成
ワシントンの政治通に個人的な仮説を紹介したら、本人も同じことを思っていたと意見が一致した。それは、バイデン大統領の公式な対中コメントは自然では無く、人工的つまり計算されたものではないかと思う。中国は最重要課題としながらも、これまでのメッセージは短くまとめられており、三つに構成されていると考える(下記参照)。2月4日の外交演説そして2月11日の大統領の公式ツイッター投稿には共通した文法構成が見られる。
先ず文書は、比較的中立あるいは一般的な見解で始められる。例えば、「中国は最大の競争相手」と位置付けることが多い。競争相手というのはポジティブでもネガティブでも無く、現実的な関係を表す。例えば、ロシアの場合は「Adversary(ライバル・敵対国)」を使うが中国にはほとんど使わない。次に強硬的な文が続く。ここでは中国の不当行為や人権侵害を指摘する。メディアはこの部分に着手して「対中強硬路線」と報道しがち。ところが最後は「協力の用意がある」というような融和的な文書で占めている。これまでの文は思い付きでは無く、ブリンケン国務長官を筆頭に国務省の計算の基に作成された文だと思われる。そして文書には、バイデン大統領の中国に対する融和的な心理が働いていると考える。人と対面・対話する場合、重要なのが初印象と最後の終わり方。下記の文書は中立的な切り口で始まり、最後は融和的なメッセージで終わっている。本来、強硬的な姿勢であれば2番に融和的なメッセージを入れて、最後に苦言を指す方が効果的。ところがバイデン大統領はむしろ融和的なメッセージで終えている。挑発的あるいは強硬的なメッセージで占めるトランプ前大統領とは対照的と考える(トランプは最初から最後まで強硬的との意見もあるが・・・)。
出所:ロールシャッハ・アドバイザリー
【筆者プロフィール】
ジョセフ・クラフト
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る
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