ジョセフ・クラフト 特別レポート

株価暴落について

掲載日:2018年12月26日

先週金曜日の時点で米株式市場は12月として1930年の大恐慌以来の下げ幅となっていた。それは主に米中貿易戦争、原油安、そして経済及び企業業績の減速観などが原因。しかし昨日の米株そして1,000円以上も暴落した今日の日本株の背景には、新たな米政局不安が重なったと言える。米政局不安は具体的に四つのリスクが挙げられる: ①共和党分裂リスク(マティス長官辞任による党内不穏)、②政府閉鎖長期化リスク(トランプの安易な約束)、③中銀への介入リスク(パウエル議長解任検討)、そして④金融危機不安を煽るリスク(ムニューシン財務長官の不可解な行動)。特に後者の三つは先週末の出来事で、週明けの相場を直撃した。

共和党分裂リスク ~ 歴史的に後に振り返ったら、マティス国防長官の退任はトランプ政権の崩壊に繋がったと位置付けられかねないほど大きいと考える。マティス長官辞任は、今後共和党を分裂させかねないことである。トランプ大統領に異議を唱えた辞表を公開したことは共和党内はもとよりワシントンDCで大きなインパクトを与えている。それは、これまでトランプ大統領の言動・行動に不満を抱きながら沈黙していた共和党幹部らが公的に反論し始めているからである(下記コメント参照)。トランプ大統領がこのまま党に耳を傾けず、勝手に政策決定を行いつづけると本格的に亀裂が入る可能性が浮上したと考える。これからモラー捜査の報告が控える中で、党内からのトランプ批判が高まり続けると、最悪の場合には数名の上院議員が弾劾発議に同調しかねない。アメリカの歴史上で初めて両院での弾劾可決の可能性が少しでも窺えるようであれば、政局どころか経済・金融の大混乱を招きかねない事態になる。

マティス長官辞任に関する共和党重鎮のコメント

●マッコネル上院院内総務: 「特に不穏な事態である。」

●ルビオ・フロリダ州上院議員: 「この辞表は、我々が深刻な過ちの道に入り、自国を脅威にさらし、同盟国を傷つけ、そして敵対国を増長させていることを意味している。」

●サッス・ネブラスカ上院議員: 「アメリカにとってとても残念な一日だ。マティス長官はトランプ大統領が聞くべき助言をしていたからだ。」

●キンジンガ―・イリノイ州下院議員(元軍人): 「健全なアドバイスを無視すればこうなる。私が知っている軍関係者は誰も(シリア撤退を)支持していない。」

●ケイシック・オハイオ州知事: 「こうした国内外の混乱はアメリカを脅威にさらしており、直ちに止めなければいけない。」

政府閉鎖長期化リスク ~ 二つ目は21日(金)の夜中に発動された政府閉鎖。不幸中の幸いなのか、クリスマスから年末はもともと多くの役所が閉鎖あるいは職員が休みに入るので大きな経済打撃は無い。しかし、これが年初まで長引くと問題である。当初、政府閉鎖は先送りされるだろうと市場は織り込んだが、トランプ大統領自身が上院財源案を却下、その強硬姿勢を崩す様子がなく、民主党も妥協するインセンチブがないため打開の糸口が見えない。そもそもトランプ大統領が妥協しない理由がバカげている。保守有権者に人気が高いラジオ・トーク番組(ラッシュ・リンボー)がトランプ大統領は壁建設財源を見送ったら裏切り者と批判。そこでトランプ大統領は番組の司会者(ラッシュ・リンボー)にメールで政府閉鎖をしても壁の財源を必ず取ると公言してしまったから引っ込みが付かなくなってしまった。約束を守れば政府閉鎖が長期化する、妥協すれば保守支持層から批判を招き、政権基盤が揺らぎかねないと八方ふさがり状態を金融市場が懸念をした。更にミック・マルバニー首席補佐官代行が「年内での閉鎖回避は難しい」と言ってしまい、長期化の観測を煽ってしまった。

中央銀行への介入リスク ~ もともと弱含んでいた市場に週末に(トランプが)パウエルFRB議長の解任を模索しているという報道が出た。聖域とされていた中央銀行の独立性が問われかねない問題である。米連邦準備法のSection 10.2を確認したところ、法的には正当な理由があれば大統領によって解任出来ると明記されている(下記黄色文参照)。ただし、正当な理由とは具体的に定義されていない。そして議長解任の前例は歴史上にない。本来であれば現実性がないと市場は無視する話だが、トランプ大統領の場合、それが否定できない。FRB議長が解任されようものなら金融政策は混乱に陥り、予想が付かない金融パニックを引き起こしかねない危険性を大統領自身が全く理解していない。不安に駆られている金融市場を宥めるどころ火に油を注いでしまった。

米連邦準備法Section 10.2

2. Members ineligible to serve member banks; term of office; chairman and vice chairman

The members of the Board shall be ineligible during the time they are in office and for two years thereafter to hold any office, position, or employment in any member bank, except that this restriction shall not apply to a member who has served the full term for which he was appointed. Upon the expiration of the term of any appointive member of the Federal Reserve Board in office on the date of enactment of the Banking Act of 1935, the President shall fix the term of the successor to such member at not to exceed fourteen years, as designated by the President at the time of nomination, but in such manner as to provide for the expiration of the term of not more than one member in any two-year period, and thereafter each member shall hold office for a term of fourteen years from the expiration of the term of his predecessor, unless sooner removed for cause by the President. Of the persons thus appointed, 1 shall be designated by the President, by and with the advice and consent of the Senate, to serve as Chairman of the Board for a term of 4 years, and 2 shall be designated by the President, by and with the advice and consent of the Senate, to serve as Vice Chairmen of the Board, each for a term of 4 years, 1 of whom shall serve in the absence of the Chairman, as provided in the fourth undesignated paragraph of this section, and 1 of whom shall be designated Vice Chairman for Supervision. The Vice Chairman for Supervision shall develop policy recommendations for the Board regarding supervision and regulation of depository institution holding companies and other financial firms supervised by the Board, and shall oversee the supervision and regulation of such firms. The chairman of the Board, subject to its supervision, shall be its active executive officer. Each member of the Board shall within fifteen days after notice of appointment make and subscribe to the oath of office. Upon the expiration of their terms of office, members of the Board shall continue to serve until their successors are appointed and have qualified. Any person appointed as a member of the Board after the date of enactment of the Banking Act of 1935 shall not be eligible for reappointment as such member after he shall have served a full term of fourteen years.

金融危機不安を煽るリスク ~ この週末はトランプ政権の焦りが浮き彫りとなった。ムニューシン財務長官は金融市場を宥めたいのか、トランプ大統領を宥めたいのか、不可解な行動に出た。先ず、財務省広報部は主要6銀行のCEOとそれぞれ電話会談を行ったとツイッターに発表した。クリスマス・イブの週末としては異例である。銀行幹部あるいは大手ヘッジファンドらはこのことについて頭を傾げている。ムニューシン長官はCEOらに資金繰りに問題ないかとか、十分な担保が確保しているかを確認した。そもそも株価下落は銀行の信用不安によるものではない。財務長官の的外れの問いに市場の不安が煽られた結果となった。即ち、財務長官は市場の現状を全く理解していないか、あるいは市場が把握していない危機的状況に備えようとしているのか、市場が困惑してしまったのである。いずれにせよ、本来、自信と落ち着きを齎すべき財務省長官が逆の行動に走ったということ。

金融危機不安を煽るリスク

出所:米財務省

もう一つは、24日(月)に「Plunge Protection Team(暴落阻止チーム)」を招集するとムニューシン長官が発表したこと。PPTはあだ名で正確には「Working Group on Financial Markets」と呼ばれ、大統領に直結する金融市場審議会とされる。PPTは1987年のブラックマンデーを受けて1988年3月にレーガン政権下で発足したもの。審議会のメンバーは財務長官、FRB議長、SEC委員長と商品先物取引委員会委員長が中心で、大統領顧問あるいはNEC委員長などが加わることもある。PPTが最後に招集されたのはリーマンショック時の2008年11月。電話会談に続き、リーマン危機以来招集してない審議会を招集するということは市場が把握しているよりも深刻なのかとの不安を煽ってしまった。確かに今月の株価下落は ものの、金融市場はリーマンショック時と違い、株式の調整と考えていた市場を驚かせるものになった。リーマン級の危機でないとしたら、週末の電話会談とPPTの招集が少なくとも意味することは財務長官が市場の空気を全く読めてないことになる。あるいは、市場心理などそっちのけで自己保身のためトランプ大統領にアピールする茶番なのか?いずれにせよ、株式を買う材料とは到底言えない。

市場を落ち着かせなければいけないホワイトハウス、あるいは財務省が市場不安の根源となってしまっている状況である。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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