ジョセフ・クラフト 特別レポート

円高を示唆する三つの相関性

掲載日:2018年12月26日

昨年末の株式ボラティリティに比べると為替市場は比較的安定していた。値幅の動きを比較するのは妥当でないかもしれないが、11月から12月21日の間で日経225平均指数が10.7%下落したのに対してUSD/JPYは2.85円と2.5%の円高に止まった。株式には行き過ぎ観が感じられるも、今後の円動向をどうみるべきか?

そこで三つの指数・相関性を見てみたい。一つ目は、為替動向を占う典型的な定規である金利差。基本、日米10年金利差が拡大すれば円安に動き、縮小すれば円高に振れる。2018年1月から3月半ばの間にこの相関性が一時的に崩れたものの、それ以前そしてそれ以降は相関性は相対的に高い。去年の11月に3.11%の金利差は12月21日に2.74%(約12%)まで大きく縮小した。金利の動きに比べると円高幅は限定的と感じる。まだ為替が金利の動きに追い付いてないのか、更なる円高の余地が残っているかもしれない。更に日米の金融政策を比較すれば、日本銀行の緩和余力よりもFRBの方が政策変動の余地が大きいと思われる。景気減速が確認されれば、更なる米金利の低下に伴い円高圧力が予想される。

日米金利差とUSD/JPY

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

二つ目は原油である。原油と米10年金利も連動性が高い。両指数は米を筆頭に世界経済の定規であると共に地政学不安を反映する指数である。原油(WTI)は10月3日に76ドル台の高値を付けてから12月21日までに45ドルへと実に40%も暴落した。奇しくも10月4日は米から中国へ宣戦布告とも言えるペンス副大統領の中国姿勢スピーチがあった。先ほど米金利の動きに対して為替(円)が追い付いていないかもしれないと指摘をしたが、40%も下落した原油に比べると米10年金利は0.48%と14.9%の下落に止まっている。原油が売られ過ぎなのか、米金利にまだ下落余地が残っているのか?後者だとすればドルが対円で更に下がる可能性が示唆される。

原油と米10年金利

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

三つ目の指数は投機筋のポジション。IMM先物市場の非商業(投機)円ポジションを見ると契約枚数が102,771枚(1兆2,846億円)の円売り越しとなっている。週間で発表されるこのデータが10万枚以上の円売り越しとなったのは去年1年で16回。2018年1月23日には122,870枚の円売りポジションが積み上がり、それが4月3日までに全て買い戻された経緯がある。その間、USD/JPYは111円から106円までの円高が進んだ。ヘッジファンドやCTA(商品投資顧問業者)に代表される投機筋の2018年度の運用業績は極めて厳しいとされる。そのため年末に株式を中心にリスク削減の動きが集中し、金融市場のボラティリティに繋がった。こうしたポジション調整の局面で円売りのポジションがまだ残っている可能性が考えられる。円の売り越しポジションもある程度買い戻されるなりヘッジがされたと思うものの、あと2~3円程度の円高に寄与するだけの残存ポジションがあっても不思議ではない。少なくともこれから更なる円売りに動くことは考え難い。

IMM先物投機円ポジションとUSD/JPY

出所:ロールシャッハ・アドバイザリー

USD/JPY動向に米金利が重要であることは上記で指摘させていただいた。米中銀の利上げに不満を抱くトランプ大統領は先月21日にパウエル議長の解任を検討していることが報じられた。一旦任命した中銀議長及び理事は解任できないというのが金融市場の理解・常識である。ところがそうではない可能性がある。米連邦準備法の10条の中に、「each member shall hold office for a term of fourteen years from the expiration of the term of his predecessor, unless sooner removed for cause by the President.」と記載されている。即ち、正当な理由をもって大統領に解任されない限り、各メンバーの任期は14年となっている。具体的に何が解任に正当する理由なのかは明記されていない。これまで事例が無く、トランプが本気で解任を模索すれば金融市場で混乱と批判を招くのは必至。しかし、法律的にありえない話では無い。当然トランプはハト派を後任に据えることから米金利の更なる下落は否めない。その場合まとまった円高も覚悟しなければいけない。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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