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ジョセフ・クラフト 特別レポート

G20米中首脳会談の出席者から分析される米中情勢・・・

掲載日:2018年12月25日

11月25日のレポートで、米中貿易交渉の(とりあえずの)着地点として、「60~90日間の関税停戦期間を設けて、(アメリカは)財務省ではなくUSTR(ライトハイザー)を表立って交渉に入れる」と指摘、概ねそのようになった。90日以内に米中貿易協定を結べるか注目するメディアが一部あるが、ありえない。米中貿易協定が90日で締結出来るなら日米貿易協定は9日で合意出来てしまう。WTO改革も今後は模索されることも忘れてはいけない。週明けにホワイトハウスに精通している者と協議したが、今回の合意はライトハイザー率いるUSTRが懸案の知的財産権や技術移転等の長期的構造問題を中国がどこまで譲歩する用意があるのかを検証する作業期間であり、貿易協定の締結ではない。その証拠は中国商務部の声明文、「90日以内に、明確な時間表とロードマップに従い、積極的に交渉作業を進める」で示される「交渉作業」という言葉にある。

そして猶予・交渉期間の代償として中国は農産物を筆頭に物品輸入を増やす。アメリカが一方的に中国を押し切ったとの印象があるかもしれないが、トランプ政権の焦りも見えた会談だった。現在ウィスコンシン州で農家の破綻申請が倍増しており、こうした農業州やラストベルト州の被害を早期に緩和したい思惑がある。日米の貿易交渉においてアメリカが物品貿易(TAG)とサービスなどの協議過程を分けたことからも伺える。今回の会談で、中国側から具体的なコミットメントがあったのはフェンタニル(麻薬に使われる鎮痛剤)の取り締まり強化とQualcomm-NXP買収案件の再考と承認である。アメリカからは、「One-China」政策を引き続き支持することが確認された。

さて今後の米中交渉作業の行方を占う意味で、G20首脳会談の出席者に着目してみたい。とても興味深い点がいくつか挙げられると思う。先ず、下記のG20米中首脳会談に出席した高官とそれぞれの外交上の位を見ていただきたい。

① 丁薛祥(てい・せつしょう)共産党中央弁公室主任:

弁公室主任が国家主席に同行して国際会議に参加することはこれまで無かったのではないのか? ところが、丁主任は11月21日のAPECに続き、G20でも習近平に同行。しかもホワイトハウスが発表した出席者リストでは習近平に続き2番目の位に位置付けられている。中央弁公室は共産党の事務機構、昔は秘書室と称され、同室の主任は党内調整を取り仕切る要職。 丁氏は習近平の秘書で、昨年の10月に抜擢された。丁主任同席の意味合いは習近平が党からの突き上げを受けており、同主任は(党上層部の)なだめ役ではないかと推測する。簡単に言えば、習近平は切羽詰まった状態に置かれている。

党からの突き上げ要因として米との貿易摩擦に加え、引き締め政策の撤回や第三諸国へのインフラ投資問題などが挙げられるが、インタポール総裁拘束が表す汚職取り締まりが特にネックになっている可能性が示唆される。汚職問題は性質上、弁公室が深く関わることと理解。詳しいことは分からないが、数か月前に党のある常務委員の不正が発覚したものの、逮捕に至らず、習近平への(えこひいき)批判が高まったと聞いている。そこで、批判を和らげる意味でインタポール総裁の拘束に踏み切った可能性が推測される。これに関する信ぴょう性は定かではないが、党から圧力が掛かっている可能性は高いと思う。そこで丁主任が米中首脳会談に同席し、報告を兼ねて、と習近平と党の間を取り持つ重要な役割を担っているのではないか?

② ライトハイザーを筆頭とする強硬派:

当初、ムニューシンやクドローの穏健派が会談を主導したと位置付ける一部メディア見解があった。会談後の記者会見を行ったのがムニューシンとクドローだったこともそのような印象を与えたかもしれない。しかし実態は、ライトハイザーを筆頭に強硬派が米側の交渉プロセスを掌握している。先ず、米側の出席者を見てみよう。強硬派はライトハイザー、ボルトン、ナバロそしてポッティンジャーの4人(ポンぺオは強硬派寄り)に対して穏健派は二人。もう一人の穏健派、しかも商務担当のロス長官は参加していない。そして中でも親中派のブランスタド大使の不参加が気になる(詳しくは③を参照)。更にムニューシンとクドローが主導していない証明は二人の記者会見説明の矛盾・相違から伺える。ブルームバーグは、「トランプ大統領の側近2人、習主席との「合意」の説明に四苦八苦」と報道、これが金融市場の不安を煽り、米株式の800ドル暴落の加担要因の一つとなったと思われる。週明けにWHに詳しいコンタクトとこのことを協議したが、G20直前の交渉はライトハイザーのUSTRと鍾山の商務相が直接行っており、ムニューシンとクドローは詳しい内容は聞いていないのではと考える。そもそもトランプ政権として問題なのが、ムニューシン、クドロー、ロスそしてライトハイザーの間で情報連携やコーディネートが悪いことが問題視される。連携の悪さとムニューシン・クドローは交渉の中核に入っていないがために双方の見解に矛盾・相違が生じたのである。最後にライトハイザーが交渉役の先頭に立っている証拠はトランプの下記ツイートで一目瞭然、「ボブ・ライトハイザーがムニューシン、クドロー、ロスそしてナバロと緊密に連携を取る」と位置付けている。中国にとって強硬派のライトハイザーの存在は悩ましいかもしれないが、彼の正式参加はトランプ政権が真剣に交渉に向き合うことを意味、5月のムニューシン交渉のようにトランプに突如合意をひっくり返される可能性は低いと思われる。

③ ブランスタド駐中国大使の不在:

今回の米中会談で最も不可解なこと。大したことではないかもしれない、あるいはそれなりの問題かもしれない。11月21日の時点で、ホワイトハウスは同大使がG20に出席すると明かしていた。ところがG20では、中国側は崔駐米大使がテーブルに付いているのに、彼の前にはクドローNEC委員長が座っている。ブランスタド駐中大使の姿は何処にもない。病気か緊急の私用で欠席したと考えるのが普通だが、その場合ホワイトハウスあるいは中国にある米大使館から何等かの説明・発表があるはず。G20に向けた事前交渉においても、当日の不参加は勿論、米中関係に際してもブランスタド大使の存在感が全くない。

大使が外されるなんて極めて考え難いことだが、実は三つの問題があり、可能性はゼロではない。先ず、ブランスタド大使は親中派で習近平とは個人的なパイプがある。関税を掛ける前、中国の貿易姿勢に不満を抱いていたトランプはブランスタド大使に相当プレッシャーをかけると言うか八つ当たりをしていたと聞いている。大使がトランプからプレッシャーを受けるのは不思議ではない、良好な日米関係でさえハガティ駐日大使もトランプからの圧力を掛けられて困ることがあると伺っている。大使が思うように機能していないからといって、歴代政権だったら安易に外すことはないが、トランプだったら不思議ではない。二つ目の問題は中国が中間選挙で(特に)アイオワ州でトランプを誹謗中傷する広告を出したことである。ブランスタド大使はアイオワ出身で州知事も務めた経緯がある。ホワイトハウスに精通する現地筋によると、トランプはブランスタド大使が中国に入れ知恵をしたと一時疑ったとのこと。現在も疑っているか分からないが、蟠りが残っていても不思議ではない。最後の問題はブランスタド大使の息子の利権侵害疑惑である。エリック・ブランスタドは中国にPR会社を設立、大使そしてトランプとの関係を謳って営業活動をしていたことが問題視されている。これらの行為が違法とまで言えないが、モラル的に疑いが掛かっても仕方がない。

④ 交渉成功のカギはクシュナー上級顧問:

10月にワシントンDCを訪問して驚いたのはクシュナーの評判の良さ。USMCA(新NAFTA)の裏の立役者は紛れもなくクシュナー。米墨貿易交渉そして米加交渉が何度か決裂の危機にあった時にまとめたのはライトハイザーではなく、クシュナーだった。これはカナダ・メキシコ両政府が表明しており、ライトハイザー自身もクシュナーを公的に評価している。メキシコに至っては、外国人に与える最高栄誉勲章「アズテカの鷲」を授与することを発表。ライトハイザーは優秀な弁護士・交渉人だが、事情に詳しい者によると彼には二つの問題点があると言う。一つ目は柔軟性に欠ける。 交渉が決裂しても構わないほど拘っている事項に関して譲歩しないし、対案を提案することが少ないと指摘される。9月末での日米貿易において最後までまとまらなかった事項(例えば3項)などは茂木大臣が打開提案を英語で打診してまとまった経緯がある。二つ目はトランプとのラインとコミュニケーション。USTRのある高官が、「ナバロは(国際貿易法あるいは交渉戦術などに関して)全くの役立たず、だがトランプが理解出来る言葉で喋る」と言ったことが印象的である。つまり、ライトハイザーは知的レベル・説明が高度過ぎてトランプに理解あるいは共感されない。そこで重要なのがクシュナーの存在である。クシュナーはトランプから信頼されているだけでなく、トランプが理解できる口調で説明が出来る。中国はクシュナーとパイプがあり、彼が貿易交渉に加わることは中国にとって最重要事項と考えられ、土壇場で彼がまとめ役になるであろう。実は北朝鮮とのパイプも当初中国経由でクシュナーに連絡、クシュナーがポンぺオに橋渡しした経緯があると関係者から聞いている。来月にも始まる日米貿易交渉においてクシュナーは役立つ存在で、可能であれば協議への参加を要請すべきと考える。日本は優秀な貿易交渉チームがある上に、幸いにもクシュナーに匹敵する存在が居る、それはShinzo。それでも、クシュナーを巻き込み、彼を友好的に活用することで日米貿易交渉の成功には重要と考える。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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