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ジョセフ・クラフト 特別レポート

米中貿易交渉の進展に期待が持てない五つのポイント

掲載日:2018年11月20日

ムニューシン米財務長官が貿易摩擦の緩和を模索するため中国の劉鶴副首相と9日に電話会談したとの報道を受けて米中関係が進展するのではと一部市場関係者の間で期待が高まっている。残念ながら小生は期待が持てない。その背景には下記のポイントを挙げたい。

ポイント① トランプは「Pillsburyドクトリン」を共有
      ~ トランプが求めるものと習近平が妥協できることの隔たりは大きい。

ポイント② ムニューシンじゃなく、ライトハイザーに注目
      ~ トランプ政権の真の貿易交渉人は誰?

ポイント③ ナバロのウォール街批判はトランプらの代弁
      ~ トランプはムニューシンを信用していない。

ポイント④ 北朝鮮が中国の最大の交渉カード
      ~ トランプは北朝鮮で壁にぶち当たっている

ポイント⑤ 見込める最良の結果は貿易交渉のフレームワークに限定

ポイント① トランプは「Pillsburyドクトリン」を共有

対中関係においてトランプ政権の目標は単に貿易赤字削減や製造業雇用増では無く、経済(軍事)において世界一の座に就かせないことである。具体的に言うと「Made in China 2025」を阻止、断念させることである。USTR(米国通商代表部)とNSC(アメリカ国家安全保障会議)は中国のハイテク技術略奪を深刻に捉えており、アメリカ(共和・民主問わず)の対中政策が根本的に変わったことを認識しなければいけない。その政策転換の軸となっているのが、ハドソン研究所のマイケル・プルズベリー中国戦略センター所長の思想・持論である。ご存知と思うが、同氏は「The Hundred-Year Marathon: China's Secret Strategy to Replace America As the Global Superpower(邦題:China 2049)」、=「100年マラソン」と題した本で、中国が世界覇権を握るための秘密戦略を紹介した。ピルズベリー氏の思想をトランプが受け入れた証拠は中間選挙後の記者会見ではっきり確認できる。下記にトランプの発言を紹介する。

Nov 7th Press Conference: Trump Comments on China

l "China has come down tremendously. Tremendously. China would have superseded us in two years as an economic power; now, they're not even close."

l "China '25" is very insulting, because "China '25" means, in 2025, they're going to take over, economically, the world. I said, "That's not happening."

l "Billions of dollars will soon be pouring into our Treasury from taxes that China is paying for us. And if you speak to Mr. Pillsbury, who probably is the leading authority on China -- saying he has never seen anything like it. And you know who else hasn't? China hasn't."

ここで主張したいのはトランプ政権が求める「China 2025」の断念は習近平体制の崩壊に繋がりかねず、中国は到底受け入れられるものでは無い。もはや単にアメリカの農産品や防衛品を買えば済む問題では無くなった。両社の溝を埋めるのは容易なことでは無い。

ポイント② ムニューシンじゃなく、ライトハイザーに注目

10月初旬にUSTRの高官に中国との貿易交渉は進展しているのかと尋ねたら、「中国とはもともと交渉していない」と言い返された。その趣旨は、トランプから唯一貿易交渉を任されているのはライトハイザーとのこと。ロス商務長官は退任間近。クドローNEC委員長は(トランプに言えないまでも)自由貿易主義。それ以上にムニューシンはトランプから「Globalist/Gary Cohn」派と位置付けられており、信任が薄い。そこで今回ムニューシンが手掛ける中国との交渉に関して二つの疑問を抱くべきと考える: ①何故信任の薄い者が交渉を担っているのか?そして②何故商務・通商閣僚では無く財務長官なのか?ムニューシンが中国に軟化的な姿勢を示せば、また5月のようにトランプに否定されるリスクは大いに考えられる。USTRの高官に「何故ライトハイザーは交渉に入らないのか?」と尋ねたら、ライトハイザーは現状を「政治的チキン・ゲーム」と見なしており、この時点で率先して入るのは有益でないと考えているとのこと。貿易交渉の前に、先ずトランプに中国との長期的戦略(所謂ピルズベリー思想)を説得・植え付けることが大事と考えているのでは?USTR高官曰く、中国との交渉に関してライトハイザーはトランプからGo Signが出るまで表立って出てこないとのこと。ムニューシンよりトランプを良く理解出来ているように思う。

ポイント③ ナバロのウォール街批判はトランプらの代弁

大抵、ナバロ通商製造業政策局長の発言に耳を傾けないようにしている。しかし、先週金曜日のCSIS(戦略国際問題研究所)で行ったスピーチは注目に値する。何故ならば、ホワイトハウスに精通しているウォール街の大物投資家曰く、あのスピーチはトランプの不平不満を代弁しているとのこと。取り分け中国との交渉がメディアにリークされたことに苛立ち、ウォール街を中心とする中国との貿易推奨派らの介入と位置付けているらしい。ナバロはウォール街を名指で批判、トランプが中国との貿易交渉を前向きに進める考えを持っているようにはとても解釈できない(下記参照)。政権発足当初、ウォール街出身者はトランプ政権で影響力を有していたが、今や存在感は乏しい。正しくウォール街出身のムニューシンがトランプの信任を得て交渉に入っているとは思い難い。

Nov 9th Navarro's CSIS Speech Comments

l "Their (globalist billionaires) mission is to pressure this president into some kind of deal. No good could come of this."

l "Simply buying more American soybeans and coal won't satisfy the Trump administration. We need structural change in the Chinese economy."

l "Wall Street, get out of those negotiations...Bring your Goldman Sachs money to Dayton, Ohio, and invest in America."

ポイント④ 北朝鮮が中国の最大の交渉カード

中国は貿易交渉を優位に運ぶ有効的なカードは少ない。更に状況を悪化しかねないのは、トランプが下院のアイオワ1と3区を失ったことである。アイオワは中国が反トランプ広告を掲載したところでもあり、トランプは相当根に持っているらしい。そこで効果的なカードが北朝鮮。トランプは金正恩との良好な関係を主張するも、非核化交渉が全く進んでいないのが現状である。北朝鮮は表立ってトランプを煽て、持ち上げるものの、水面下ではポンぺオをコケに扱っている。ポンぺオだけでなくボルトンまでもが強い不信感を抱いている。トランプ政権は北朝鮮に関して壁にぶち当たっているようだ。そこで、中国が再び北朝鮮に圧力を掛け、非核化交渉が軌道に乗れば、トランプも関税の延期など貿易姿勢を多少軟化させる可能性は考えられる。そもそも中国が北朝鮮にどこまで影響力を堅持しているか疑問はある。トランプとして北朝鮮は任期中(2020年)に解決したい短期の重要事項で、中国はより長期的戦略と位置付けていると理解している。

ポイント⑤ 見込める最良の結果は貿易交渉のフレームワークに限定

それではブエノスアイレスでのトランプ・習近平会談から何も無いのか? あまり期待はできないが、進展があるとすれば今後の貿易交渉を協議するためのフレームワークづくりかもしれない。9月末に日本と合意した貿易協議の声明文に似たものかもしれない。しかし、今からG20までにそのような合意が出来る時間は無いと思う。従ってフレームワーク協議に今後入るアナウンスぐらいに止まるのではないかと推測する。それでも、市場は好意的に受け止めるであろう。いづれにせよ、上記で述べたように米中貿易交渉が真に進展するかどうかはライトハイザーに注目すべきと主張する。

【筆者プロフィール】

ジョセフ・クラフト 
SBI FXトレード株式会社 社外取締役

【略歴】
1986年6月 カリフォルニア大学バークレイ校卒業
1986年7月 モルガン・スタンレーNYK 入社
1987年7月 同社 東京支社
為替と債券トレーディングの共同ヘッドなどの管理職を歴任。
2000年以降はマネージングディレクターを務める。
コーポレート・デリバティブ・セールスのヘッド、債券営業
そしてアジア・太平洋地域における為替営業の責任者なども歴任
2007年4月 ドレスナー・クラインオート証券 入社
東京支店 キャピタル・マーケッツ本部長
2010年3月 バンク・オブ・アメリカ 入社
東京支店 副支店長兼為替本部長
2015年7月 ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役 就任
現在に至る

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