リーマン・ショックからの教訓

2012/09/10

特別レポート

連休中の日本市場、その間隙を突くように、衝撃的なニュースがマーケットを駆け巡った。いわゆる「リーマン・ショック」である。巨大証券会社、そして名門投資銀行リーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)適用を申請。
リーマン・ショック前後ではグローバルマーケットのパラダイムがまったく変わってしまった。現在の視点から見ると意外に思われるかもしれないが、マーケット参加者にとってはこのリーマンの破たんはある程度、想定内のことではあった。
それゆえに、当然、株、為替、債券、商品とあらゆるマーケットが「リーマン破たん」のニュースを受けて大きく下落はするものの、ある程度織り込み済みの材料と受け止められ、後に見られるようなパニック的な動きを見せたわけではなかった。

「リーマン・ショック」が本格的にマーケットを壊し始めたのは、数日たってからである。リーマン・ブラザーズと取引のあった会社にとって、当然リーマン破たんにより多大な損失を被ってはいるが、マーケット全体の規模を考えると微々たる物であった。本当に怖いのは、人間の心理である。2008年の3月にはベア・スターンズが信用不安によりマーケットから資金を調達できずに突然死、このときはJPモルガン・チェースによる救済が行われたのだが、リーマンには救済スキームが用意されなかった。ベア・スターンズと同様にマーケットからの資金調達能力の低下に起因していたことから、同様の破たんリスクをマーケットは警戒し始める。金融機関同士で「次はどこだ?!」との疑心暗鬼が蔓延し始めた。各金融機関で資金調達が困難な状況になり始め、それぞれがカウンターパーティーを信用することが出来なくなり、経済の血流である、お金の流れが徐々に止まっていった。そうなるとパニックは加速度的に拡大した。レートを出さない金融機関もあるなど、金融市場は異常事態の様相を呈しはじめた。マーケットが突発的に動いた際に一時的に流動性が消えるということは、雇用統計発表直前等でも見られる現象であるが、このときは終日、そのようなマーケット環境が続く異常さであった。

外銀資金担当マネージャーのコメント
「ドル市場は壊滅状態。資金の出し手がいなくなり、翌日物以外は取引が皆無となっている。レートが高い、安いという状況ではなく、レートそのものが存在しない。」


リーマン・ショック後の各マーケットの動きを数字で振り返ってみる。

高値安値値幅
ドル円108.03(9/19)87.14(12/17)20.89円
ユーロ円156.84(9/22)113.64(10/27)43.20円
ポンド円197.45(9/24)139.04(10/24)58.41円


この状況下で、顧客提示スプレッドをワイドにするなどの対応を取らざるを得ないFX業者も出てきた。ある業者ではドル円のスプレッドを通常の4倍、その他クロス円もスプレッド10銭前後とワイドになった(資料①参照)。

rate.png資料①


また、カバー先の少ない業者、ラインの乏しい業者ではレートもワイドにした上、スワップポイントに関しても資料②のように、売り買い共に支払いとなる業者もでてきた。


2008年9月19日スワップポイント

USDJPY EURJPY AUDJPY GBPJPY ZARJPY
A社 100 -100 -150 -161 -100 -112 30 -45 -100 -200
B社 180 -180 30 -30 90 -90 220 -220 38 -38
C社 155 -154 99 -98 156 -157 231 -232 43 -44
D社 100 -100 40 -40 70 -70 150 -150 39 -39
E社 194 -200 15 -24 159 -170 204 -224 38 -45
F社 70 -84 50 -63 154 -155 220 -221
G社 48 -49 45 -46 154 -155 220 -221
H社 43 -43 148 -148 146 -146 220 -220 30 -30
I社 90 -93 64 -70 100 -100 200 -215 34 -44
J社 50 -80 -100 50 -100 50 100 -150 30 -75

資料②


当時リーマン・ブラザーズをメインバンクにしていたFX業者は資金回収が出来ず、2億円を超える返還遅延が発生した。またレートの配信が不安定になったことから数億円の損失を出す業者なども出るなど影響は広範囲に及んだ。
リーマン・ショックからの教訓


SBI FXトレードのカウンターパーティーであるSBIリクイディティ・マーケットは、リーマン・ショック深刻化しつつあった2008年11月から為替市場機能の提供という業務を開始した。そうであるからこそ、マーケットにおける「信用」の重要性を強く認識している。その結果、世界でも例を見ないカウンターパーティー25社というオペレーション体制を確立させている。

「信用」が急速に収縮するマーケットにおいて、流動性の枯渇という異常事態はいつでも起こりえる。そうなると、個人投資家へ市場を提供するための基盤が消滅してしまう。そういった状況から自らを守るために、スプレッドを拡大させるFX業者が多い。異常なマーケット状況であれば、インターバンクのカウンターパーティーからのスプレッドも広がることが起こり得るために、ある程度のスプレッド拡大は許容されるかも知れない。しかし、ここぞとばかりに常識を外れたスプレッドを提示、または、マーケットの流動性低下を建前にいわゆる「ストップ狩り」といわれる卑劣な行為を行うFX業者も多々存在する。一方的なスプレッドの拡大のみならず、中にはあろうことか、スリッページ等、目に見えない操作による約定拒否といった対応を取る業者も存在する。銀行間の取引が行われるインターバンクならまだしも、「ストップロス」、「レバレッジ規制」といったルールが課せられる個人投資家向けの為替証拠金取引においてのスプレッドの拡大は、作為的なストップロスにつながる可能性が高まる。FX業者がスプレッド拡大というリスク回避手段を取るということは、そのリスクを安易に個人投資家に転嫁しているに過ぎない。それゆえに、SBIリクイディティ・マーケットとしては、明確なスプレッドポリシーを設けて、「個人投資家へのリスク転嫁につなげない」という姿勢でグループ内のFXサービスを提供している。SBI FXトレードにおいては更にその姿勢を進めて、取引金額別のスプレッドを設定し、事前に公開するという世界で初めての情報開示を行った。

リーマン・ショックという異常なマーケット環境下でオペレーションをスタートさせたSBIリクイディティ・マーケットだけに、インターバンクにおける信用を最優先しながら、その相互信頼性を構築してきた。その態勢が最も機能したのが2011年3月の震災後のマーケットだった。グループ会社のSBI証券、住信SBIネット銀行へ提供している為替証拠金取引において、安定的なスプレッドと、圧倒的な約定率の市場環境を提供し続けた実績を作り上げることができた。

そのDNAを受け継いでいるSBI FXトレードのサービスに、個人投資家の皆様には今後も期待していただきたい。
【ドル円】usdjpy.png

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あの時...9.15「リーマン・ショック」


あれからもうすぐ4年になろうとしている。
世界に激震を与えた「リーマン・ショック」から・・・
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2008年9月15日月曜日、日本は敬老の日で連休中。
「サブプライムローン問題」から端を発した世界金融危機の象徴「リーマン・ショック」、まずはこの危機が起こるまでを振り返ってみよう。
◆リーマン・ショックが起こるまで...

2000年に米国でITバブルが崩壊、ナスダック市場は大暴落となり、その後米GDPは2001年4-6月期から3四半期連続でマイナス成長を示した。これにより失業率も高まり、米財政赤字は拡大、米経済は停滞の道を進んだ。政府は大規模減税を実施、また米連邦準備制度理事会(FRB)も利下げを繰り返し経済の持ち直しを図った。

そんな中に起こった"9.11"アメリカ同時多発テロ。そしてNY証券取引所は4日間の休場を余儀なくされた。テロ後、FRBは緊急利下げを実施し、その結果2001年12月までに政策金利は6.5%から1.75%まで引き下げられた。低金利政策は2004年5月まで継続され、これがのちに不動産バブルの温床となった...

2004年6月から政策金利は引き上げに転じたが、それまで好調だった住宅価格は伸び悩み始めており、2006年頃から「サブプライムローン」という言葉が話題になり始めた。このサブプライムローンは当初から危険性が指摘されていたが、住宅価格が上昇を続ける局面では誰も警鐘に耳を傾けず、逆にこの住宅ローンは証券化され、「高格付け」を身にまとい金融商品として世界中に販売されたのである。

上昇を続けていた住宅価格が2006年に入り鈍化、それに伴い住宅価格上昇を見込んでいた債権者は、住宅価格の低下を受けて支払いが滞り、住宅金融専門会社は資金繰りが悪化、そして経営破たんする会社が出始めた。さらにサブプライムローンは証券化され、世界中の多くの金融商品に組み込まれていったため、その金融商品に対する信用リスクが世界に拡大していった。2007年半ばに「サブプライムローン問題」が表面化し、金融危機「サブプライムローン問題」という暗雲が世界を覆い始めた。
◆ 世界金融危機 時系列
2007年8月9日・・・①
フランスのBNPパリバ傘下のファンドが資産凍結を発表(パリバ・ショック)
これにより「サブプライムローン問題」がクローズアップされる。
⇒短期の資金調達が困難になり、信用収縮の兆しが・・・
為替市場ではリスク回避の動きが強まり、クロス円を中心にボラティリティが上昇する

2007年9月・・・②
ノーザン・ロック危機
英住宅金融5位のノーザン・ロックがBOEに緊急融資を要請。
これを機に、ノーザン・ロックの支店で取り付け騒ぎが起こり、株価は1日で50%の暴落。

2007年10月・・・③
メリルリンチがサブプライム関連で79億ドルの評価損を計上。
オニールCEOが解任。

2008年1月
ソシエテ・ジェネラルのトレーダー不正取引
49億ユーロの損失

2008年1月18日・・・④
米モノライン保険会社大手アムバックの格下げ

2008年3月・・・⑤
ベア―・スターンズ危機
米投資銀行5位のベア―・スターンズがものの数日で突然死。
ウォール街に流れ始めた「疑心暗鬼」により、ファンドが資金を引き揚げ、事実上破たんへ。
(のち5月にJPモルガン・チェースが救済合併)


ドル円 チャート
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NYダウ チャート
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2008年9月7日
米政府系金融機関のフレディマックとファニーメイが米政府の管理下へ

2008年9月9日
格付け会社がリーマン・ブラザーズの格付けをウォッチ・ネガティブに指定
リーマン株が42%下落

2008年9月10日
リーマン・ブラザーズと韓国産業銀行との出資交渉が決裂との報道

2008年9月12日
リーマンがバンク・オブ・アメリカに身売り交渉との報道

2008年9月15日・・・⑥
リーマン・ショック当日
リーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)適用を申請し破たん
FRBが緊急利下げとの噂同日
バンク・オブ・アメリカがメリルリンチを救済合併

2008年9月16日
米政府とFRBが米保険会社AIGに850億ドルの融資決定
米政府がAIGの株式79.9%を取得し、事実上の国有化
FOMCは据え置き

2008年9月18日
英銀行ロイズTSBが英HBOSを買収、救済合併

2008年9月21日
ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持株会社に移行を発表

2008年9月25日
ワシントン・ミューチュアルが破たん
JPモルガン・チェースが買収

2008年9月29日・・・⑦
米下院が緊急経済安定化法案を否決
これを受けてNYダウは史上最大の777ドル安

2008年9月29日
モルガン・スタンレーに三菱UFJフィナンシャル・グループが出資

2008年10月1日
米上院で緊急経済安定化法案可決

2008年10月3日
米下院でも緊急経済安定化法案可決
世界各国の金融機関同士が「疑心暗鬼」になり、信用リスクが広まり、「世界同時株安」となる。

2008年10月7日
NYダウが508.39ドル安

2008年10月8日
日経平均株価、史上ワースト3位の暴落、952円58銭安
欧米6中銀が0.5%協調利下げ
NYダウが再び暴落、678.91ドル安

2008年10月9日
ECBが過去最大規模の10兆円の資金緊急供給

2008年10月10日
中堅保険会社大和生命保険が経営破たん
日経平均が暴落 終値は前日比881.06円安

2008年10月11日
G7、5項目の行動計画を発表
ポールソン米財務長官が公的資金投入を明言

2008年10月13日・・・⑧
日米欧5中銀はドル資金を無制限供給すると発表
米大手金融機関が公的資本注入を発表
米財政赤字が過去最大の4550億ドルとなるなど米経済指標は大幅に悪化
米景気後退懸念から株価は軟調
金融機関以外の産業へも影響が広がる。特に、米自動車産業

2009年4月30日
クライスラーが連邦倒産法第11章適用を申請

2009年6月1日
GMが連邦倒産法第11章適用を申請、経営破たん

2009年11月・・・⑨
アラブ首長国連邦・ドバイの政府系金融企業の債務支払い繰り延べ要請が明らかになり金融不安が再燃(ドバイ・ショック)
ドル円は84円台に

ドル円 チャート
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NYダウ チャート
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