新興市場トピックス

2018/07/10

特別レポート

新興市場トピックス Jul 10

◇トルコリラ
 トルコリラは対円で昨日、欧州市場序盤の24円46銭から23円32銭へ大幅に下落しました。昨晩、日本時間22時30分からのエルドアン大統領が就任宣誓を行い、その中で前政権で副首相や経済担当相を務め、エルドアン大統領の政策運営を牽制していた腹心のシェムシェキ氏が閣僚から外され、財務相にエルドアン大統領の娘婿を任命したことで今後の政権運営に対する懸念がリラ急落の要因となりました。
 6月24日に行われた大統領選・議会選を通じて、長年続いた議員内閣制から大統領制へ移行され大統領権限が一段と高まっており、24日のトルコ中銀政策委員会での金融政策にも大統領の関与が及ぶ可能性も囁かれています。
 先週7月3日に発表されたトルコ6月の消費者物価指数は前年同月比15.39%と5月の12.15%から一段と上昇、インフレ高進に歯止めをかけるには利上げが必要とされますが、既に企業向け貸出金利は20%近辺に上昇しており、個人の新規借り入れが難しいとされる状況にあります。さらに昨年末時点での官民の抱える対外債務は約4500億㌦、過去15年のエルドアン大統領の長期政権下で当初から3.5倍に膨らんだことになります。トルコの外貨準備も向こう1年の資金需要の約半分(1,073億㌦)にまで減少、ドイツ公共放送は、6月21日の電子版でIMFがトルコの金融支援に備えて危機対応グループを立ち上げたと報じています。「トルコがIMFの金融支援を受ける!」といった報道が現実となればトルコリラは一段と下落する可能性を指摘する声もあるだけに、注意が必要です。

◇英ポンド
 前日のデービスEU離脱担当相の辞任に続き、昨晩はジョンソン外相が辞任するなど、EUからの明確な離脱を主張してきた英メイ政権の主要閣僚が政権を去る異常事態に発展しました。こうした動きにもかかわらず、英議会はメイ首相の不信任決議は行わないとしており事態の行方を見守る状況にあります。メイ首相はデービス前EU離脱担当相の後任にEU懐疑派のドミニク・ラーブ議員の若手を登用すると発表し、引き続き政権運営、EU離脱交渉に前向きな姿勢を示しています。
 メイ首相の不信任決議を行わない議会の一方、EU離脱後もEUとの緊密な経済関係を主張する首相の方針に反発する与党議員も多く、党首選を行うよう求める動きも見られており引続き英国の政局を巡る不透明感が残ることになりそうです。EU離脱担当相を辞任したデービス氏は新党首に名乗りを上げることは間違っているとして党首選の可能性を否定している一方、外相を辞任したジョンソン氏はキャメロン前首相が辞任した2016年6月の党首選で直前に立候補を見送った経緯があるだけに党首選の可能性もあり、引き続き今後の動向次第ではポンドが対ドル、対ユーロ、対円で上下大きく動く可能性がありそうです。


新興市場トピックス Jul 9

◇トルコリラ
 昨日8日、トルコ政府はテロ集団と関わりがあるとする約1.8万人の公務員を免職しました。一昨年のトルコ軍の一部によるクーデター未遂事件後にエルドアン大統領が継続している粛清の一環で、本日のエルドアン大統領の正式就任を前に処分が発表されました。粛清の発表は官報で行われ約9000人の警察官や約6000人の軍関係者、さらには約1000人の法務省職員が含まれており、こうした粛清に対する反発がエルドアン政権に対する不満爆発につながるか今後の動向に注意が必要かもしれません。さらに本日正式に大統領に就任するエルドアン大統領がトルコ中銀への金融政策への関与を強める可能性もあり、トルコリラの動向が注目されます。
 エルドアン大統領は低金利政策による緩和マネーをベースに建設投資を拡大させ、消費拡大を軸にトルコ経済の成長戦略を描き実行してきました。しかし米FRBが金融政策の正常化から引締め局面へと政策転換への道のりを進めるなど外部環境の変化に対応できないまま、外貨準備(1,073億㌦=5月時点)は経常赤字を加えた向こう1年の資金需要(約2000億㌦)を大きく下回っています。トルコリラは昨年9月に1㌦=3.4㍒にあった水準から先月には4.7㍒台へと対ドルで大きく下落しています。
 今月24日のトルコ中銀政策委員会で追加利上げは避けられないと見られる中でエルドアン大統領が金融政策について利上げに否定的な見解を示すことになればリラ安が再燃しかねないだけに注意が必要です。一方で急速な利上げの影響により企業への貸出金利は20%を上回っており、家計部門を見ても新規の借り入れが困難な状況になっているとも伝えられています。さらに来年のトルコ経済はマイナス成長に転じる可能性も懸念されるなど、国民の不満が高まりかねないだけに今回の公務員解雇などの強硬姿勢が政権の不安定要因となるか要注意かもしれません。

◇南アランド
 先週末発表の米6月雇用統計で時間給賃金が市場予想を下回るなど伸び悩みが確認されたことから、賃金上昇を背景にしたインフレ加速への懸念が後退しました。FRBの金融政策は緩やかな利上げペースに留まるとの見方が優勢となったことで新興国市場からドルへの資本流出懸念が後退したことも影響し、ランドは対ドルで13.50ランドへ4日続伸しました。対円でも5日移動平均線(8.14ランド)を下値支援に8.20ランド台へ続伸していり、上昇を続ける5日移動平均線に沿った上昇基調を続けるか目安となりそうです。

◇資源国通貨
 先週末のNY原油先物市場、OPECが足元で産油量を拡大しているものの、イランやベネズエラ、リビアなどの供給減を十分に補えるかどうか懐疑的な見方も根強く、73.80㌦と前日から上昇して取引を終えています。サウジアラビアには産油量を拡大する余力があるものの、厳しい制裁が科されているイラン産原油の供給減を十分に埋め合わる可能性は限定されるとも見られており、原油価格の上昇基調は継続すると見られています。
 こうした中でカナダは対ドルで1.30カナダへ上昇、豪㌦も0.74㌦台へ上昇しています。先週末発表された6月米雇用統計が賃金上昇の鈍化を示し、米利上げが緩やかなペースに留まるとの見方もドル売りに反応しています。


新興市場トピックス Jul 6

◇豪ドル
 昨日の豪ドルは対ドルで0.7362㌦から0.7408㌦の値幅の中、0.73ドル台後半を中心にした値動きに終始しました。本日、日本時間の午後1時過ぎに発動される米国の対中貿易関税に対し、中国も米国からの輸入品に報復措置発動が確実視されるだけに、米中貿易戦争への懸念が高まり、昨日の上海株は2016年3月以来2年4ヵ月ぶりの安値を更新しています。
 豪州の貿易輸出相手国の1位が中国で輸出全体の29.5%、次いで日本が19.3%となっているほか、輸入相手国も中国が18.4%、次いで米国の11.5%、日本が7.9%と続いています。輸出品目別にみると鉄鉱石が輸出全体の22%超、石炭が16%超と資源の輸出比率の高さが特徴です。 豪政府は2020年にかけて鉄鉱石価格が10%程度下落するとの見通しを示すなど、豪州経済への下押し圧力が増大しているほか、米中間の貿易問題、さらには米国との金利差拡大の観測も豪ドルの長期的な下押し要因となっています。

rando

rando

 豪ドル・円は3月23日の80円50銭を下値に84円台半ばからの上値が重く、6月19日には80円63銭、さらに6月28日には80円68銭まで下落するなど3月に付けた年初来安値の80円50銭を割込むのか注目されます。対ドルでも7月2日に0.7310ドルと昨年1月以来の安値を付けて以降、7月4日には0.7424ドルへ反発したものの0.73ドル台後半で次なる方向感を探る様子見姿勢を強めています。米中の関税発動が中国経済にどのような影響を及ぼすのか、結果次第で豪ドルは対ドル、対円で大きく振れる可能性があるだけに注目です。


新興国通貨トピックス Jul 5

◇南アフリカランド
 昨日発表された南アフリカ6月スタンダード銀行PMIが前月(50.0)から50.9へ改善しました。中でも民間部門が今年2月以来の改善となったほか、新規受注も前月(50.6)から51.3へ改善、さらに雇用指数も前月(50.2)から51.3へ改善したことが指数全体と押上げ、3ヵ月ぶりに前月比上昇に転じました。一方で輸出が減少したほか、原油価格の上昇によるインフレも懸念されています。
 好不況の節目となる50.0を2月以降5ヶ月連続で上回っているものの、明日6日に米中両国が追加関税を発動することから、南ア経済にどの程度の影響が及ぶのか注目されます。

rando

 ランド円は6月19日に7.8742円まで下落し昨年11月以来の水準へ下落、その後6月22日に8.1939円まで反発したものの、6月28日には7.8856円まで下落しました。しかし、6月19日の7.8742円を割込んでランド安・円高が進まずに反転しており、6月22日の高値8.1939円を上回ると底打ちのシグナルとなりダブル・ボトムが形成されます。
 来週12日発表される鉱物生産量や製造業生産、さらに再来週18日の消費者物価指数や小売売上高、そして19日の南ア中銀の政策委員会(現状:6.50%)での景気や物価見通しの行方が注目されます。

rando


新興国通貨トピックス Jul 4

◇トルコリラ
 昨日発表されたトルコ6月消費者物価指数は食料品価格や交通費の上昇を背景に5月(前年同月比+12.15%)から+15.39%へ上昇しました。トルコ中銀は4月以降、リラ安を阻止する目的で複数回の利上げを実施していることから、インフレ高進を阻止できるほどの更なる金融引き締めには踏み切れないとの見方から、リラ売りに反応しています。また、大統領選再選を果たしたエルドアン大統領は以前から利上げに否定的な見解を示しており、トルコ中銀への利下げ圧力と高めるのではとの憶測も聞かれています。

rando

rando

 エルドアン大統領は来週8日に就任宣誓を行い、本格的な政権運営がスタートしますがトルコ中銀への積極的な関与も含め大統領権限の拡大を主張しており、金融政策を巡りトルコ中銀との対立を深めることになればトルコリラは再び不安定かつリラ安につながる懸念も聞かれています。低金利政策を掲げ昨年7.4%の成長率を遂げたものの、原油高の影響から経常赤字の拡大が続く中、昨晩のNY原油価格は一時3年半ぶりに75㌦台へ上昇しており、これまでの厳しい財政運営がさらに悪化する懸念も聞かれています。約4500億㌦に達する多額の対外債務を抱える中で、年率12%もの高インフレを招いています。
 エルドアン大統領の下、長年続けてきた緩和的金融政策による財政拡大を続けることができるのか先行き不透明感が意識されるだけに、トルコリラの下落基調再燃の可能性には注意する必要がありそうです。


新興国通貨トピックス Jul 3

◇インドルピー・ブラジルレアル
 根強い世界的な貿易摩擦への懸念を背景として、中国元を中心に他のアジア通貨が総じて軟調だったことも重石となりインドルピーは対ドルで1ドル=68.79ルピーと2013年8月以来およそ5年ぶりの安値となったほか、対円でも1ルピー=1.609円とルピー安・円高となっており、米トランプ政権の貿易問題が中国経済、さらには新興国経済に影響を及ぼしていることが明らかとなっています。
 ブラジルレアルも1ドル=3.9103レアルとドル高・レアル安と6月7日以来、約1ヶ月ぶりの安値水準へ下落したほか対円でも28円34銭とレアル安・円高が進んでいます。昨晩発表されたブラジルの6月製造業景況感指数が49.8と前月(50.7)から低下、好不況の節目とされる50.0を割込んでおり、景気減速への懸念が高まっているだけに注意が必要。

◇南アフリカランド
 南アフリカ・ランドもインドルピーやブラジルレアル同様に対ドルで軟調に推移し、1ドル=13.865ランドとドル高・ランド安となり、先週6月28日に付けた昨年11月以来の安値に接近するなど軟調な値動きとなりました。昨晩発表された南アの6月製造業景況感指数が47.9と前月(49.8)から低下、好不況の節目とされる50.0を2ヶ月連続で割込んでおり、景気減速への懸念が高まっています。南アの製造業は通常の製造業や建設業のほか、鉱業、電力、ガス、水道産業など先進国の製造業指数の構成と異なる面があります。
 特に南アでは先月から続く大手電力会社の賃金交渉を巡る労使間の対立から停電が続いたことも影響しているようです。6月5日に発表された南アの1-3月期GDPは鉱業と製造業の落込みが影響し前期比年率-2.2%と9年ぶりの大幅な減速となっており、4-6月期に大幅な 反発も厳しい結果となるとの見方もあり、こうした点もランド安に影響しているようです。

rando

 対円でも一時7.9585円までランド安・円高となり、前日に3日ぶりに反発した流れは持続できませんでした。引き続き日足・転換線(8.0397円)や5日移動平均線(8.005円)が上値抵抗として意識される値動きが続いているだけに他の新興国通貨の動向と合わせて注目されます。


新興国通貨トピックス Jul 2

◇トルコリラ
 6月24日のトルコの大統領選ではエルドアン大統領が再選を果たし、議会選でも与党主導の政党連合が過半数を確保したことで政治的な安定を背景にトルコリラは対円で堅調に推移、先週末には24円24銭まで上昇しています。今後、トルコ経済の安定を図ることが出来るのか、この点に市場が注目しています。
 エルドアン大統領は来週8日に就任宣誓を行い、組閣、さらには省庁再編も視野に入れ本格的な政権運営がスタートすることになります。こうした中でエルドアン大統領が経済政策の司令塔的な役割を誰に託すのか人事が注目されます。市場ではムシュキ副首相を要職で起用すると言われるほか、著名経営者を人選に充てるとの観測も聞かれています。さらに、エルドアン大統領が金融政策への関与を強く主張する中、トルコ中銀がリラ下落に歯止めを掛ける目的で4月以降相次いで利上げを実施しており、中銀と大統領との対立が深まればトルコリラは再び不安定かつリラ安につながる懸念も聞かれています。
 低金利政策を掲げ昨年7.4%の成長率を遂げたものの、原油高の影響から経常赤字の拡大に加え、年率12%もの高インフレを招いています。対外債務も約4500億㌦に達する中で向こう1年の資金需要は2200億㌦と厳しい財政運営が続いています。その大半を海外の金融機関からの借入れに頼っているだけに借入れが滞る事態となればトルコ経済の屋台骨が揺らぎかねず、従来のような緩和マネーに頼る財政拡大政策にも無理があるとの懸念も聞かれます。現状では比較的安定的に推移するトルコリラですが、嵐の前の静けさに過ぎないのか、来週以降も堅調地合いを継続できるのか注目です。

◇メキシコペソ
 大統領選では左派候補のオブラドール元メキシコシティー市長が出口調査で48.5%と次点のアナヤ候補の27.5%をリードしており、90年に渡る既成政党による政治体制に終止符が打たれることとなりそうです。オブラドール候補はトランプ大統領のメキシコに対する強硬姿勢に反発する意向を表明しており、のNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉がスムーズに進むのか、懸念する声も聞かれているだけにメキシコ株式と同時に通貨ペソの反応が注目されます。

◇南アフリカランド
 南アフリカ・ランドは1ドル=13.7055とドル安・ランド高と3日ぶりの反発した。対円でも8.0847ランドと反発、前日に昨年11月以来となる7.8856ランドまでランド安・円高が進んだ反動やポジション調整もあり終日堅調に推移しました。先週末発表された南ア5月の貿易収支は35億ランドと市場予想(58億ランド)を下回った一方、4月の12億ランドから増加したこともランドの支援材料となりました。しかし米国を中心にした貿易問題の影響に加え電力会社の労使間賃金交渉を背景にしたストライキによる停電が南ア経済の減速につながるとの懸念も根強く、上値の重い展開が続いています。ランド円は少なくとも5日移動平均線(8.0392ランド)を下値支援となることを確認できるか当面のポイントとなりそうです。
 今週は今晩18時に発表される6月製造業PMI(景況感指数)を終えると来週12日までは経済指標も予定されておらず米中貿易問題による影響を睨みながら神経質な値動きとなりそうです。


提供:SBIリクイディティ・マーケット株式会社

お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。 また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。 本レポートに表示されている事項は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。