米雇用統計特別レポート

掲載日:2018年12月10日

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2018年11月米雇用統計(12月7日発表)結果

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前回値 予想 結果
非農業部門就業者数(万人) 25.0万人増⇒23.7万人増 19.8万人増 15.5万人増
失業率(%) 3.7% 3.7% 3.7%
時間給賃金(前月比) 0.2%⇒0.1% 0.2% 0.2%
時間制給賃金(前年比) 3.1% 3.1% 3.1%

◇11月雇用統計のポイント

・時間給賃金は前月に続き前年比+3.1%と2009年4月以来9年半ぶりの高水準を持続
・就業者数は政府系、建設業、一部小売での伸び悩みを背景に鈍化、
・製造業の就業者数は2.7万人増、ヘルスケアは3.2万人増と好調を持続
・1969年以来48年ぶりの低水準である3.7%の低失業率水準を3ヵ月継続
・12月利上げ観測に変更なし、来年以降のFOMCで「漸進的利上げ」文言削除の観測

本当に悪い?! 米11月雇用統計

9月以降、3ヵ月連続で3.7%と1969年以来48年ぶりとなる3.7%の低失業率を継続する米国の労働市場は極めて良好との印象だ。しかし、就業者数が市場予想の19.8万人増に対し15.5万人増、さらに前月10月も25.0万人増から23.7万人増へ下方修正される結果に、米国の景気減速懸念が高まった!との判断から米長期金利が低下し、ドル円は伸び悩むこととなったが、果たして市場の判断は正しいのだろうか?確かに雇用統計を見る上で、景気の過熱感やインフレの加速といった点に焦点を当てる状況まで「ハードル」が上がっているだけに、厳しい見方は決して誤りではないだろうが、完全雇用といわれる状況下、就業者数の伸び悩みは否めないと思われます。一方、時間給賃金は11月の26.29㌦から27.35㌦へ6セント上昇、前月に続き前年比+3.1%と2009年4月以来の高水準を2ヶ月連続で維持しています。しかし、前月から上昇しているもののレジャー産業では16.19㌦、小売の一角では19.03㌦と低賃金の一方、鉱工業や林業などでは32.97㌦、金融関連では35.17㌦、情報関連で40.72㌦とバラつきがあり、就業者数が相対的に多いとされる小売などで20㌦割れの状況となっており、こうした業者でも賃金の上昇が顕著になるか、幅広い分野への広がりを見せるのか注目されます。今後も対前年比での賃金上昇や低失業率の状況が継続するのであれば、FRBの金融政策も極端に弱気になる必要もなく利上げ継続の可能性も残しているといえると思われます。しかし、ポイントは米国と中国との貿易問題が今後一段と深刻化するのか、12月1日の米中首脳会談で米国が課した①技術移転強要の是正、②知的財産権侵害の是正③非関税障壁撤廃など6つの分野に及ぶ課題に対し、中国が90日以内に推進することができるか、米国が新たに賦課関税へと動くことになれば中国のみならず米国経済にも影響が及ぶことから、当然、労働市場への影響も避けられないと見られています。こうした懸念が米国の株式・債券市場にも影響を及ぼしているだけに経済指標以上にトランプ政権の通商政策の行方を見極めていく必要がありそうです。


米時間給賃金 前年比(%) 前月比(%)

米時間給賃金 前年比(%) 前月比(%)




FRBは12月FOMCで利上げ、来年の利上げペースは?

11月の雇用統計を受けて12月18-19日のFOMCでの利上げ観測は維持されておりFRBは今年3月、6月、9月に続く今年4回目の利上げに踏み切ると見られています。歴史的低失業率が継続していること、対前年比での時間給賃金が2カ月連続で3.1%の高水準を記録したことが大きな支援材料となっていると思われます。就業者数は伸び悩んだものの、完全雇用の状況下で今年1月以降11月までの平均でも20万人増を上回る水準を維持していることも評価される点かもしれません。


米非農業部門就業者数(万人) 失業率(%)

米非農業部門就業者数(万人) 失業率(%)

注目はドットチャート

9月FOMCでは16人のFOMCメンバーの内、12人が年内(12月)の利上げを想定していたほか、来年に3回の利上げを想定していることが明らかになりました。しかしそもそもドットチャートは、FOMCで委員が話合いを行った結果を踏まえて、各委員が政策金利見通しを示すものではなく、(誤解され易いポイント!)各委員が政策金利見通しを持ち寄って、強気な見方を示す委員、やや弱気な見通しを示す委員などの見通しを持ち寄って、議論の進行に役立てるものです。
今回の雇用統計では、12月の利上げ見通しに変更はないものの、来年の金融政策を占う上で、9月に示された来年3回の利上げ見通しが年2回、もしくは年1回に下方修正されるのか、さらには声明文から「漸進的な利上げ」との文言が削除されるのか注目されると同時に、政策の柔軟性(経済指標次第、原油価格次第、米中貿易問題の影響次第など)についての言及も注目されます。また、来年のFOMCから毎回、パウエルFRB議長の会見が予定され、より市場との対話を深めると予想されるだけに、今回18-19日のFOMCが年末から年始にかけての相場を占う上で注目されます。



9月のドットチャートと経済見通し

9月のドットチャートと経済見通し


雇用統計を前後したドル円の動き

雇用統計を前後したドル円の動き

提供:SBIリクイディティ・マーケット株式会社

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